世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1522
世界経済評論IMPACT No.1522

日本経済再発展のための経済政策:日本は財政投資で成長して来た

三輪晴治

((株)エアノス・ジャパン 代表取締役)

2019.10.28

世界経済のカオス

 世界的な経済停滞の中で経済社会が大混乱してきている。イギリスのEUからの離脱,ヨーロッパの難民問題,トランプの仕掛ける米中貿易戦争,イラン紛争,日韓紛争などが起こっている。フランス経済もおかしくなり,マクロンは黄色いベスト運動のなかで国民に対する大減税を発表し,輸出に頼ってきたドイツ経済も中国経済の衰退でおかしくなってきている。好景気が続いてきていると言われてきたアメリカも実体経済がおかしくなってきており,そのためにトランプは貿易赤字を削減しようと躍起になっている。中国経済も実態はマイナス成長で,危機的な状態になっている。世界のGDP合計の4倍の金が世界でうごめいている。いずれこの実体経済から離れた過剰な金は金融大恐慌により,整理されることになる。こうした世界経済の大混乱は,グロ―バル化の行き過ぎのために起こったが,世界が新しい経済の枠組みに変わっていく前のカオスの中に今あるのであろう。

しかしその中で日本は,ギネスブックに登録されそうな長いデフレで経済は衰退し,大変深刻な状態にある。国のリーダーも,産業も,国民も鬱状態になり,気力を失い,国の衰退を待っているかのような状態だ。

 日本が,この長いデフレでから抜け出し,経済の再発展をするには,どんな経済政策でそれを成し遂げるべきかを明らかにし,そしてそれを実行しなければならない。

アダム・スミスの知恵

 アダム・スミスは,1776年『An inquiry into the nature and causes of the Wealth of Nations』を書いた。この書には二つのことが明記されている。「その第一は,国民に豊富な収入または生活資料を供給すること,つまり国民が自分のためにこのような収入または生活資料を自分で調達しうるようにすること。第二は,国すなわち共同社会に,公共の職務を遂行するのに十分な収入を供給することである」,「経済学は人民と主権者との双方を富ますことを意図している」。

 スミスは,国家(State)という船に乗った国民(Nation)というとらえ方をしているが,彼は,国という船だけが立派になって,乗組員としての国民が疲弊するようなことにならないようにすべきだと言っているのである。中国の菅子も,政治の要諦は,庶民の苦労を除き,生活を豊かにし,安全を図り,繁栄を図ることだと言っている。今日の日本においては,その上に,国として広い意味での「国防力」をどのようように強化するかを明確にしなければならない。

 アメリカは,「合衆国憲法」のもとで,20世紀の経済発展のなかで1940年から1980年の「黄金時代」を築いたが,それは国民が豊かになれば国の経済は発展するものであることを証明した。日本国憲法には「国民には健康で文化的な最低限度の生活を営む権利がある」と明記されているが,それは叶えられていない。

日本の戦後の経済政策はどうであったか

 それではまず日本が過去40年の間に実施した経済政策が日本経済の発展にどのよう貢献したかについて,総括してみよう。全体的に見れば,どう間違えたのか分からないが,日本は経済政策を誤り,GDPの成長をストップさせ,自死に近いデフレに陥ってしまい,国民は疲弊している。

緊縮財政主義

 農業経済をベースにした江戸時代は,幕府も各藩も財政が苦しく,勘定頭の仕事は,藩の火の車の台所を,「倹約」と豪商からの借金などでやりくりするものであった。今日の日本の財務省は,その江戸時代のDNAが残り,「倹約精神」で「経理係」として国の台所の仕事をしている。財政赤字は悪と考え,緊縮財政を国是としてきた。1975年アメリカに言われて大平大蔵大臣は赤字国債を発行した時,「これは万死に値する。一生かかってこの償いをする」と言った。だからいろいろの国家プロジェクトの計画が出てもその財政投資を財務省が潰してきた。1996年の橋本内閣はコスト削減という行政改革と消費税の増税で日本経済をデフレに陥れてしまった。2012年からの第二次安倍内閣では,初年度少し財政投資をやったが,その後は異次元の金融緩和のみで,アベノミクスの「第二の矢」である財政投資はやらなかった。財務省は国のプライマリーバランスの番犬として,かたくなに財政投資を拒否し続けている。国は最近,「地方交付税」を削減したり,国立大学を独立行政法人にして「運営交付金」を削ったりして,緊縮財政を貫いている。ふるさと納税という意味のないことで誤魔化し,地方行政を劣化させ,大学の研究能力を劣化させている。

 しかし多くの人はある事を忘れている。日本は,1953年世界銀行から8.6億ドルの低利融資を受け,新幹線,高速道路,黒部ダムを建設したことである。日本はこの融資に対して,経済発展の中で,毎年着実に返済し続け,1990年7月に全ての借金を返済した。だが財務省は,赤字国債は戦争か非常事態の時以外は発行してはならないと今でも考えている。しかし22年間続くデフレは日本経済にとっては「非常事態」である。

 こうした政府の経済政策の結果,1995年から今日まで日本経済の名目GDPの伸びはゼロになり,550兆円レベルで停滞し,22年間もデフレが続いている。先進諸国では,1995年から2018年で名目GDPの伸びは,アメリカは3倍,中国は10倍,ドイツは1.8倍,イギリスは1.6倍であった。日本はゼロで,一人負けである。この違いは日本が「財政投資」をやらなかったことからきている。近年の先進諸国では,イノベーションによる大型の新産業開発を別にすれば,「GDPの伸び」と「財政投資を含めた政府支出の伸び」は強い相関関係を示している。つまり効果的な財政投資をしなければGDPは伸びないということだ。

 こうして日本は,2010年には中国にGDPで抜かれ,世界第三位の座に落ち,韓国も日本に迫ってきている。そのためか,最近中国や韓国は日本に対して言いたい放題のことを言ってきている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1522.html)

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