世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3149
世界経済評論IMPACT No.3149

蔡英文総統の主張:国慶節で何を語ったのか

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2023.10.16

 10月10日,蔡英文総統は2期8年間の任期中(来年5月まで),最後となる国慶節(建国記念日)を迎えた。蔡総統は「台湾の揺るぎない存在は,世界の民主主義,安全保障,繁栄の持続・発展に対する最大の保証である」との趣旨で講演を行った(中華民國112年國慶大會 「筱君台灣PLUS」全程直播|20231010)。

 講演では冒頭,2016年5月の総統就任から77年余りの実績に触れ,2025年から正式に配備される「潛艦国造」(初の国産潜水艦)について国民に報告した。そして,台湾の揺るぎない国防への決意を述べ,地域の安定への貢献と対中政策について3つの重点を挙げた。蔡総統は,「平和が台湾と中国の間の唯一の選択である」とし,「現状維持」が台湾の方針であることを強調した。また「自身が総統に就任した当時は,国際社会から注目を集める台湾ではなかった。しかし,今では台湾は世界の平均経済成長率を超え,ハイテクなどの多くの分野において国際社会に対し影響力を持つようになった。世界各国は台湾の次期総統選挙に関心を寄せている」と述べ,台湾が国際社会に対する責務と役割を担っていると述べた。

 蔡総統の講演をまとめると,まず,台湾海峡両岸の「現状維持」は既に国際社会共通の要請であり,武力や圧力を通じた一方的な現状変更に対しては,国際社会と協力し「強く抵抗する」と宣言した。同時に,地政学的戦略,世界の民主主義の発展や国際サプライチェーン・システムに対して,「台湾が最も安全で信頼ある効率的な協力パートナーの役割を果たす」と強調した。そして,台湾が未来に向け持続的に前進し,発展することで,国際社会から支持されるパートナーであることの保証を約束した。

 第2に,台湾と中国の両岸関係において,蔡総統は「平和は両岸の唯一の選択だ」とし,「現状維持」が双方が受け入れ,平和を確保する重要な鍵であると強調した。その上で,「北京当局も平和のルールに則った現状の安定に注力し,台湾も主権と民主主義,自由の確保を歴史的事実の下で,平和で安定した両岸関係の持続的構築に取り組む」と述べた。その上で,「台湾の民意とコンセンサスを基礎に,対等の尊厳を前提とした民主的対話を通じ,現状維持を核心的目標として,北京当局と双方が受け入れられる相互交流,平和共存と発展の道を探って行く」とし国際社会の一員として,台湾が負うべき責務を果たして行くと述べた。

 第3に,台湾は国際社会の信頼と支持を得ることは不可欠であり,「国内において与野党は競争関係だが,国外に対しては一致団結で臨むことが極めて重要である」と与野党双方に向け呼びかけた。来年1月の次期総統選挙後には双方が過熱した政治合戦を鎮静化させ,台湾として更に大きなコンセンサスを作り上げて行くことを求めた。

 また,蔡総統は台湾海峡について「台湾がリスクをコントロールし,両岸の平和安定に重要な役割を担うことに対する諸外国の期待はますます強くなっている。これは台湾の与野党を問わず,両岸の安定に対する歴史的責任と使命である」とし,65年前の「八二三戦争」(第2次台湾海峡危機(1958年8月23日~10月5日にかけて,金門島駐在の台湾軍隊に対する人民解放軍による砲撃を指す)の例を引用して,「1949年に中華民国政権が台湾に移ってからの74年間,異なるエスニックグループによる複数の意見の中で,最大限の妥協を見出し,人々は自由と民主主義を堅持するため,幸福と禍を共にして過ごしてきた。今,台湾は権威主義(中国)のリスクに直面しており,与野党を問わず,国家を守ることへ共同責任を負っている」とし,対外的に一致団結することを重ねて求めた。

 最後に蔡総統は,「台湾は民主主義の国だ。どのようなイデオロギーをもった政権でもより多くの国民を満足させる必要がある。それは政府が果てしなく追求する目標だ。自分の任期は来年5月20日で終わるが,国は引く続き前進しなければならない。私は,台湾が着実に前進し続けると信じている。私たちは民主主義により,より良い台湾を造り,世界に貢献してゆかねばならない」とした上で,二期に亘り総統の機会を与え協力してくれた台湾国民に対する謝辞で講演を締めくくった。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3149.html)

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