世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
ポストグローバル化で出現する世界の新通貨体制
(エアノス・ジャパン 代表取締役)
2019.09.23
アメリカは,1971年金本位制を放棄したニクソン・ショックのあと「石油ドル体制」を創造した。金ではなく,石油というハードカレンシーとドルをリンクさせ,石油の取引をドルで行わせ,ドルをアメリカに還流させた。石油を輸入しなければならない日本や,中国,ヨーロッパの国は,石油の購入の支払いのためにドルを稼ぐ必要があり,特にアメリカに商品を売らなければならない。アメリカは石油ドル体制で「借金」をしながら世界中の商品を買い,消費してきた。商品の代金としてアメリカの国債をあてがっている。これがアメリカの石油ドル体制である。アメリカはそのために無理やりドル価値を維持しなければならず,そうなるとアメリカ産業の競争力は低下するという悪循環に嵌ってしまっている。しかしこの石油ドル体制もアメリカの経済力劣化により,今や限界にきている。他の石油国がドルでない通貨で石油を売りたがっている。
トランプがやっている貿易戦争もこの石油ドル体制を何とか維持するためのものであり,中東でのアメリカの戦争はこの石油ドル通貨の問題である。しかしアメリカの国力の低下の中で,現在の石油ドル通貨制度だけでは立ちいかなくなった。新しい世界の通貨体制を創造しなければならなくなった。
貨幣,通貨についてはいろいろの考えがあるが,その本質は「仮想通貨」である。あるものが通貨になるのは,強制的かどうかは別にして,多くの人が,多くの国がそれを通貨として認知するかどうかによる。アメリカのドル,石油ドルは当時のアメリカの経済力の圧倒的な大きさをバックにして,それを認知させた。しかしアメリカ経済の衰退でその基礎が崩れてきている。SDK(特別引き出し権)とデジタル通貨のリンクなどが考えられている。デジタル通貨も人々が安心して使える仕組みをどう作るかである。日本人が最初の考えを出したのであるから,その具体的な仕組みを日本は真剣に考える必要がある。
現在世界のGDPは100兆ドルで,世界が抱える債務は184兆ドルに達しているという。これをソフトランディングさせるために,世界の膨大な資金を大型プロジェクトとしての具体的な実のある事業に結びつける必要がある。世界的な新しいインフラの構築作業の展開である。日本も具体的にこれを展開し,実行なければならない。
アメリカの最近の動き
1980年ぐらいからアメリカはグローバル化を進め,企業は「株主第一主義」を強要されてきた。アメリカ主要企業の経営者団体であるビジネス・ラウンドテーブルは1978年以降,定期的にコーポレートガバナンス原則を公表し,1997年からは「企業は主に株主のために存在する」と明記していた。日本もアメリカの投資家に強要され株主優先に走り出してきた。
しかし2019年8月19日,そのビジネス・ラウンドテーブルは,「すべてのアメリカ国民のためになる経済」というタイトルで,「株主第一主義」を見直し,従業員や地域社会などの利益を尊重した事業運営に取り組むと宣言した。これはアメリカ産業界に対する国民の批判をかわす狙いもあるが,経営者団体がこうした宣言をしなければならなくなった時代になったということである。
アメリカはまたドル安政策に動き始めた。1995年からアメリカはドル高政策をとってきたが,そのためにアメリカの産業力が低下してきたので,トランプはドル安に舵を切った。「雇用と繁栄のための競争力あるドル」にするということである。これまでの「強いドル政策」が膨大な外国資金がアメリカに流れ込み,それがアメリカの経済にゆがみをもたらし,アメリカ産業を弱くしたと認識し,これから資本の移動を規制する方向に動き始めた。
しかし同時にアメリカは,何とか覇権の座を維持するために,経済を強化しようとしていろいろの法案をつくり,諸外国に更に理にかなわぬ難題や,詐欺的行為を突き付けようとしている。それをはねつけるには日本も詐欺的行為を排除するための理論武装をする必要がある。それにはアメリカの持っているペコラ委員会レポート判例を学び,身に着けなければならない。
しかしアメリカが本当にやるべきことは,イノベーションにより産業をより強くし,新しい産業を創造することである。言うまでもなく,これは日本にも言えることである。関連記事
三輪晴治
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