世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1200
世界経済評論IMPACT No.1200

米中貿易戦争は中国に何をもたらすのか

童 適平

(獨協大学経済学部 教授)

2018.11.05

 米中両国はどちらにも勝ち目のない貿易戦争が始まっています。米国は三弾放ちましたが,金額は三弾合わせてよりも大きい第四弾も準備されているそうです。最終結果はまだ先のことですが,中間結果を見てみましょう。

 アメリカ政府商務省の統計によれば,輸出入額はともに増加しつつありますが,貿易赤字額の拡大を今のところ止めることができませんでした。7,8,9月の赤字額は720億,754億,769億米ドルにのぼり,去年の600億米ドル台を超えました。一方,中国政府商務省の統計によれば,今年9月までの輸出入累計額はそれぞれ1兆8,266.5億米ドルと1兆6,052.8億米ドルで,前年同期間より11.9%と20.1%の増加ですが,黒字額は前年より25%減少しています。

 貿易戦争の最中,両国とも貿易額が拡大を続け,貿易戦争に影響されていないように見えます。これは経済のグローバル化は両国にとって,もう既に止められない時代の流れだと理解すべきでしょうか,それとも貿易戦争に備えて,相手の報復を免れるために駆け込み輸出の効果だと理解したほうが正しいのでしょうか。正しく理解するにはもう暫く時間が必要でしょう。

 しかし,一つだけは明確です。中国の貿易黒字の増大に歯止めがかかったことです。中国政府税関総署統計によれば,今年1〜9月の貿易黒字額は2,213.7億米ドルであるのに対して,昨年同期は2,955.8億米ドルで,742.1億米ドルの減少でした。昨年年間の貿易黒字額4,225.1億米ドルのうち対米貿易黒字額は2,758億米ドルで,中国の貿易黒字の6割超は米中貿易から生じたものです。一方,米国商務省統計から見ると,中国の対米貿易黒字は3,756億ドルと中国側の数字より1,000億米ドル膨らみます。

 今年の貿易黒字額の縮小は米中貿易戦争によるものかどうかは,いま,まだ結論できませんが,貿易黒字額の縮小は当然,全体の国際収支には影響します。

 9月までの国際収支内訳の発表はまだですが,既に発表された6月までの内訳によれば,貿易収支は黒字であるにもかかわらず,貿易収支を含んだ経常収支は283億米ドルの赤字でした。経常収支赤字の主な原因は,サービス収支と所得収支の大幅の赤字です。サービス収支の赤字額は1,473億米ドルにも達し,観光収入の赤字額はその9割近くの1,201億米ドルも占め,知的財産権の輸入も増大していることが分かります。その結果,貿易黒字額は2,213億米ドルもあったにもかかわらず,中国人民銀行の外準備残高が逆に前年12月末の3兆1,399.49 億米ドルから今年9月の3兆870.25億米ドルへ減少しました。

 貿易収支黒字額の縮小は中国経済の各分野に響きます。エネルギー資源や食料の輸入だけでなく,経済の成長に不可欠な知的財産権の輸入も,国民に豊かな情感を与える海外への観光もこの貿易黒字に依存するからです。このように,中国は一日も早く貿易戦争が終って欲しいと願いますが,一方で貿易戦争から得るものは全くない訳ではありません。それは経済成長モデルへの反省です。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1200.html)

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