世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3384
世界経済評論IMPACT No.3384

米国政府による66億ドルの補助金供与:TSMCアリゾナ第3工場建設の発表

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2024.04.22

66億ドルの補助金供与とTSMCアリゾナ第3工場建設

 4月8日,米国政府は「CHIPS法」に基づき,TSMCのアリゾナ工場の建設に66億ドルの補助金の拠出と最大50億ドルの融資を発表した。またTSMCはIT(情報技術)投資に基づく税優遇措置として,資本支出額から25%の投資税額控除を米国政府に申請,これが適用されることとなる。

 TSMCはアリゾナ第1工場(Fab21)で,線幅4nm(ナノメートル)の先端半導体の製造,これに続く第2工場で線幅3nmや2nmの先端半導体の製造,4月8日に発表した第3工場では2nmやそれ以下の先端半導体を製造することで,3つの工場に対し合計額で650億ドルを投資すると発表した。TSMCのアリゾナ工場で製造した先端半導体は,主にはAI(人工知能)で使われる先端半導体の応用にターゲットを合わせるものである。第3工場建設の発表と米国政府による補助金に関する発表に対し,AI半導体の最大顧客であるNvidiaとAMDはそれぞれ祝意を伝えた。

 米国での半導体工場建設はコスト高であるにも関わらず,TSMCは売上高目標の複合年間成長率(CAGR)を21~25%と変えず,売上総利益の粗利益率を53%にキープできると発表した。この発表は株主に安心感を与え,4月8日当日のTSMCの株価は史上高の800台湾ドルを突破した。

 2020年にTSMCはアリゾナ工場で線幅5nmチップの製造投資を発表した。当時の投資額は120億ドルであり,工場建設と製造装置の搬入式典時には,バイデン大統領を始め,政府,半導体サプライチェーンのトップが参加した。その際,劉徳音TSMC会長は,アリゾナに3nm半導体製造の第2工場を建設すると発表し,第1工場と第2工場で合計400億ドルの投資を表明した。この度の第3工場を含めた投資額は合計で650億ドルに達する。TSMCは,台湾から技術支援スタッフをアリゾナに派遣し,装置の設置・調整などを進め早期の量産化体制構築を図る。当初,米国の労働組合によるスタッフ受け入れに反対するトラブルが生じたが,現時点では組合との交渉が合意に達し,米国政府からの支援も支障なく実施される。

CHIPS法による補助金

 米国政府がIT関連企業各社に対する「CHIPS法」に基づく補助金額と配分率,補助決定日は次のようである。

  • ・インテル:85億ドル,21.8%,3月20日
  • ・TSMC:66億ドル,16.9%,4月8日
  • ・サムスン:64億ドル,16.4%,4月15日
  • ・グローバル・ファウンドリーズ(GF):15億ドル,3.9%,2月21日
  • ・マイクロチップ:1.6億ドル,0.4%,1月4日
  • ・BAE System:0.4億ドル,0.1%,2023年12月13日
  • ・未定の補助金残額は158億ドル,補助金比率40.5%
  • ・補助金合計:390億ドル

日米半導体補助金の比較

 日米両政府がそれぞれTSMCに提供する補助金の供与額を比較すると,明らかに日本の気前が良いことがわかる。これによって,TSMCが日本での半導体工場建設により前向きになったことが考えられる。TSMCの熊本工場の投資額,日本政府からの補助金,量産化年は次のようである。

  • ・熊本第1工場(線幅12/16nm~22/28nm):投資額86億ドル,補助金2476億円,2024年に量産化
  • ・熊水第2工場(線幅6nm):投資額200ドル(第1工場と第2工場の合計),補助金7320億円,2027年に量産化

花蓮大地震によるTSMCへの影響

 4月3日の花蓮大地震は過去25年間で最大の地震であった。TSMCでは地震の震度が4以上の場合,製造装置は自動的に停止する。生産ラインの製造途中のウエハーは全て“お釈迦”(使用不能)になるが,今回の地震でTSMCの蒙った損失は大きくない。

 今回の花蓮大地震の発生は世界に大きなショックを与え,米メディアCNNによると台湾は地震帯に位置しているため,TSMCが台湾で半導体生産するリスクは大きいと報道する。しかしながら,TSMCは震災対策をかねて適切に講じており,発災後,僅か1日で80%以上の生産能力を回復させ,世界を驚かせた。

 25年前の1999年9月21日に発生した台湾の「921大地震(集集大地震)」では,ナスダック(NASDAQ)証券取引所の取引中止が余儀なくされ,半導体関連銘柄の株価が低落した。当時,TSMCも大きな損失を蒙ったが,生産自体は数日間で復旧させた。

[参考文献]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3384.html)

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