世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
バノン派の逆襲:アフガンへの民間軍事会社派遣と『ローマ帝国衰亡史』
(Global Issues Institute CEO)
2018.10.01
Daily Beastが9月14日に配信した“Inside Erik Prince’s Push to Rule the Skies”という記事によれば,デヴォス教育長官の兄弟で民間軍事会社ブラック・ウオーター(イラクでの不祥事後は,社名変更をし,今は正式にはフロンティア・サービス・グループ)の社長であるプリンス氏は,ブラック・ウオーターに空軍部門を作ろうと過去数年間に渡って努力を続けて来たが,その度に米国その他の国の法律上の問題で頓挫して来た。だが彼は,いよいよ諸事情を整理し,本格的に空軍部門を創設する方針らしい。
これも何度も書いたが,バノン氏はプリンス氏を今年の中間選挙で,ウイスコンシン州選出の上院議員にしようと画策していたこともある。それを考えると広い意味での“バノン派”の人物と言えるように思う。
そのプリンス氏はThe Hillが8月14日配信の“Faced with opposition, Erik Prince shops his plan for Afghanistan”という記事の中でも触れられているが,2017年にマクマスターNSC担当大統領補佐官やマティス国防長官といった軍出身の閣僚達の反対で実現できなかった,アフガンに正規軍ではなく彼の会社を増派する案を,マクマスターが失脚しボルトンが代わりに就任したことから,トランプ政権に再び提案したという。
それを実現するために,どうしても空軍部門を創設したいらしい。ゲリラ勢力を空中から攻撃することが効果的だからである。
Daily Beast前掲記事によれば,アフガンの米国正規軍(の一部)をブラック・ウオーターに交換することで,アメリカ政府は年間350億ドルの節約になると,プリンス氏は主張しているという。その代わり同社は年間35億ドルの予算と,もし奪回できれば今はテロ=ゲリラ集団に占拠されている有力な鉱山を要求したいという。
1990年代にも同様の方法で国際社会が解決に失敗したシェラレオネの紛争を民間軍事会社が解決したことがある。プリンス氏の主張が間違っているとは思えない。
ただ今のフロンティア・サービス・グループには「一帯一路」の安全確保等を理由に中国が40%も出資してしまっている。前にも書いたが左派が騒いだために名目上倒産した,トランプ大統領を選挙で当選させた選挙コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカ社も,ブラック・ウオーターと同様に社名変更をして生き残り,やはり今はプリンス氏が実質的に社長なのだが,この新会社を巡っても類似した情報もある。この二つの会社に対して日本は,中国より積極的に出資して行くくらいでないと,世界の中で生き残って行けなくなってしまうのではないかと思う。郵貯のお金をODAとして途上国の安定に使う等の色々な道が考えられると思う。
何れにしてもDaily Beast, The Hillの両記事を見ても,マクマスターはいなくなったものの,やはり軍部出身のマティス国防長官の反対で,アフガンへの民間軍事会社派遣案は,なかなか実現しそうにはない。それもあってかワシントン・ポストが9月5日に配信した“The White House is discussing potential replacements for Jim Mattis”等の記事によれば,ウッドワード本の影響もあって,マティス国防長官の解任も検討されているという。
これは余談だがウッドワード本にしてもニューヨーク・タイムス匿名コラムにしても,人事等を巡ってトランプ氏に好都合な流れを作った面もあるように思う。少なくとも後者に関してはトランプ氏の自作自演説が一部で流れているようである。
だがワシントン・ポスト前掲記事を見ても,リベラル派も保守派も,ワシントン既成勢力から国防長官を出したいことに代わりはないように私には思える。そのような既成政治—理性主義的なマニュアルに囚われて,例えば正規軍より民間軍事会社を使うようなことに反対する政治を打破するために,トランプ氏が大統領になった筈なのだが,トランプ氏の力を以ってしても,なかなかワシントン改革は進まないようだ。
ここから先はSF小説的かも知れないが,ブラック・ウオーターがワシントンを占領して,民主的政治を一時的にでも停止させるくらいのことが起こっても良いのではないか? それくらいしないと理性主義的な既成政治を打破して,21世紀の社会に相応しい,柔軟な政治を実現することは出来ないのではないかとさえ思う。
ギボンの『ローマ帝国衰亡史』によれば,当時的に民主的だった西ローマ帝国は,自らが使っていた野蛮人の傭兵隊に占領されて,滅亡した。だが,その結果として,その後の欧州世界の発展があったとも言える。今は,そのような時期に来ているようにさえ思う。
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吉川圭一
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