世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
最近のイギリスとフランス
(元城西国際大学院 特任教授)
2024.11.25
このところイギリスとフランスの情勢に関心を持っている。ともに夏に総選挙があり,内閣が交代した。
イギリスでは7月の総選挙の結果,労働党が14年ぶりに保守党から政権を奪還。スターマー内閣が発足し,10月末にリーブス財務相による予算演説が行われ,来年には歳出レビューが行われる。
保守党の大敗,労働党の6割を超える議席確保(議席数はほぼ倍に,しかし投票率は3分の1強)は予想をこえるものだった。ここ数年のEU離脱をめぐる国内の混乱やコロナ禍での保守党のジョンソン首相のビヘイビアや経済運営面でのトランス首相の無責任な対応はイギリス国民や市場の保守党に対する強い批判に繋がった。左派色が強かった労働党がスターマー党首の下で現実路線に転じ,経済成長加速・公共サービスの改善を打ち出したことも歓迎された。新政権は「国に希望を与え,成長を取り戻すのが課題」(FTウオルフ記者)であろう。
フランスでは6月から7月初めに二回の投票を行った下院(国民議会)選挙で政権党たる中道派が票を大きく減らした。移民の増加や年金改革などでの大統領の政治手法への不満が原因のようだ。しかし中道派に共和党右派が加わったバルニエ連立内閣が9月下旬に発足し,来年度予算の国会審議が始まった。
極右の国民連合(RN)の大きな躍進は,第二回投票において急遽新人民戦線を作った左派―社会党,緑,共産党,極左の「不服従のフランス(LFI)」―と中道グループの選挙協力が奏功し,実現しなかった。結局,議席数は新人民戦線が最大の180,中道派は第二党,国民連合は第三勢力にとどまった。
政治休戦状態だったオリンピック・パラリンピックが終了した8月下旬からマクロン大統領と各政党や労働組合・企業団体との協議が精力的に続けられ,9月上旬には大統領権限で第四勢力たる共和党右派のベテランのバルニエ議員(73歳,直前は英とのEU離脱交渉担当のEU委員,かつて外相,農相も経験)が首相に指名され,中道・右派・一人はもと社会党出身からなる新連立内閣が発足した。バルニエ内閣を支える中道・右派は合わせると約230議席の第一勢力だが,過半数289には達しない,少数連立与党である。
他の欧州諸国では近年連立政権の組閣が難航する例が目立つが,フランスでは有力な統一首相候補を立てられなかった左派に強い不満が残ったものの,比較的スムーズに現実的な形で新内閣が発足したように見える。
三つの勢力のいずれもが過半数を得られない「三すくみ」状態のなかで,今や第三勢力たる国民連合が内閣不信任を決める鍵を握った。バルニエ内閣は,すでに国民連合の主張に近い不法移民の強制送還を柱とする移民法改正を来年行うとしている。また,現在両院協議の過程にある予算法案については政府原案の増税や電気料金引き上げに国民連合は反対の姿勢である。予算法案は,最後は憲法第49条3項に基づき,議会採決なしで通過,成立すると見られているが,マクロン大統領の力も弱まり,バルニエ内閣は今後も綱渡りが続きそうだ。
*
経済面では,IMF見通し(24年10月)やOECDの国別経済調査を参考にしつつ,次の三点に注目している。
第一はコロナ禍や国際紛争の影響による経済への深刻な打撃(大幅なマイナス成長,40年ぶりの高インフレ)からの回復ぶりが弱々しい。イギリス・フランスはともに実質GDP成長率が0%台から1%台,来年も同様との見通し。
両国はここ数年コロナ対策や物価安定のために財政支出を増やし,ネット公的債務残高がGDPの100%前後まで上昇し,その抑制・引き下げを図りながら経済成長を図ることが課題である。特に医療・教育などの公共サービスの質が低下しているイギリスでは公共投資を中心とした投資拡大が強く求められ,増税も避けえないだろう。財政拡大を長く続けたフランスは,債務比率が110%を超え,EUの共通目標(60%)に向い具体的な措置を取る要がある。
第二は両国とも労働生産性が長期的に低下し,それを引き上げねばならないことである。イギリスはG7諸国の中で世界金融危機以降の生産性の低下幅が最も大きく,投資率も一番低い。R&D,デジタル技術,インフラへの投資,スキルの向上が求められる。フランスは投資率こそイギリスより少し高いが,同じような問題を抱え,特に一般的な教育水準の引き上げが課題である。15歳の学習到達能力調査(PISA)の点数はイギリスより,そして日米より低い。
第三は生産労働力が減少するイギリスやフランスにとって移民は受け入れ負担や社会の緊張を伴うが,若く重要な労働力であることである。移民比率はイギリス14%,フランス12%と他の先進国並みであり(アメリカ15%,日本は2%),サービス産業・農業で働く不法移民の規制は経済的影響をもたらそう。
日本とイギリス・フランスとは,その状況や課題に共通点が多い。防衛力強化や米国による関税率引き上げにも協力した対処が期待される。
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