世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3740
世界経済評論IMPACT No.3740

回復が遅れる日本の家計最終消費支出

榊 茂樹

(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)

2025.03.03

コロナ禍前ピークを2%下回る実質消費

 2月17日発表の日本の2024年10−12月期GDP統計によれば,実質GDPは前期比年率換算で2.8%増加しました。一方,実質家計最終消費支出は,3四半期連続で増加したものの,同+0.5%に留まりました。水準としても,実質GDPがコロナ禍直前のピークの2019年7−9月期を1%近く上回っているのに対し,実質家計最終消費支出は2%程度下回っています。

必需品の価格上昇が家計を圧迫

 食料や燃料などの生活必需品が多く含まれる非耐久消費財への支出は,実質ベースでは2004年頃から緩やかな減少基調にあります。しかし,名目ベースでは2020年10−12月期からの4年間で,20%以上増加しています。非耐久財消費支出が国内最終消費支出に占める比率は,コロナ禍直前の2019年10−12月期の27.5%から,2024年10−12月期には29.6%に上昇しています。生活必需品の価格が上昇しても,家計はその支出量を減らしにくい傾向があります。非耐久財消費支出デフレーターが急上昇したことで名目ベースでの非耐久消費財支出が増え,家計が圧迫されていることがうかがわれます。非耐久消費財は輸入比率が高い上に,国内での生産も原材料や燃料を輸入に依存する所が大きいため,円安によって価格が上昇しやすい面があります。

消費支出回復には賃上げや減税より円高

 家計最終消費支出の回復の遅れの原因として,従来,物価上昇による家計所得の実質的目減りが指摘されていました。しかし,賃上げの進展によって,雇用者報酬は実質ベースで2023年7−9月期から2024年10−12月期までに3.3%増大しました。そこに,所得・住民税減税の効果も加わって,実質可処分所得も回復しています。

 ただ,生活必需品などの非耐久財の物価上昇は日々の生活の中で実感されやすいため,家計の節約志向が強まって消費支出が抑制されているようです。家計貯蓄率はコロナ禍のもとで上昇した後,一旦低下しましたが,2023年10−12月期の0.7%から2024年7−9月期には3.9%へ上昇しました。新型NISAが始まって家計の積み立て投資が増えていることも,家計貯蓄率の上昇を招く一因となっている可能性があります。

 こうした点から見ると,実質最終消費支出の回復には,賃上げや所得税減税よりも,円高による非耐久財物価の下落の方が効果的なようです。足元で多少円高に動いている中でも日銀が段階的利上げ継続の姿勢を示している背景には,そうした意識がありそうです。

 また,トランプ関税回避の意味合いも兼ねて,農作物の輸入関税を引き下げるのも一案かもしれません。ただ,円高容認にしても農作物の関税引き下げにしても,反対意見もあり,政治的にコンセンサスが取れないという難しさは否めません。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3740.html)

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