世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1068
世界経済評論IMPACT No.1068

石油ピークと再生可能エネルギー

武石礼司

(東京国際大学 教授)

2018.05.07

 世界の様々な機関から,将来の世界のエネルギー需給に関する予測が出されている。近年発表された一番長期にわたる予測としては,シェル社の2100年までのスカイシナリオがある(https://www.shell.com/)。

 OECDの国際エネルギー機関(IEA),BP,エクソンモービル,米国エネルギー省のエネルギー調査局(EIA)なども世界のエネルギー需給の将来予測を発表しているが,これらのデータを見ると,いずれの機関においても,石油,石炭,天然ガスのうちで,石炭および石油の需要のピークが今後来ると予測されている。ピークを経た後は,消費量は減少に向かうと予測することができる。

 現状では石油,石炭,天然ガスの消費量はいずれも年々増大を続けているが,石油は早ければ2025年過ぎにはピークをつけると予測するのがシェル社の新しい予測である。他の機関の予測を見ても,2035年前後までは石油消費量は増大を続けるものの,2035年前後で消費量のピークとなり,その後は漸減するとの予測が多い。

 石炭に関しては,熱量当りのCO2排出量が天然ガス,石油よりも多く,環境NGOから石炭の消費削減を求める声が強くあがっており,世界銀行も石炭火力プロジェクト向けの融資を行なわないと表明している。しかし,石炭は発電コストが安いことから,電力価格が安価なまま発電量を増大させたい発展途上国においては,石炭火力の新設が多く計画されており,今後も,当面,インド等,世界各国において石炭火力の建設が進んでいくと予測される。それでも,シェル社の予測では,世界の石炭消費量は,2025年前後でピークをつけ,その後は減少に向かうと予測している。

 天然ガスに関しては,世界の消費量の増大が今後も続くとの予測が存在する一方,シェル社のように2035年頃には天然ガスにおいてもピークが来るとの予測を出す機関も出てきている。世界銀行も2019年より,石油・ガスの開発・生産向けの融資は実施しないと表明している(http://www.worldbank.org/)。

 世界の人口はシェル社の予測においては,2080年に101億人のピークをつけ,その後は減少に向かうとされているが,世界のエネルギー消費量の総計を見ると,着実に増大して2100年に向けて増え続けていくとの予測がこのシェル社のシナリオにおいても出されている。

 このシェル社の予測においては,石油,石炭,天然ガスという現在の主要なエネルギー源である化石燃料の消費量が将来的にピークをつけると予測される一方で,エネルギー消費量の世界計が増大するとされているが,その差を補うのは,第一に太陽光発電であるとされ,大幅な増大が可能であるとされ,次いで,風力発電,バイオマス発電,原子力発電,バイオマス燃料,水力,地熱と再生可能エネルギーが列挙されている。ただし,風力発電は,原理的に,風速の3乗に比例して発電量が増えるために,風況が恵まれた場所に設置していくと,残された場所は次第に設置コストが高いところ,風況が劣るところとなっていく。バイオマス発電,バイオマス燃料,水力,地熱に関しても,一定量の導入が進むと,コストから考えても導入量が頭打ちとなっていくと考えられている。

 こうした将来予測が出てくると,石油・ガスの生産者などは,今後の事業の展開を考えて気が気でない立場に追いやられているのではないかと予測されるのであるが,実際には,石油・ガスの開発企業の人々は現在でも意気軒昂であり,一層の研究開発(R&D)を進めていかにして自社の供給量を維持していくかに努めている状況がある。石油業界誌(Oil and Gas Journal, JTP: Journal of Petroleum Technology等)を読んでも,更なる投資,プロジェクトの実施,技術導入を巡った記事が満載となっている。

 これは,そもそも生産・供給している量が膨大であり,業界として,自動車,電気電子と並ぶ世界の3大産業に位置するのが石油・ガス業界であることからもたらされている。石油・ガスの生産会社は,自社の埋蔵量を10年程度は生産できる分だけ確保し,さらに1年間生産するたびに,その生産で減った1年分の埋蔵量を新規に確保し,企業の存続を続けていけるようにするため,新規の探鉱・開発,他社買収等,様々な手を尽くしており,厳しい競争を日々続けている。シェールガスの生産をはじめとして技術革新も相次いでおり,「深海からの石油・ガス生産は月に行くよりも技術的に難しい」とさえ言われるほどである(筆者が米国ヒューストンで聴取した言葉)。

 2018年後半には,世界の一日当りの石油消費量は1億バレル(1バレルは159リットル)に達する見込みであり,多量に供給され消費されているエネルギーの話(特に化石エネルギーについて)と,徐々に導入量の増大は進んでいるもののまだまだ導入量が少ない再生可能エネルギーの量の話とは,直ぐに代替できるレベルの話とはなっていないという点を認識しつつ,今後のエネルギー需給の議論を進めていくことが必要である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1068.html)

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