世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.601

中国経済はいつ駄目になるのか:共産党独裁経済の特異性,そのメカニズムと見通し

矢野義昭

(拓殖大学 客員教授)

2016.02.29

 中国経済の不調が世界経済の足を引っ張っている。特に,上海株式市場の株価下落にひきづられる形で,ニューヨークダウも東京株式市場も大幅に下落した。中国のGDP成長率は,鉄道輸送量,電力消費量,銀行の中長期新規貸出残高など,いわゆる李克強指数に基づく日本の内閣府の試算では,2013年11月からすでに経済成長は減速していると見積もられている。また,中国政府の公表した目標成長率よりもはるかに低い4%前後あるいはそれ以下とみる日米欧の経済専門家も多い。習近平国家主席も,これまでの実質経済成長率の目標値7%を6.5%に引き下げることを発表している。これらの動きを受け,一部では中国経済がこのままバブル崩壊から,近く経済破綻に至るとの見方も出ている。

 しかし,中国は人口約13億7千万人,国土面積は米国とほぼ同じ約960万平方キロの巨大な国である。そのトレンドを変えるには多大のエネルギーと数十年から時に数百年の時間がかかる。経済も人口も政治と社会の安定性も同様である。いったん経済成長が始まるとその慣性も大きく,内在的な成長力が止まっても経済成長はすぐには止まらない。経済成長が鈍化したからと言って,数年で崩壊するということはない。これまでの歴代王朝の崩壊過程を見ても,崩壊までには数十年はかかる。半面,一度中国社会が衰退過程に入ると誰にもその流れは止められず,権力は腐敗し,社会は混乱,はてには秩序崩壊を起こし,人口が数分の一に激減するような状況にまで至る。

 しかしこれらのプロセスには,興隆にも敗退から崩壊にも数十年から時に数百年を要するのが,中国の歴史の特色である。もともと古来,中国は巨大すぎる帝国であり,皇帝の独裁権力をもってしても統治しきれない,モメンタムが支配する文明である。秦の始皇帝の絶大な独裁権力も30年もたたず崩壊した。今の共産中国もその運命を免れないであろう。

 中国の少子高齢化は既に始まっているが,日本以上のすさまじい速度でこれから進行していく。人口も2050年頃に14億5千万人のピークに達し,それ以降は自然減少していくとみられている。その頃までには,中国経済が勢いを失い,現在以上の低成長になることは避けられない。さらに社会秩序が崩壊し,共産主義独裁も倒れ,新しい革命政権が誕生しているかもしれない。いずれにしても,中国の政治体制と社会が,2030年前後から新たな崩壊過程に入ることは避けられないであろう。しかし,だからといって,ここ数年以内に中国経済が崩壊するとみるのも,おそらく誤っている。単にモメンタムが働くということだけではない,現在の共産中国の特異な経済社会の特質にある。

 現在の経済体制はしばしば,「中国式の社会主義市場経済」と称される。この言葉自体が常識的にみれば,自己矛盾を孕んでいる。もともと社会主義,またその発展形態といての共産主義の理想社会では,私有財産が否定され,資本主義社会は完全に超克されねばならないはずである。当然ながら,市場経済もあってはならず,完全な計画経済により,働きに応じて報いられる平等で公正な社会が実現されていなければならない。その点は,中国共産党が目指す理想社会でも同様のはずである。

 とすれば,鄧小平が唱導した「改革開放」とそれを受けた「社会主義市場経済」体制とは,究極的には共産主義社会を目指すが,その一時的なステップとして市場経済を部分的に容認した過渡的な体制でしかないはずである。いずれ,共産党の独裁体制のもとに市場経済を吸収し,本来の計画経済による共産党独裁化の真の社会主義経済,共産主義体制の目指した経済体制が実現されなければならないはずである。

