世界経済評論IMPACT（世界経済評論インパクト）

中国の大から「中小企業政策」へ：「専精特新小さな巨人」の育成

朽木昭文

（ITI 客員研究員・放送大学 客員教授）

2023.07.31

　産業政策は，これまでの「支柱産業」と呼ぶ大企業の育成中心から本格的な成長戦略として「中小企業政策」に改革開放後に初めて転換した。それは，自国の「専精特新小さな巨人」中小企業の育成である。専精特新とは，専門化・精密化・特色化・斬新化の意味である。習近平氏の新時代の中国の社会主義は，中華民族文化により「自主イノベーション能力」を高め，近代的産業システムを構築する。

１．「専精特新」中小企業を育成

　中国の第14次５カ年計画（2021年から2025年）では，中央政府は合計100億元以上の補助金により，1000余りの国家レベルの専精特新「小さな巨人」企業を育成する（注１）。中国は中小企業専門的能力上昇プロジェクトを実施し，優良企業段階育成システムを整備し，３〜５年で１万社の「専精特新小さな巨人」企業の候補を選出し，10万社の省レベル「専精特新」中小企業の育成に努める。

　李強首相は，2023年３月21日から湖南省で調査研究を行い，先進製造業発展座談会を招集した（注２）。中国は，先進的製造業のリーディングカンパニーと「専精特新」企業を育成する。「専精特新」企業とは，(１)イノベーションの強化に向けて専門性，(２)精巧な技術力，(３)独自性，(４)新規性の４点で優れた特徴を有するとされる中小企業である。

　金壮竜工業情報化相は，全国ですでに７万社余りの専精特新中小企業が育っており，そのうち専精特新の「小さな巨人」企業は8997社あると述べた。2023年全国の専精特新中小企業の数が８万社を超えるようにする。また，大中小企業の融合発展を促進する（注３）。100前後の「中小企業特色産業クラスター」を育てる。

　アジア太平洋経済協力会議（APEC）「専精特新」中小企業国際協力フォーラムが，広州で2023年６月26日に開かれた。中国工業・情報化省中小企業局の梁志峰局長によると，「専精特新小さな巨人」企業の数は全国の一定規模（本業の年間売上高2000万元）以上の工業中小企業全体の２％で，全体の収入の５％，利益の10％近くに寄与している。2025年までにイノベーション型中小企業を100万社，専精特新中小企業を10万社，「専精特新小さな巨人」企業を１万社育成することを目指すと梁氏は語った（注４）。

２．専精特新とは

　専精特新に関して，「専」とは，専有技術（ノウハウ），そして専有技術または専門製法で開発・生産された，専用性が強く，専門色の強い専門製品をさす（注５）。「精」とは，先進的実用技術や製法を使って，精密に設計され製造された製品を指す。「特」とは，他にはない独特の製法・技術・処方や特殊原料で開発・生産された，地域と企業の特色ある製品を指す。「新」とは，「自主イノベーション能力」によって開発された，他の在来製品とは異なる新しいグレードアップしたモデル・チェンジ製品を指す。

３．「小さな巨人」中小企業の広東省の事例

　中国各地で「小さな巨人」，中小企業産業政策が実施されている。広東省では，「小さな巨人」企業の448社のうち，深圳市の「小さな巨人企業」は276社であり，全体の６割強を占めた。また，上場企業20社を含む。業種は「戦略的新興産業」から選択され，同市の被選出企業の業種は，コンピュータ，通信機器，その他電子機器・設備製造などの分野に集中した。広州市は，企業数が55社と第２位であり，ハイエンド設備製造，半導体・集積回路，人工知能（AI），バイオなどが多い（注６）。

　深圳市の支援策案が32項目で示されている。たとえば，(１)税制面での優遇，(２)融資など「資金調達」(Funding)チャンネルの拡充，(３)「人材育成」の強化，(４)研究開発機関の設立に対する支援，(５)DXの促進，(６)品質向上・ブランド強化の推進，(７)企業の市場開拓支援（国内・海外）などである。

　釘釘情報技術有限公司の楊猛・副総裁は，深圳市中小企業服務局と協力して，2023年から３年内に深圳の中小企業２万社のデジタル化のためのサービスを提供するとともに，深圳市の専精特新企業の専有権益を発表すると表明した（注７）。

４．「専精特新小さな巨人」中小企業による産業クラスターの形成

　習近平氏は，マルクス主義と中華民族の文化との融合により近代的産業システムを築く。中華民族文化の力を体現するのが「専精特新小さな巨人」中小企業による自主イノベーション能力である。中小企業産業政策により戦略的新興産業を育成し，「中小企業特色産業クラスター」を形成する。

［注］

• （１）中央財政安排百億元支持“小巨人”企業（2023年7月8日アクセス）財務省・工業情報化部通知。
• （２）長沙2023年３月22日発新華社。
• （３）2023年４月17日出版の週刊誌「瞭望」2023年第16期に掲載されている「専精特新がメイドインチャイナの目玉に」と題する胡旭・記者の文章（北京2023年４月18日発新華社）。
• （４）広州2023年６月26日発新華社。
• （５）北京2023年５月５日発新華社。また，長沙2023年３月22日発新華社。
• （６）黎 偉君（レイ イクン）「有力中小企業「専精特新」育成に向け、広東省は（中国）」の中の「南方日報」（2022年8月29日）の引用から（2023年７月８日アクセス)。
• （７）深圳３月５日発新華社。