世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3632
世界経済評論IMPACT No.3632

止まらない日本経済のグローバル化

榊 茂樹

(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)

2024.11.25

輸出入,対外所得受払いのGNI比の上昇

 11月18日付の本コラムNo.3623「なぜトランプ氏は勝利したのか」では,米国で財・サービスの輸出入や海外との雇用者報酬,利子,配当などの所得の受け払いの国民総生産(GNP=GDP+海外からの所得受取-海外への所得支払い)に対する比率がリーマンショックの前後で頭打ちとなり,米国経済のグローバル化にブレーキがかかっていることを指摘しました。一方,日本では,輸出入や海外との所得の受け払いの国民総所得(GNI=GNP,米国の国民所得統計ではGNP,日本ではGNIと表記)に対する比率は,長期的に上昇傾向が続いています。1994年1-3月期には輸出のGNI比は8.7%でしたが,直近値の2024年7-9月期には21.2%に上昇しました。同時期に輸入は6.6%から22.6%へ,海外からの所得受取は3.1%から10.5%へ,海外への所得支払いは2.2%から4.1%へと,それぞれ上昇しています。

 中でも,海外からの所得受取が近年急増し,所得支払いとの差が拡大しています。一方,輸出は2021年4-6月期から輸入を下回り,財・サービスの貿易収支は赤字が続いています。

直接投資純資産残高の累増

 海外からの所得受取の急増は,米国の金利上昇や円安によって海外所得の円換算額が増大したことなどの影響もありますが,以前から海外投資が活発に行われてきたことの累積的な効果が出ているようです。

 日本の対外純資産残高は,日本企業の海外進出により,直接投資純資産(対外直接投資資産残高-対内直接投資資産残高)を中心に増えています。対外純資産残高のGNI比は,2013年10-12月期の61.4%から直近値の2024年4-6月期には83.8%へ上昇し,同時期に直接投資純資産残高は18.8%から46.2%へと上昇しました。こうした直接投資資産の累増に伴って,日本の企業の海外子会社からの利子,配当の受取が増大しています。さらに,新NISA導入などにより,足元で個人投資家の海外証券投資も増えており,現在GNI比20%程度の証券投資純資産の増大ペースも加速し,証券投資に伴う収益の受取が一段と増える可能性があります。

日本経済の世界シェア縮小

 10月発表のIMF(国際通貨基金)の世界経済見通しに付随するデータベースによれば,日本のGDPの世界経済に占めるシェアは,長期間縮小傾向が続いています。為替レートの変動の影響を受けない購買力平価レート換算ベースでは,日本のシェアは1980年の7.8%から1991年には9.1%まで上昇しましたが,そこから下落に転じ,2023年には3.5%まで低下しました。IMFは2029年には3.0%まで下がると予想しています。市場為替レート換算ベースでは,1980年の10.1%から1994年に17.8%まで上昇しましたが,2023年には4.0%まで下がり,2029年には3.6%になると予想されています。日本経済の相対的な付加価値生産力と市場規模が低下している中で,企業や個人投資家が投資先を海外に求めることは自然な流れであり,日本経済のグローバル化は止まりそうにありません。

 日本銀行や政府が低金利と円安を続けて国内投資を促そうとしても,円安は日本市場の相対的規模を縮小させるため,むしろ海外投資に拍車がかかりかねません。

 かつて円高が企業の海外進出を促し,日本経済の空洞化を招いたと言われました。現在も円高は短期的には景気を悪化させたり,物価を下落させたりする要因であるため,政府,日銀は円安志向から,なかなか抜け出せないようです。しかし,慢性的円安は円の信認低下を招き,海外投資増による資本流出と円安のスパイラルが生じる懸念もあります。日銀は金利水準の正常化を進め,政府は政府債務を抑制して,円の信認の維持に努めることが求められます。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3632.html)

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