世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本の国債利回りはどこまで上がるのか
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2025.01.27
米国債利回り上昇の影響
日本の10年物国債利回りは,2021年末のゼロ近辺から上昇し,今月には一時2011年以来の1.2%台に達しました。国債利回りの変動は株価や景気への影響が大きく,注意が必要です。日本の国債利回り上昇の要因としては,第一に米国債利回りの上昇が挙げられます。2001年1月から月次データで見ると,日米の10年物国債利回りの相関係数は0.792とかなり高くなっています。米国の10年物国債利回りは,コロナ禍初期には0.5%前後まで低下しましたが,インフレ率上昇や金融引締めを受けて大きく上昇し,2023年10月には一時5%に達しました。その後,インフレ率の低下や利下げへの転換により一旦4%を切るところまで下がりましたが,トランプ新大統領による関税引上げの観測などによるインフレ再加速の懸念から再上昇し,足元では4.6%前後となっています。
政策金利と国債利回りの関係
日本の国債利回り上昇の第二の要因は,日銀による政策金利の引上げの観測です。10年物国債利回りと政策金利である無担保コール金利の相関係数は,2001年1月からの月次データで見て0.585と,米国債との相関に比べてそれほど強くないようです。ただ,理論的には,国債利回りのような長期金利は,政策金利のような短期金利の予想値の集積と言えます。
また,以下に示す日本の10年物国債利回りの回帰分析によると,政策金利が1%上がれば国債利回りは1.4%上昇すると推計されます。
回帰分析による日本の10年物国債利回りの推計
推計期間:2000年1月~2025年1月,月次(月末値,2025年1月は1月17日時点)
- 日10年国債利回り
- =0.326*米10年国債利回り+1.400*無担保コール金利−0.318
- (19.10) (10.67) (−5.77)
- ( )内はt値 修正済み決定係数:0.709 標準誤差:0.328
1月23,24日開催の日銀金融政策決定会合では,無担保コール金利の誘導目標が0.25%から0.5%へと引上げられました。上の推計式に基づけば,10年物国債利回りは1%台後半に上昇してもおかしくありません。
GDPギャップはマイナスで推移
ただ,国債利回りがそこからさらに上昇するかは,定かではありません。内閣府の推計では,コロナ禍以降,日本のGDPギャップは2023年前半を除いてマイナスに留まっています。直近値の2024年7−9月期には−0.4%となっています。10−12月期の実質GDPは前期比横這い程度と,潜在GDP成長率を下回ると見られ,マイナス幅が拡大しそうです。GDPギャップがマイナスであることは経済全体では需要不足状態にあることを示しています。生鮮食品を除く消費者物価指数の前年同月比上昇率は,2022年4月以来日銀が目標とする2%を超え続けています。ただ,一部品目の大幅な価格変動の影響を受けにくく,インフレ率の基調を示すと考えられる消費者物価加重中央値の前年同月比上昇率は,2023年10月の+2.2%をピークに低下し,2024年11月には+0.9%に留まっています。円安の影響で食料やエネルギーの物価が大きく上昇しても,景気が勢いを欠いているため,その他の品目の物価上昇にあまり波及していないことがうかがわれます。こうした状況のままでは,日銀が期待する物価と賃金の好循環は続かず,さらなる利上げの機運は高まらないでしょう。
一方,米国の関税引上げが大規模になれば,インフレ懸念から米国債利回りがさらに上昇して,その影響が日本の国債利回りにも及ぶでしょう。ただ,日本から米国への輸出品にも高率の関税が課されることになれば,日本の景気への影響が大きくなり,追加利上げの観測がさらに後退する可能性もあります。日本の国債利回りは内外情勢両にらみの状況であり,上下に大きく振れやすくなっているようです。
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榊 茂樹
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