世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
変なグローバル人「ザイ」論
(早稲田大学 名誉教授)
2018.01.15
本来,人によるサービスが基本のホテル業で,AIやロボットが人に代わってサービスを提供する「変なホテル」が話題となった。現在複数店展開を計画中とのことで,想定外の業績を上げているようである。「常識外れ」が意外な効果を生み出すこともあることの一例だ。
ここでは,通説とはやや異なる「変な」グローバル人「ザイ」論をご披露する。
日本企業にとって,グローバル人材育成は喫緊の課題,といわれて久しい。
多くの論調の行きつくところは,日本企業が現在置かれている世界の中でのビジネス状況を冷静に考えると,悲観的な結論にたどり着く場合が少なくない。
しかし,見方を変えれば,それほど悲観することはない,というのが私のグローバル人「ザイ」論である。やや「変」かもしれないが……。
私の人「ザイ」は5つの「ザイ」,すなわち「人材」,「人才」,「人在」,「人宰」,「人財」で構成されている。
私の考えでは,経営に必要不可欠なインプットである「人材」は,所詮それが経営資源(resource)の1つに過ぎないと割り切ってしまえば,それこそ「適材適所」にグローバルな視点や規模で調達,活用すればよい「ザイ」である。
もとより,企業にとって新しい価値創造のできる才能溢れる優れた専門家や技術者(expert),つまり「人才」を確保することもまた不可欠。しかし,それとて「適才適書 」でリクルート,確保し,研究開発,商品化が持続的にできれば,これに越したことはない「ザイ」である。
他方,企業がさまざまな出自を在所(identity)に持つ人々で構成されること,つまり「人在」は,それこそ有為な才能豊かな人をグローバル,あるいはメタナショナルに募集して「適在適処」で経営に参画させる。すなわち,今はやりのダイバーシティの利点を縦横に発揮して,ビジネス展開できる組織風土が醸成されていなければ,変転目まぐるしいこのグローバル経営環境への対応は,とてもではないがうまくいくはずがない。アイデンティティという「ザイ」も無視できない。
さらにまた,経営トップ層の「人宰」(leader)の選抜が企業にとって最重要の課題である。「適宰適署」できるグローバル・リーダーシップに長けた候補者を普く天下から精査・厳選して,それに当たらせることがいかに肝要であるかは,今さら指摘するまでもない。かつて存亡の危機に瀕した日産自動車が,カルロス・ゴーン氏という多様なキャリアの異才を招聘したことによって見事に復活した事実は,記憶に新しい。ガバナンスという「ザイ」の効果もてきめんである。
最後に,「経営は人,人が宝」という視点を再認識したい。企業が,その生成と発展の歴史を積み重ね,築き上げた見えざる財産(asset)あるいはDNAともいうべき「人財」がいかに大切かを見直してみる価値がある。異色の発明家,革新的経営者,早川徳次氏によって創設されたシャープが失敗地にまみれて台湾企業ホンハイの軍門に陥った。ホンハイは,シャープがもつ「人材」,「人才」,そしてその伝統に潜む「人財」に着目した。「適財適初」戴正呉氏という「人宰」によって,シャープの財産の厳しい再評価から再建は着手されたが,わずか1年余という実に短期間でV字成長回復を果たした。昨年末には東証一部上場復帰を記念して2万人の国内従業員全員に金一封(2万円)プラス自社商品クーポン券1万円分を「感謝のしるし」に配った。いかにも台湾系企業らしいパフォーマンスである。と同時に,自身の後継者として3名の日本人CEO候補者を発表したが,これは,シャープが元々伝統ある日本企業であったというルーツを配慮したびっくり人事である。
これによって,台湾と日本を在所とする2つの「人在」企業がハイブリット化された「変なグローバル会社」が誕生したいえる。DNAという「ザイ」もまた看過できない。
この変なグローバル・ハイブリッド企業=Taipan企業の今後の行く末に注目したい。
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江夏健一
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