世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1521

混迷する中国と東アジア

細川大輔

(大阪経済大学 特任教授)

2019.10.28

 10月1日の中華人民共和国建国70周年に,習近平国家主席は毛沢東と同様中山服に身を包み過去最大の軍事パレードを観閲し,自らの力を誇示してみせた。しかしながら,香港での反中暴動は拡大の一途をたどり終息の目途が立っていない。それに呼応して台湾では,市民の一国二制度への拒否反応が広がり,来年1月に実施される総統選挙では中国と距離を置く蔡英文総統の再選が見込まれている。また,米中対立は貿易面から先端技術での覇権争いへ,さらに安全保障面にも広がりを見せており,異形な大国と世界との摩擦はますます先鋭化している。一方,中国国内では社会主義をかかげながら貧富の格差が激しく,特に石油産業などの国有企業を牛耳る共産党幹部への不満が根強い。少数民族問題では,力でねじ伏せようとする中央政府への抵抗は続き改善の兆しはない。共産党政府は問題の所在を理解しているものの,改革に踏み切ればなし崩し的に党のコントロールが失われ,かつてのソ連の道を辿ることになると考えており,上からの力による統治を継続する以外にないようにみえる。

 中国が袋小路に入り込んだ経緯を振り返ってみよう。筆者が注目するのは,2002年の第16回中国共産党大会における江沢民総書記兼国家主席が行った大会報告である。彼は冒頭で,「中国の特色ある社会主義の道に沿って『中華民族の偉大な復興』を実現しなければならない」と宣言した。さらに,2009年10月1日の建国60周年祝賀式典で胡錦涛国家主席も,演説の最後に「『中華民族の偉大な復興』という大きな目標実現」を宣言した。習近平主席時代になると,2012年11月このフレーズは挑戦的なニュアンスを弱めるため「中国の夢」と言い換えられたが,趣旨に変化はない。

 そこで問題は,「中華民族の偉大な復興」が意味する内容である。一般的には,革命を経て1949年に建国された新中国がアヘン戦争以前の,すなわち西欧植民地主義者に侵略される以前の偉大な中国に戻ることを指していると解釈できる。具体的には,第1に世界一の強国,経済大国に返り咲くこと。OECDの研究レポートによれば,1820年の中国のGDPは世界のほぼ3分の1を占めていた。19世紀から20世紀にかけて世界のパワーシフトを起こした要因は,欧州の産業革命,近代化に伴うアジアの植民地化にあるというのが中国の立場である。第2の意味は,西欧列強に侵食される以前の中国の国土を回復すること。革命後の新中国は,現実の国境線は存在するけれども,それは実効支配領域としての国境であり,「歴史上の中国」の本来の姿,たとえば清王朝最盛期の版図を想定し,一定程度の可変性,拡大性を持ち合わせていると考える。第3の意味は,中国中心の国際秩序の構築。中国は現行の国際制度とルールは西側先進国によって作られた不合理なもので,西欧列強が覇権主義を推進する手段であると基本的にみなしている。

 ただ,こうした考えを中国共産党首脳が心底もっていたとしても表面化することはなく,2000年代半ばまで鄧小平の唱えた「韜光養晦」(能力を隠して力を蓄える)の外交方針は堅持された。すなわち「対米協調」,「善隣友好」外交であり,それを具体化したのが,2001年の「中国-ASEAN自由貿易圏」構想の宣言であり,WTO(世界貿易機構)への正式加盟であり,2002年の「南シナ海における関係諸国行動宣言」の調印であった。

 ところが,2008年以降中国の外交姿勢は大きく転換する。そのきっかけとなったのはリーマンショックである。これを中国は米国経済の凋落と解釈し,自国の大国化への自信を深めたのではなかろうか。南シナ海の領有権問題でベトナムやフィリピンなどに対して強硬な姿勢を取りはじめ,日本に対しては尖閣諸島で領海侵犯を繰り返している。2016年にはフィリピンが勝ち取った国際仲裁裁判所の裁定を,「ただの紙切れ」と無視し「韜光養晦」の仮面をかなぐり捨てている。

 社会主義による平等な社会を実現できないため,経済的豊かさの実現を共産党統治の正当性にしてきたが,中国はその後「新常態」に陥り,さらなる低迷が避けられないいま,統治の正当性は「中国の夢」実現のみに掛かっているのではないか。さらに今後中国は「2つの100周年」を迎える。2021年の中国共産党成立100周年と2049年の新中国建国100周年である。中国共産党は「中華民族の偉大な復興」実現の約束を果たさねばならない。それゆえ,中国の対外政策は一時的,戦術的な妥協はあるものの,より国内を意識した強硬路線を取り続けざるを得ない。「米中新冷戦」はすでに始まっており,東アジアにおいては南シナ海や台湾海峡での緊張は今後も続くと覚悟せねばならない。

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