世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
どうなる2025年?
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2024.12.30
技術進歩がもたらすもの
2024年の初め,1月8日付の本コラムに「どうなる2024年?」を寄稿させていただきました。2025年は1月13日スタートということで少し遅くなることから,年内に「どうなる2025年?」を書くことに致しました。「どうなる2024年?」を読み返すと,結果的に間違いだらけで,自分の予測能力の無さを痛感するばかりです。そこで,今回は予測よりも今年の注目点を中心にお話しようと思います。
コロナ禍を経て世界経済の構造変化が明確になっています。中でも,各国の設備投資の内容が設備,機械,建造物といった形あるものから,無形の知的財産へシフトしていることの影響が大きいようです。米国では,知的財産投資が非住宅固定投資に占める比率は,2014年の30.4%からコロナ禍直前の2019年には35.9%へ,2024年の7−9月期までの平均では39.9%へと上昇しています。知的財産投資の内容としては,情報通信技術やAIなどに関するものが多く,その面での技術進歩が生産性を高めているようです。ただ,こうした技術進歩は,新たな需要や雇用を創成するより,既存の財・サービスを代替したり,同等の財,サービスをより少ない雇用で生産できるようになったりする面の方が強いように見受けられます。経済の供給面が強化される一方,雇用や需要が抑制されれば,世界的に失業が増加し,需要不足になる可能性があります。2025年は,技術進歩がもたらすものを見極める年になりそうです。
労働分配率の低下と格差拡大
コロナ禍後の物価上昇と技術進歩による生産性向上により,労働者がしわ寄せを受けているようです。日本では,最近の物価を上回る賃上げを反映して,実質雇用者報酬が直近値の2024年7−9月期まで前期比で4四半期連続で増加しています。しかし,7−9月期の水準は,コロナ禍直前の2019年10−12月期よりも2.9%低いところに留まっています。米国では企業部門の労働分配率(=雇用者報酬/間接税,補助金控除後の企業純付加価値)が,2019年の75.2%から2024年の7−9月期までの平均では71.9%へ低下しました。歴史的に極めて低い水準です。
一方,企業利益はコロナ禍でいったん落ち込んだ後,製品単価引き上げと労働コストの抑制などにより,世界的に堅調に推移してきました。物価上昇や雇用者報酬の抑制は,主に中低所得者層にとって負担となる一方,企業利益の増大は株価上昇などを通じて富裕層の所得や資産の増大をもたらし,格差拡大を助長する要因になっているようです。各国で労働者から賃上げを求める声は強まっていますが,足元で世界的に企業利益の伸びが鈍ってきていることから,企業は雇用を削減して労働コストを抑制する方向に動くかもしれません。労働者と企業のせめぎ合いは,2025年の一つの注目点です。
自国第一主義的風潮の高まり
中低所得者層の負担増や格差拡大は,各国で社会の分断化を深め,政治への不満が高まっています。米国でのトランプ氏の大統領返り咲きも,その反映と言えます。ただ,技術進歩などの経済の内在的要因に起因する格差拡大の解消は難しいでしょう。政治に対する不満のはけ口を海外に求める自国第一主義的風潮は,トランプ次期政権下の米国に留まらず,世界的に強まりそうです。各国で現政権が弱体化したり,政権交代が生じたりなどして政治の不透明感が増す中,自国第一主義の行方は,2025年の大きな注目点になるでしょう。
米国の対外直接投資資産残高のGDP比は2010年代半ばから概ね頭打ちとなっています。具体的には,2010年末の35.8%から2013年末には40%以上まで上昇しましたが,その後は40%前後で推移してきました。直近値の2024年4−6月期は39.0%でした。2017年の第一次トランプ政権発足以前から,米国経済のグローバル化にはある程度ブレーキーがかかっていたと言えるでしょう。第二次トランプ政権は,関税賦課と共に米国企業の国内回帰や外国企業の米国への投資を促すと見られます。米国の内向き志向の高まりは,世界経済における米国企業のプレゼンス低下を招き,米国の国際政治上の影響力の低下にもつながりそうです。
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