世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1212

技術進歩による「雇用なき成長」

森原康仁

(三重大学 准教授)

2018.11.26

 英『エコノミスト』シニア・エディターのライアン・エイヴェントは,近著『デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか』(月谷真紀訳,東洋経済新報社)で,「デジタル革命」が仕事を変質させ,労働力を過剰化すると指摘している。その理由の第1は自動化が進んでいるからである。AI(人工知能)の進歩に代表される情報処理技術の発達は,一部の職業の「機械」への代替を進める。

 第2に,デジタル革命が進むことでグローバル化に拍車がかかり,先進国の雇用が喪失したからである。情報技術なくして,過去20年間に世界で広がったサプライチェーン(部品供給網)を先進国のグローバル企業が管理することは不可能だった。また,もしこうした条件がなければ,中国をはじめとした新興諸国の成長はもっと遅かったはずだ。

 第3に,スキルの高い労働者の生産性をテクノロジーが大きく押し上げたことで,以前なら大勢の人員を要した仕事が高技能労働者だけでできるようになったからである。こうした自動化,グローバル化,スキルの高い少数の人の生産性の向上という3つのトレンドが重なって労働力の過剰化が進んでいる。

 しかも,エイヴェントは,将来の雇用機会は,仕事を自動化するテクノロジーと労働力の過剰化によって制限されるだろうと予想する。また氏は,この2つの要因は,①高い生産性と高い給料,②自動化に対する抵抗力,③労働者の大量雇用の可能性の3つを同時に達成することはできないという「雇用のトリレンマ」につながるとも指摘する。

 しかし,雇用が失われ,一部の高技能者のみが富を獲得する経済は,長くはもたないということがこれまでの常識だった。これは単に経済が「需要不足」に直面するからということだけではなく,中長期的にみた供給面での制約も生じるからである。

 すなわち,多くの人が職を失ってしまうと,職業生活を通じた新技術の発見や導入が滞り,結果として広い意味での技術進歩も低迷してしまう。つまり,技術進歩と雇用は互いに補完性があるものと考えられてきた。

 しかし,ダロン・アセモグルらの2017年の論文「ロボットと雇用」は,労働力を代替するという今日の技術進歩の特徴を踏まえるなら,経済が成長する下でも,労働者の所得が低迷し,所得格差が拡大する可能性があると指摘する。つまり,雇用が失われ労働者の所得も低迷しているのに技術は進歩し,その結果経済も成長を続ける,という。

 このシナリオが正しいとすれば,すくなくとも経済的にみれば,所得格差の拡大の歯止めはないということになってしまう。政策の役割は大きい。

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