 習近平は,何よりも共産主義者であり,中国共産党の主席であり,中国共産党の私兵である人民解放軍の中央軍事委員会主席である。中華人民共和国という国家の主席という地位は,あくまでも共産党独裁下であることにより保障された地位であり,民意による合意を経た国家の最高権力者としての地位ではない。その意味で,習近平には共産党の最高指導者として共産主義社会を実現するべき責任がある。その原点を見誤ってはならない。

 習近平が行っている反腐敗闘争は,江沢民派との権力闘争としての側面があることは間違いないが,それだけではない。本来の共産主義社会を目指すならば,決して容認できない,国有財産の私物化を見逃すわけにはいかないという大義名分に基づく,共産主義者としてなすべき正義の発露でもある。したがって,共産党員ならば誰もそれに反対できないはずである。

 同様のことが経済体制についても言える。市場経済は本来存続してはならないはずであり,それを支える民間企業もそれを経営する富裕層も,共産主義社会を目指すうえでは,いずれ粛清しなければならない旧体制の残滓である。したがって,共産主義者にとり唯一,富を蓄積し発展させるべき企業は,国営企業であって,民間企業ではなく,ましてや中国人民から利益を得て搾取するために投資している外国資本・企業などではない。

 共産主義社会の実現にとり必要な組織は,党とそれを物理的暴力により反革命,反党勢力から守る私兵「人民解放軍」であり,それらを経済的に支える党直営の国営企業群のみである。この共産主義イデオロギーに基づく冷厳な事実を,自由経済体制に馴らされた西側の資本家や企業人は忘れてしまい,西側の自由経済の理論により,中国経済の動向を分析評価しがちである。共産党独裁国家の政治体制の特異さと共産党が目指す最終目標を見誤ってはならない。党の独裁権力にとり必要としているのは,党と軍と国営企業のみであり,中国国内外の民営企業も経営者もいずれ打倒すべき悪であると,習近平ら真の共産主義者からはみられていることを忘れてはならない。

 このような視点に立てば,中国経済に対する見方も根本から変えなければならない。中国共産党にとり必要なことは,自らの独裁を維持するために,軍事力とその源泉となる富を独占し,そのうつろな虚構の正義を,国内外に対し果てしもなく力を背景に拡大していくこと,最終的には世界の共産化を実現することである。

 経済面から見れば,経済の必要性は国内外で旧体制の抵抗力を破砕するための物理的暴力機構,即ち軍と公安機構を培養することにあり,民生の福利増進や生活向上はその目的ではない。ただし,体制を護持するためには社会の安定化が必要である。ただ単に力で弾圧するだけでは,民衆の不満を効果的効率的に抑圧できない。そのために経済成長を維持し,民衆の不満をなだめるために,その余禄を分け与えているに過ぎない。

 その証拠として,今でも中国経済の中で消費が占める比率は35%と,インド,ブラジルなどが5割から6割にあるのに比べても極めて低いことが挙げられる。それに比べて軍事費は,天安門事件以降経済成長率以上の毎年1割以上のペースで急増してきた。さらに,公安関係の予算には軍事費以上が投入されている。このようにいびつなGDPの配分比率は,中国共産党の独裁体制が何を優先しているかを明確に物語っている。

 上海などの株式市場も西側の通常の株式市場ではない。昨年の株価の急落に際し,空売りをするものを公安が逮捕したと報じられた。中国の株式市場は,企業の将来の成長力に期待して株の売買がされる本来の株式市場ではない。国家がいつでも介入でき,どのようにも都合よく操作できる,言うなれば共産党独裁政権が胴元となった巨大な賭博場のようなものである。インサイダー取引が,党機関が管理する閉鎖的な組織の中で,常に行われているとみてよいであろう。犠牲になるのは,インサイダー情報から排除された一般の民間投資家と外人投資家である。株価の変動もそのようにして作られ操作されており,最終的に利益を得るのはインサイダー情報に通じた,一部の党官僚とそれにつながる政商のみである。

