世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1347

ジレ・ジョーヌ運動はなぜ発生したか:都市と農村の混合する第3空間に進行するペリ・アーバニゼーション

瀬藤澄彦

(パリクラブ日仏経済フォーラム 議長)

2019.04.29

租税上の不平等に怒り

 黄色いチョッキを身に付けたジレ・ジョーヌ・デモ運動(Gilet jaune)は,1980〜90年代の同じく燃料価格に抗議した運送業者や道路輸送関係者のデモ運動,また2013年西部ブルターニュ州で発生した重量トラック環境税反対デモの「赤頭巾」(Bonnet rouge)運動とも,あるいは1970年代の中小商店業者の反対運動,そして1968年5月危機や1995年の年金改革デモなども異なる。このジレ・ジョーヌ運動はこれを主導する組織が存在せず,そのデモ活動はフランス全土に分散している。既存の政党や労働運動にも距離を置きデジタル時代の象徴であるフェイスブックというSNS通信を介在させて広まった運動である。社会学者ピエール・メルル(Pierre Merle)はむしろ14世紀の貴族に対して反乱を起こした農民のジャクリ胴衣運動に例えられるとしている。あるいは流通小売り産業における商店主の反エリート主義の運動という点では1970年代のプジャーディズムと共通点が多いという。

 今回の運動のなかでは自動車という現代社会生活の象徴である人々の移動に関わる税制上の社会的不公平がその示威運動の出発点である。税金や社会保険料の負担の上昇は最近だけの話ではない。ここ数年,フランスで明るみに出てきたベタンクール,カウザク,テブノ,などの国会議員の脱税,パナマ文書やルクスリークスなど巨額の一連の国際的な租税回避問題の実態が明らかになったこと,またオランド政権時に復活した富裕税(IFS)を改廃し低所得者への課税をマクロン改革で存続させたことも今回のデモに火をつけた。そして実際の重税感は富裕者よりも遥かに低所得層に強くなったのである。社会階層の低所得層が納税に見合う公正な反対給付を受け取っていないという感覚も叛乱の大きな理由となっている。2018年夏より,ベナラ事件,ユロ環境大臣とコロン大臣の大物大臣の辞任,所得の自己申告に代わる源泉徴収制度の発足についての政府の躊躇,そして今回の燃料税引上げが発火点となって,ジレ・ジョーヌのデモが毎週土曜日に繰り返されることになった。

遠のく社会保障制度の恩恵

 田園農村地帯や中小都市においてジレ・ジョーヌ運動が起こったのは象徴的である。すなわちここ10年余り公共サービスの低下や衰退のマイナス面を被ったのはまさにこれらの地域の住民であった。地域の裁判所,病院,税務署など公共行政施設がいつのまにかなくなってしまい,納税の見返りの公的サービスが目の前からなくなってしまった。そうしたなかフランスではほかの欧州諸国や日本と異なりこれまで所得税は各個人の自己申告によるものであったが,2019年より源泉徴収制度に変更された。この変更が増税につながると考える人が圧倒的に多く,これは結局,政治エリート層の贅沢な生活スタイルを支えるために制度変更として源泉徴収になったと強く感じさせるようになってしまった。

 従ってこの運動の意味を取り違えないようにしたい。すなわち,何も政府の公共政策の出番をもっと少なくしろとは言っていないのである。この点で2008〜10年に米国で起こった保守派のティーパーティ運動とは異なる。このティーパーティ(茶会運動)は連邦政府の大きな政府に反対して自由放任を強く訴えていたが,ジレ・ジョーヌのフランス人たちは社会保障制度の恩恵に強く執着しているのである。

関連記事

瀬藤澄彦

国内

欧州

最新のコラム