世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
バイデン政権の経済政策の失敗
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2024.03.18
コロナ禍前水準まで戻らない労働参加率
3月11日付の「トランプ人気の経済的背景を考える」で取り上げたトランプ人気は,裏を返せばバイデン大統領の不人気の反映とも言えます。それを経済面から見れば,バイデン政権の経済政策に不満を持つ人が多いということではないでしょうか。バイデン政権は高圧経済政策を遂行してきたと考えられます。イエレン氏がFRB議長だった時,過熱状態まで景気をふかせば,人々の職探しの意欲や企業の設備投資意欲が増して,経済の供給力が高まり,自ずと景気過熱も解消されるという高圧経済論を唱えました。イエレン氏が財務長官になり,それを実践したと言えそうです。
コロナ禍で大幅に落ち込んだ景気は,金融緩和や財政支援策によって急回復しました。2020年4月に15%近くまで急上昇した失業率は,2022年後半にはコロナ禍前と同程度の3.5%前後まで下がりました。しかし,労働参加率(=労働力人口/16歳以上人口)はコロナ禍直前には63.3%であったものが,今年2月には62.5%に留まっています。FRBの推計で4.1%とされる自然失業率を実際の失業率が大きく下回り,人手不足の状況になっても,人々の職探しの意欲は十分回復しなかったようです。
耐久消費財物価の急騰
金融・財政政策によって需要が回復した一方,コロナ禍に加えてウクライナ戦争の勃発などにより供給の回復が追い付かず,物価は急上昇しました。特に,自動車などの耐久消費財の物価は,コロナ禍直前には前年同月比で小幅マイナスであったものが,2022年初めには18%以上まで急騰しました。耐久財にやや遅れてガソリン,食料などの非耐久消費財の物価も大きく上昇し,2022年6月には前年同月比16%以上になりました。その後,耐久財,非耐久財とも上昇率は鈍り,耐久財消費者物価は2022年末から前年同月比で下落に転じ,今年2月には−1.6%となっています。非耐久財は+1.1%です。ただ,耐久財物価が下落に転じたとは言っても,急騰した分を相殺するには至っていません。足元で物価の上昇率はかなり下がっているものの,物価の水準はコロナ禍前より大幅に高くなっていることが,バイデン政権への不満を招いているようです。
一方,サービス消費者物価は,2月には前年同月比+5.0%と高い上昇率を続けています。個人消費支出の3分の2を占めるサービス支出のインフレ率が高いままではFRBは容易に利下げはできず,金融引締めの影響が解消されない中では耐久財物価は下げ止まりにくいでしょう。耐久財の物価下落が,自動車などの耐久財生産の中心であり大統領選で接戦が予想される,いわゆるラストベルト地域の景気に響けば,バイデン再選は一層厳しくなります。
大幅財政赤字は高圧経済政策の負の遺産
連邦・州・地方政府と社会保障基金を合わせた一般政府の財政赤字(資本移転分を除く)は,GDP統計ベースでは,コロナ禍前の2019年にはGDP比6.6%でした。これは景気後退前の赤字幅としては歴史的に見てかなり大きかったと言えます。コロナ禍に対する大型財政支援策の発動で歳出が急増し,財政赤字は四半期ベースでは一時GDP比20%以上まで急拡大しました。コロナ禍初期の財政支援策はトランプ政権下で行われましたが,バイデン政権がスタートした2021年にも追加支援策が打たれました。既に失業率はある程度下がり,消費者物価インフレ率も底を打っていたタイミングでの追加財政刺激策は,高圧経済政策を特徴づけるものだったとも言えそうです。その後,歳出水準は平時に戻る一方,景気回復と物価上昇で歳入は増大し,財政赤字は2022年にはGDP比4.5%まで縮小しました。しかし,2023年の所得税率区分変更で歳入が減少し,財政赤字のGDP比は7%台半ばに再拡大しました。トランプ政権のコロナ禍前の時よりも,足元の財政状況は悪化しています。
税率区分変更の背景には,税負担増に対する人々の不満をかわすというバイデン政権の意図があったのではないでしょうか。また,物価高騰により一時鈍化した景気が勢いを取り戻すことにも寄与したようです。ただその分,インフレ率の低下が遅れたとも考えられます。今後景気後退になった時に,財政刺激策を発動する余地が小さくなっていることも否定できないでしょう。景気の先行きが不透明な現状で大幅な財政赤字を抱えてしまったことは,高圧経済政策の最大の負の遺産とも言えます。
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