世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
タイ東部経済回廊(EEC)インフラ入札の進展
(都留文科大学 教授)
2018.12.17
タイ政府は2016年以降,東部経済回廊(Eastern Economic Corridor:EEC)構想を進めている。EECの対象となっているのは,チャチュンサオ県,チョンブリ県,ラヨーン県の3地域で,1980年代に開発が進んだ東部臨海地域(イースタン・シーボード)がまたがる地域である。産業構造の高度化,高付加価値を目指す国家戦略「Thailand 4.0」を実現するための中核となる政策で,「12の重点産業」(注1)を誘致,インフラを整備することを目指している。このうち同構想に関連したインフラ案件の進行が注目されている。EEC事務局によれば,EEC構想で予定されている総投資額1.7兆バーツのうち,インフラ関連投資では7,520億ドルで約44%を占めるとしている。現時点で以下の計画が先行しており,①主要3空港を連結する高速鉄道の建設,②ウタパオ空港・都市開発プロジェクト,③航空機整備(MRO)センター設立,④レムチャバン第3期拡張プロジェクト,⑤マプタプット第3期拡張プロジェクト,が進められている(注2)。
このうちすでに11月12日に入札があったのは,ドンムアン国際空港,スワンナプーム国際空港,ウタパオ空港を接続する高速鉄道の開発である。このプロジェクトはバンコク・ドンムアン空港を起点とし,現エアポートリンク路線を使いスワンナプーム空港に接続し,チョンブリ,シラチャー,パタヤを経由してウタパオ空港をフェーズ1では終点とし,ドンムアン空港-スワンナプーム空港間は最高時速160km,ウタパオ空港までは最高時速250kmの仕様となっている。総延長220kmで,軌間は1,435mm標準軌の複線である。このプロジェクトに対して,チャロン・ポカパン(CP)グループと高架鉄道(BTS)運営のBTSグループがそれぞれ主導する2つのコンソーシアムが入札に参加した。この2グループは仮に落札できなかった場合にも互いに協力することを表明しており,日系企業が主導する入札を見送ったため,この高速鉄道の案件(約2,500億バーツ)はタイおよび中国企業(中国鉄建:CRCC)を中心に進むことがほぼ決定的になった(注3)。
また,レムチャバン港の第3期拡張の入札が2019年1月に予定されている。開発面積は約2,846ライ(約455ヘクタール)で,埠頭(ふとう)は長さ2,000メートル,幅550メートル,水深18.5メートルの深水港になる。この第3期拡張で同港のコンテナの取扱量は年770万TEU(20フィートコンテナ換算)から1,810万TEUに拡大する計画である。日系企業では伊藤忠商事,三井物産,住友商事など商社勢が入札を用意しているとみられる。タイ企業ではCPグループ,国営企業のPTTグループ,イタリアンタイ・デベロップメントなど,中国企業では中国鉄建(CRCC)や中国交通建設(CCCC)などが応札する見込みである(注4)。
今回のEECの入札において外資では中国勢が積極的であることが特徴的で,高速鉄道プロジェクトに限らず,今後全ての案件に入札してくることが予想されている。EEC構想は地域的にも日系企業が集積していることから,インフラ事業についても日系各社の参画が注目されていた。しかしながら,各インフラプロジェクトは民間資金を活用するPPP事業として進められており,EECで計画された総投資額のうち,タイ政府による投資は18%にとどまり,82%がPPPのような形で民間資金に依存している。高速鉄道のような交通事業は民間企業が負うリスクが高いとされ,受注を目指す企業にとって不安は大きい。日本側はタイ政府による保証を求めたが,補助金などについては政府による関与を否定された経緯がある。予想はされていたが,こうした条件面での折り合いが付かなかったことが日本側の意欲を削いだと思われる。一方,中国勢は資本規制の点からタイ大手企業グループと組み,一帯一路構想の視点からも,EEC各プロジェクトに積極的な参入をしてくるものと考えられる。
[注]
- (1)2018年2月8日承認の「EEC法」39条によれば,⑴次世代自動車産業,⑵スマートエレクトロニクス産業,⑶高所得者対象観光及びメディカルツーリズム業,⑷先端農業及びバイオテクノロジー産業,⑸食品加工業,⑹ロボット産業,⑺航空及び物流業,⑻バイオ燃料及びバイオケミカル産業,⑼デジタル産業,⑽医療ヘルスケア産業,の10産業であるが,これに⑾防衛,⑿教育が追加され現在では12重点産業となっている。
- (2)Bangkok Post, 2018年10月5日付け,ほか。
- (3)NNA ASIA, 2018年12月4日付け。
- (4)同上。
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