世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
タイ・マレーシア陸路通関24時間体制へ
(都留文科大学 教授)
2019.07.15
タイ政府は産業高度化政策「タイランド4.0」に取り組んでおり,その一環として多額の予算を投入し「東部経済回廊(EEC)構想」を中心にデジタル分野などの新産業の創出,誘致のほか,空港,港湾のインフラ整備を積極的に進めており,ASEANにおけるロジスティクス分野でもタイがハブとなることを目指している。また物流の近代化によって,タイのGDPの14%を占める物流コストを2021年までに12%に低減し,さらに貨物運送コストについてはGDP比7%まで圧縮することが数値目標に掲げられている 。物流改善について,タイはメコン圏の周辺国とのハブ国としてとして,またGMSプログラムにおける経済回廊整備と国境におけるGMS越境交通協定(CBTA)の実施ということが話題となることが多い。これに対してASEAN交通協定の近年の進展により,タイとマレーシア半島の陸路物流に動きが見られるようになっている。
最近の報道により,タイ南部ソンクラー県サダオとマレーシア北部ケダ州ブキットカユイタムの国境で,大型トラックの通関,出入国,検疫の24時間対応が始まったことが明らかになった。これまで同国境における開庁時間はタイ時間の午前5時から午後11時だった。24時間対応の対象は大型トラック,トレーラーで,乗員は運転手と助手の計2人までであり,9月16日まで試験運用する,とされている。タイにとって同国境は貿易量の多いメジャー国境とは言えないが,ASEAN交通円滑化協定の進展とそれを見越して準備されてきているASEAN税関貨物通過システム(ASEAN Customs Transit System:ACTS)が背景にあり,ASEAN連結性を高めるための陸路物流改善が着実におこなわれていることを示している。
ASEAN交通協定については,トランジット協定であるAFAFGITの9つの附属議定書のうち,近年進展したのは,①Protocol1(越境交通路の指定と施設)について全加盟国が批准し発効した,②Protocol2(国境交易所・事務所)について2018年5月に加盟国の署名がされた,③Protocol7(トランジット通関)について批准国が8カ国となったことである。Protocol2は,AFAFGIT第7章において隣国との国境交易所・事務所が隣り合うことで,貨物検査などを合理的,円滑に行えるよう努めることとしている。Protocol3は,AFAFGIT第9章において自国内で越境運送を行うことを認めるべきことが定められており,その際に使用できる道路運送車両の種別及び数を定めている。Protocol7は,AFAFGIT第18条でトランジット越境時の税関システムを定めるとしている。これによって,AFAFGITの基本的な輸送に関する附属議定書(Protocol1,3,4,5)がすべて署名,批准,発効が完了したことになる。
こうしたAFAFGITに代表されるASEAN交通円滑化協定の進展を受けて,ASEANはACTSの具体的な構築段階に入っている。ACTS開発計画は,フェーズ1,フェーズ2に分かれており,フェーズ1は南北経済回廊を延伸したタイ,マレーシア,シンガポールのルートであり,フェーズ2は東西経済回廊を延伸したベトナム,カンボジア,ラオス,ミャンマーのルートにおける実施が想定されている。これまでに試験運用を兼ねてパイロットフェーズがタイ,マレーシア,シンガポールの3カ国間で実施されている。ACTSによるトランジット手続きは,従来に比べて効率化,簡素化されており,荷主(メーカーなど)が自ら税関に電子申請ができ,銀行保証が不要,今まで不可能であった荷受人への直接配送が可能であるなどの点で優れている。但しバーコード管理で印刷物を使うという保守的な面も見られるが,CLM3カ国における導入のハードルを下げるという意味では現実的な選択かも知れない。GMSの枠組みで越境交通協定CBTAが運用されている国境(ラオス・デンサワン=ベトナム・ラオバオ国境,タイ・ムクダハン=ラオス・サワナケット国境のみ)が拡大していないという現状の中で,ACTSによるシンガポール,マレーシア,タイの3カ国による越境円滑化システム運用がACTSフェーズ2に進んだ段階で,CLMVにまで早い時期に広がりをもつ可能性があるのではないか。
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