世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.977

親日国モンゴルの対日感情悪化と日馬富士問題の本質(その3)

田崎正巳

(STRパートナーズ 代表)

2018.01.01

3.相撲界の裏事情

 これはちょっと難しい。なぜなら,今回のテレビや大手新聞報道をいくら見ても何も触れられていないからである。誰も公に発言できないことであり,それは核心部分に近いのに,それをベースに話したり書いたりできないから,日本人にもモンゴル人にも背景が見えにくいのである。

 今回の問題がどうも「酒の上での口論が暴力になった」という単純な事件ではなく,貴乃花親方や日本相撲協会の中での政治的混乱の影響を受けたと感じている人は多いであろう。実際,モンゴルでは「貴乃花が理事長になりたいから,今回の事件を利用した」という意味の報道がある。なので,「日馬富士は悪くないのに,こんな結末にさせられたという被害者意識」が出ているのだ。

 前述の通り,元々相撲は興行であり,地方を回って地元のお客さんに見せて喜んでもらってお金を稼いでいた。皆で家族同様に地方を興行で回るので,お互いに助け合うという習慣がある。それが「星の貸し借り」という問題である。これはかなり根深い問題のようで,週刊誌などでもよく告発されているが,なかなかゼロにはならないと推定される。要するに八百長問題である。

 この問題で最も強硬に「ガチンコ勝負」を主張しているのが貴乃花親方であり,「悪いのはわかっているから,できるところから直していこう」と漸次改善していこうというのが現在の相撲協会のようである。その貴乃花親方が問題視しているのが,どうもモンゴル人力士同士のつながりのようなのである。普通に考えれば,遠い日本にやってきて,つらい稽古を続けている中で,たまに同郷の仲間が集まって飲んだり話したりすることについて「一体そのことのどこが悪いのだ?」と言いたくなる話であるが,ここは勝負の世界なので,そこが問題視されているのである。

 断っておくが,私はモンゴル人力士が集まって星の貸し借りをしているということを断言するつもりも,信じているつもりもない。同時に「それは絶対にない」かどうかもわからない。ただ現役時代,場所中に戦う相手と本場所以外の時期とはいえ,絶対に一緒に酒飲んだり,友達付き合いなどしたことがない貴乃花親方からすると,それは信じられないことなのである。

 貴乃花親方を親同様に慕う貴ノ岩は,親方の言いつけは絶対なので,今まではこうしたモンゴル力士会には参加していなかったようである。もちろん憶測情報でしかないが,貴ノ岩が日馬富士を怒らせた発言にはこの八百長問題に関する発言が含まれていたと考えられるのである。また貴乃花親方は貴ノ岩を通じて,そうした星の貸し借りの可能性を耳にしていたという報道もある。

 日本相撲協会や八角理事長にとっては「存在しないもの」であるから,そもそもそんな発言があったとかなかったとかは,絶対に言えない。もし広まれば大変なことになり,至上命題である「公益社団法人」の認定を失ってしまう可能性が大きいのである。なので,相撲協会からすれば「暴力事件の発覚を恐れて隠蔽する」というよりは「八百長発言がこじれて喧嘩になった」という事実の方がずっと重大で隠蔽すべき事態なのである。前にも書いた通り,都合が悪いことは隠すという体質があることは承知しているので,貴乃花親方は協会と交渉,接触せずに直接警察に持ち込んだということなのであろう。再確認するが,私はモンゴル力士がやってるかやってないかわからない。だが,こうした事情が裏にあることがわからないと,モンゴル的には「酒の上の喧嘩なんて,モンゴルじゃあ普通だよ」「なんで貴乃花はそこまでして,モンゴル力士を追いつめるんだ?」と思ってしまうことであろう。

 貴乃花親方の最終的な狙いは,暴力根絶はもちろんであるが,より根が深い八百長問題を公的機関である警察に解明してもらいたいというのがあると思われる。警察は恐らく八百長そのものを今回の事件で取り締まることはないであろう。が,警察は調書を作る。すべての発言を記録する。もし,貴ノ岩がそうした発言をした,というのが記録に残れば,協会も「そんなことは寝言である」などとは言えなくなる。

 多分,貴乃花は今回のことで理事長になれるなどと思ってはいないであろう。この問題を最終的に解決するには,自分たちの手だけではできない,公的権力を使うしかないと判断したのだと思う。本文章は日本語であるが,気持ちとしてはこの問題の本質をモンゴル人に伝えたいという思いで書いたことを申し上げて,終わりにする。

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