 経済政策も国営企業に利益が集中するように組み立てられ,国営企業はいくら損失を出し不良債権を積み上げても,破たんすることは無い。人民元が国際金融市場で信認を得て,ドルに対して相応の価格で取引されている限りは,中央銀行が党からの指示に基づき人民元を刷り,それを国営企業に貸し付ければ済むことである。したがって,不良債権が巨額に達したからと言って,国営企業の破産が続出しバブル崩壊が起こることは無い。

 AIIBも外資を獲得するための受け皿に過ぎず,国際資本を巻き込むことで人民元を国際化し,他国が人民元を売りたくてもできなくなる金融体制を創ろうとする企てと言える。国際基軸通貨となることよりも,国際社会の金融界に人民元を溶かし込み,人民元が信認を失うような事態が露見しても,人民元を国際金融資本が否応なく買い支えざるを得ないようにするための仕組みであろう。

 国営企業の中核は軍需産業である。それ以外の国営企業としてエネルギー,鉄鋼などの関連企業があるが,いずれも最終的な需要者は軍である。国営企業の巨大な利権集団は軍の需要を賄うための経済力,技術力を維持培養することを最大の使命としている。そのための利益と最新技術は国営企業の系列につながるフロント企業と外資の合弁により,軍民両用技術の入手と利益吸い上げによってなされる。

 中国市場の巨大さと厚遇ぶりに幻惑された外資は,一度中国市場に進出するや,利益を上げても国外に持って出られず,中国国内での再投資を余儀なくされる。技術も資金も吸い上げられ,用済みになれば,手のひらを返したように,中国側は追い出しにかかる。しかし,撤退も容易ではない。党とつながる経営幹部はもちろん,労働者も地元警察も監督官庁も裁判所もすべて共産党の独裁化の組織でしかなく,何の中立公正性も期待できない。結局泣き寝入りするしかなく,資本も機械設備も施設もおいて,裸同然で中国から撤退しなければならない羽目になる。

 このような失敗を日本企業は,明治開国以来,戦前から何度も繰り返してきた。戦後は,中国の日本敵視,侮蔑政策がそれに拍車をかけ,日本人と日本企業に対する冷酷な仕打ちはさらに過酷になっている。保護する日本の国家権力が弱体で交渉力も軍による保護もないまま,戦後の日本人はこのような被害に会いながら,何もできずに泣き寝入りするしかなかったのである。

 最後に中国経済の将来についてであるが,党の独裁を支える党官僚,それを力で護衛する軍と公安,経済面で支える国営企業というトライアングルの間で資本と技術が回る限り,現在の「中国式社会主義市場経済」が崩壊することはないであろう。たまたま資本や技術が不足すれば,外資を呼び込んで吸い上げればよい。それでも入ってこない機微な軍事技術などは盗めばよい。このような手法で今後も少なくとも,2030年前後に人口の高齢化と減少という独裁でも越えられない壁に突き当たるまでは,中国共産党独裁化のいびつな経済とそれに裏打ちされた軍事力の肥大化は止まらないとみるべきであろう。

 そのことは,中国の近隣国に対する力を背景とする侵略的な対外膨張政策と国内の反体制派に対する力による弾圧が続くことを意味している。日本も周辺国の一国として,彼らの力を背景とする侵略を阻止する力を持たねばならない。さらに,中国共産党が,民衆の不満のはけ口として反日宣伝を執拗に国内外で繰り返していることにかんがみ,日本としては,中国共産党とそれに呼応する一部の日本人の反日輿論戦,心理戦,法律戦に対しても果敢に防衛戦を展開しなければならない。サイバー攻撃対処も含め,これらのソフトパワーの戦いでも敗北は許されない。中国経済の崩壊を論じるよりも,このような近い将来の中国の脅威にいかに備えるかを論じ,実効ある対策を考えるべきである。

関連記事

矢野義昭

新興国

アジア・オセアニア

最新のコラム