世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
師走に「大阪・関西万博」を振り返る:経済効果と教育効果の観点から
(京都産業大学国際関係学部 教授)
2025.12.22
2025年が間もなく終わろうとしている。国際情勢を思い返すと米トランプ大統領に世界が振り回された1年であった。相互関税や米中貿易などの摩擦,ウクライナ侵攻やガザ紛争への介入,イランやベネズエラへの攻撃など,国際情勢が分断・不安定化され暗澹となる事象が多かった。そんな中,日本,特に関西で明るい事象として注目されたのが「大阪・関西万博2025」であった。閉幕して2か月が経った現在,改めてその意義を考えてみたい。本稿では「経済的効果」と「教育効果」という2つの視点からレビューを試みる。
博覧会協会によると2025年4月18日~10月13日の184日間で,29,017,924人(関係者3,438,938人含む)の累計来場者があった。東京三菱リサーチ&コンサルティングの携帯位置情報分析(2025年11月13日)をベースにしたアジア太平洋研究所(APIR)(注1)の推計(2025年12月3日)によると,一般来場者の42.6%を地元大阪府が占め,関西地域(2府4県)では65.8%と,全体来場者の約7割が関西地域からであった。このことから万博は関西中心に大いに盛り上がっていたことが分かる。筆者が居住する京都府の来場者は約109万人と4.3%であった。人口規模が大阪府の3割程度であるにしても少々寂しい気がする。ちなみに筆者は合計で8回訪問し,しっかりと貢献をさせていただいた。なお,海外からの来場者は約283万人と11.1%であった。これは博覧会協会が開催前に発表した想定来場者数の350万人よりは少なかったものの,1割以上が海外来場者であったことは一定の評価ができよう。万博内や周辺地では海外の一般向けやビジネス向けのイベントが連日開催され,その度に多くのビジネスミッションが来日していた。この海外来場者は周辺のインバウンド消費にも貢献していることが容易に想像でき,実際,万博開催中は京都市内にも外国人が増えたような印象がある。APIRの一般来場者消費の分析によると,大阪府在住者は1,433億円,大阪府以外の関西在住者は1,154億円,海外客は4,196億円,総額で1兆279億円の消費があったとしている。海外客の主な消費は,買い物代(1,343億円),飲食代(1,279億円),宿泊費(1,116億円)と続き,宿泊を伴ういわゆるインバウンド消費が大きい。これら海外客からの経済的効果(発生需要額)を最も受けたのは,開催地大阪府で6,710.8億円であったが,次いで京都府が挙げられ,1,373.8億円(内飲食費443.2億円,宿泊費473.5億円)であった。京都府にも大きな経済的効果があったことが分かる。
筆者は大学に所属するため,万博を若者への教育面で活用できないか開催前からその機会を探っていた。万博はパビリオン訪問がメインイベントであることに間違いはないが,海外の有識者が気候変動や生成AI,食糧問題など様々なテーマで世界情勢を議論する「テーマウィークセミナー」が連日開催されていた。そこで筆者のゼミ生をいくつかのテーマウィークセミナーに参加させ,一流の専門家の話を英語で聞かせ,後日レポートを提出させるなど,万博を学びの場とすることを実践した。また,万博内で開催された関西の地場産業の活性化を提案する学生コンペティションにも参加させた。さらには海外パビリオンに学生をインターンとして受け入れてもらい,参加した学生は自身のパビリオンのみならず他の海外パビリオンの外国人とも交流を深めていった。これらの経験を経た学生たちは一様に海外と日本の素晴らしい関係性に気付き,国際人材になるためには何が必要なのか,また,世界における日本の位置づけを深く考える貴重な機会となった。実際,万博開催を契機に留学やワーキングホリデーを新たに考え始め,海外に飛び出していった学生もいた。万博の場は単に海外パビリオンを視察・体験するだけではなく,人と人の交流を生み,自身や日本の将来のことを考える素晴らしい教育現場となった。結びにあたり,ある学生の万博の感想を原文ママ引用し,本稿を締めくくりたい。万博は若者への投資であったとは言い過ぎであろうか。しかし,先に述べた経済効果よりもはるかに大きなリターンを万博は将来もたらすであろうと筆者は確信している。
“学生時代に行くことが出来たのが何よりも人生において貴重な経験。日本の未来について後ろ向きなことを最近考えることが多かったが,万博に来てから,日本の企業努力や技術のすごさ,可能性など「夢が広がるもの」を多く見ることができました“。
[注]
- (1)アジア太平洋研究所(APIR: Asia Pacific Institute of Research)は,大阪を拠点にアジア太平洋地域と関西経済の持続的な発展を目的として活動する,独立系の民間シンクタンク。2011年12月に,関西経済連合会(関経連)などの経済界,学識者,行政が協力し,「関西社会経済研究所」と旧「アジア太平洋研究所」を統合する形で設立された。
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