世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.622

途上国参加のハードルが低下したTPP

石川幸一

(国際貿易投資研究所客員研究員,亜細亜大学教授)

2016.04.04

 TPP協定は,各国の主張を取り入れたバランスの取れた内容になっているといわれている。たとえば,生物製剤のデータ保存期間は米国主張の12年と豪州などの主張する5年の間の8年となった。国有企業への政府の支援は規制されるが除外が認められ,衣類の原産地規則のヤーンフォワードについても例外(供給不足の物品一覧表)が認められた。マレーシアは政府調達を開放したがマレー人優遇政策(ブミプトラ政策)の維持が相当程度認められた。

 ほかにも,途上国が主張していた公衆衛生に関するドーハ宣言の約束の確認(知的財産),米国が反対していた権利消尽(並行輸入),チリが主張していた遺伝資源の伝統的知識についての協力,チリが主張していた資本規制,政府調達における地方政府の例外化(これは米国も主張していた),豪州の主張していたISDS(投資家対国家の紛争解決)の一部例外と濫訴防止規定などが盛り込まれた。

 こうした結果となったのは,産業界の要求をバックに強硬な主張を行っていた米国が最後に妥協したことによる。高い目標を掲げながら最終段階で数多くの例外を認めたことへの批判がある。しかし,TPPをFTAAPに発展させるためには,開発途上国からの参加を増やさねばならない。2015年10月の最終交渉で米国が一切妥協しなければ大筋合意は出来なかっただろうし,国内でマレー人優遇措置撤廃への反対運動が勢いを増していたマレーシアなどの離脱もありえただろう。途上国抜きで極めて高いレベルの協定を作ったとしても途上国の参加は困難である。TPPが高い目標を維持しながら例外を認め,かつ,再交渉の余地を残したことは現実的な選択として高く評価すべきである。

 このように例外を認め各国の主張への配慮を行なった結果,開発途上国のTPP参加のハードルは従来考えられていたレベルよりも低くなった。TPPには,韓国,インドネシア,フィリピン,タイなどが参加の意向を表明している。韓国はすでに自由化率が高く包括的なFTAを米国と締結しているため,TPP参加への障害は少ないと思われるが,センシティブな分野が残るASEAN各国は参加が従来考えられていたよりも容易になった。

 中国についてはどうであろうか。知的財産の保護強化,国有企業の規律など以外にも,物品貿易(輸出税新設・維持禁止),投資(ライセンス契約に関するロイヤリティ規制の禁止,特定技術の使用要求の禁止などTRIMsを超えるパフォーマンス要求の禁止),電子商取引(情報の電子的手段による国境を超える移転,コンピューター間連設備の設置要求などの禁止,ソース・コードの移転要求などの禁止),労働(結社の自由,団体交渉権,強制労働・児童労働の廃止など基本的権利の採用・維持と労働条件などを規律する法律の採用・維持)など中国独自のルールや慣行,政策にタガをはめることが期待できる規定がある(鈴木英夫2016,201−205)。現時点での参加のためのハードルはかなり高いといえる。

 一方,TPPの大筋合意は,高い目標と同時に国別に例外を認め,また,日本が参加して関税撤廃の例外を認めさせたことに象徴されるように経済大国は交渉の余地が大きいことも明らかになった。中国の交渉力は日本を凌駕しており,TPP参加交渉でも交渉力を発揮する可能性が大きい。中国のTPP参加は想定外ではなくなってきたと考えるほうが良いように思われる。

[参考文献]
  • 鈴木英夫(2016)「新覇権国家中国×TPP日米同盟」,朝日新聞出版。

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