世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.576

企業の異質性と企業の成長:国際経済分析における企業視点の多様性

石田 修

(九州大学大学院経済学研究院 教授)

2016.01.25

 グローバル化の動向を考察するのに,企業の視点は重要である。貿易理論では,国の相違(生産性や要素賦存),産業間の相違(外部経済,規模の経済)から,産業内部の企業の相違へと,分析視点が推移している。そして,輸出や直接投資,オフショアリングを行う企業を対象する理論地平が開けた。つまり,国際経済学の貿易論のフロンティアである「企業の異質性」という視点である。これは,同一産業内の企業の相違として,固定費をまかなうことができる生産性(効率視点と呼ぼう)の相違を注目する視点である。市場開放されると生産性の相違により,退出企業,国内企業,貿易可能な企業,直接投資可能な企業,オフショアリング可能な企業というように,企業間の棲み分が起こる(結果として平均生産性が上昇し,所得が上昇する)。

 これを,ペンローズの「企業の成長」という論点と関連させて考えてみたい。すると,次のように捉え直すことができる。まず,企業は効率性の単位である。したがって,企業内部の組織や資源の全体を対象とするのではなく,企業組織内の固定費を賄う活動が対象となる。また,「異質性」として対象としているのは,既存の生産活動の棲み分けであり,余剰資源をどのように将来の拡張に結びつけることが可能であるかという意味での成長の相違ではない。したがって,ペンローズの視点からは,「企業の異質性」が対象としている企業活動は,ルーティーンである既存の生産活動であり,ルーティーンの効率性を管理する組織内部の経営者機能を重視しているといえる。

 企業の成長とは,同じ効率水準の企業グループ(輸出したり直接投資が可能な企業グループ)で,なぜ成長パフォーマンスが違うのかを対象とする。つまり,効率性の違いではなく,能力の違いが問題になる。そこで,企業を効率単位というよりも能力単位(あるいは資源の束)と考えてみよう。

 能力の相違を説明するには,次のような方法がある。第1に,バーニーを代表とする資源ベース論の視点として,企業の保有する資源が違うという「資源の異質性」がある。つまり,他の企業が持ち得ない排他的な資源が占有されているならば,企業の能力が異なる。第2に,ペンローズが主張するように,資源の利用によりもたらされるサービスの相違がある。資源ベース論と対比するならば,2つの企業の資源が同一だとしても,それが利用される態様が異なれば,資源のもたらすサービスは相違する。あるいは,資源を活用した知識生産が異なると考えてもよい。第3に,諸資源を用いてルーティンを管理する経営者サービスより,企業の外部環境に対する変化を知覚し,余剰資源を将来の成長にどのように結びつけるかという企業者サービスの能力の相違がある。たとえば,コアコンピタンスへの投資とそれ以外の部門のアウトソーシングという決断も企業者サービスの能力に依存する。

 さらに,ペンローズの視点を拡張するならば(ペンローズは,当初は外部資源の活用方法として買収活動を,そして後にネットワークの可能性を指摘していた),資源としてのネットワークの活用の相違も重要である。企業がプロダクト・イノベーションやプロセス・イノベーション指向ならば,どちらかというと組織内ネットワークの強い紐帯を選好し,グローバル・バリューチェンへの参入を試みる。しかし,ビジネスモデル・イノベーションを指向するならば,弱い紐帯を活用し,構造的埋め込み(信頼にも基づいたネットワーク)を活用することで,将来のバリューチェーンを構成する企業の組み合わせを再編し,破壊的イノベーションをもたらし,グローバル・バリューチェーンを主導・統治する。前者型の企業は,付加価値創造によりバリューチェーンへの激しい参入競争を行う。後者は,バリューチェーン内部の付加価値の配分の強い決定権を持ち,バリューチェーンの再編を行う。つまり,効率性の相違がアウトソーシングと関連づけられたように,能力の相違がアウトソーシングへの対応の相違として現れる。

 このように,市場メカニズムにおける効率性の相違か,ネットワークを構成する企業の能力の相違を対象とするかで,企業の異質性(あるいは成長・淘汰)のとらえ方は,違ったものとなる。国際経済の構造を企業の視点から考察する多様な視点が存在することを確認しておきたい。

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石田 修

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