世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
2023年春,日本外交,久々の躍動感
(関西学院大学 フェロー)
2023.03.27
直近,岸田総理の一連の積極的外交振りが目立つ。
先ず3月6日,元徴用工問題への解決案を韓国が発表,それを日本側が実質受け入れる。つまり,ある意味,事前スケジュール通りに軟着陸させるシナリオで,3月16日,韓国の尹大統領が来日,以て両国は,12年ぶりの首脳会談を実現させた。
この関係建て直しの試み,日韓どちらのイニシアティブだったかというと,恐らくは韓国だろう。だが,その韓国が何故,ここにきて日韓関係正常化に動いたか,これも恐らくは北朝鮮の脅威の増大と韓国国内の政治動向,そして米国の積極的な働きかけがあったからだろう。いずれにせよ,尹大統領は今後,4月26日,米国に国賓として招かれることになっている。バイデン政権下で米国が国賓として招くのは,2022年12月のフランス・マクロン大統領に次いで二人目だという。この含意にある米国の意向をどう読むか…。
日韓首脳会談の2日後,3月18日,岸田総理は次いで,来日中のドイツの首相,外務,大蔵,防衛各大臣と,日本側カウンターパートとの間での,両国間では初の政府間協議を開催,その場で,“自由で開かれたインド太平洋の実現”や,“対ロシア制裁とウクライナ支援の継続”,“ロシアによる核の威嚇に反対”などで同意し合った。つまり,NATOの有力国ドイツと日本が,地球的規模での“今そこにある危機”で,共通認識を持ち,対ロ,対中などで,共通の行動を取ることを確認し合ったわけだ。
そして,この成果を持って,外交第三弾として,岸田総理は3月20日,今度はインドを訪問,モディ首相を相手に,2023年にG7で議長国となる日本とG20の議長国を務めるインドとの間で,互いに協力することを誓約し合った。
総理はインドで,「国際政治の転換期の今,国際秩序の在り方について,皆が受け入れられるような考え方が欠如している…脆弱な国にこそ,「法」が必要であり,それら「法」には,主権や領土一体性の尊重,紛争の平和的解決,武力の不行使などの,国際連合憲章上の諸原則が含まれる…」と述べた。これらの言及が,国際法が認める国境を,武力で侵犯したロシアを意識し,更には,グローバル・サウスの国々を念頭に置いている事は自明だろう。
岸田総理は更にその後,外交第四弾として,インドから直接,密かに準備していたウクライナ訪問に向かった(3月20日~22日)。ゼレンスキー大統領との会談では,既知のように,5月に広島で開催されるG7サミットで,議長国としてウクライナ支援を打ち出す決意を示し,ロシアへの制裁継続と,ウクライナのインフラ回復支援に言及した。
この秘密裏の訪問に際しては,日本政府は,前例としてのバイデン大統領のキーウ訪問の際のノウハウを,米国から伝授されていた。バイデンのウクライナ訪問について,ニューヨークタイムズ紙などは,米国は秘密訪問を事前にロシアには連絡していたと報じ,そして今回,既に判明した事実だが,日本もやはり事前にロシアに通告していた。だとすると,その時期にモスクワにいる習主席の中国にも,一報はかなり高い確率で入れてあったのでは…。そのように観ると,今回の岸田訪キーウへの中国外務省の反応が“おとなしい”のも,当然のような気もしてこよう(「China’s Foreign Ministry responded to Kishida’s visit by saying that Japan should “help de-escalate the situation instead of the opposite”」NY TIMES紙3月22日)。亦,同じ時期,ロシアの爆撃機が2機,日本海上空を7時間も飛んだ。これなどは,ロシアのリアクションだと解しても,何ら不自然ではあるまい。
米欧諸国は,習訪ロの際,中国は,内容的に具体性のない,ロシア・ウクライナ間の和平仲裁12項目を提示し,ロシアがそれを受け入れる見返りに,ロシアに武器類を供与するのではないかと,疑心暗鬼になっていた。そして,万が一,そんな武器類が中国からロシアに手渡されるなら,米国を始めとするNATO諸国は対中制裁を課すと,半ば牽制の意を込めて公言していた。
亦,具体性のない,どちらかと言えば精神論に近い和平仲裁案の提示は,それを提起すること自体に意味があり,且つ,ロシアも受け入れやすく,亦,仮にそれをロシアが受け入れると,その事実を以て,インドを始めとするグローバル・サウス諸国に,中国との連携を促す,体の良い正当化理由ともなりうる。つまり,今回の岸田総理のインド訪問は,中国と米欧間での,そんな外交合戦の最中での出来事だった。そんな視点で見ると,岸田総理のインド訪問,更には習訪ロ中のウクライナ訪問は,米欧日と中国のウクライナ戦争への視点の違いを改めて明白にすると共に,放っておけば,中ロ主導の議論に引き込めかねないグローバル・サウス諸国を,西側諸国の側にも引き戻す。そんな努力の一助とも見えてくる。
米国は今,欧州ではロシア対峙に忙殺され,中東では,これまで独壇場だったサウジアラビアやイランとの外交で,中国にお株を奪われかねない情勢(中国の仲介での,サウジ・イランの外交正常化が公表されたのは3月10日)に追いやられている。だから,下手をすると米国は,欧州,中東,アジアの三正面作戦を余技なくされかねない。そうした現実から観ると,今回の日本の,韓国との関係正常化やインドとの連携,更に,習訪ロというタイミングでの,総理のキーウ訪問などは,米国に同盟国日本のありがたみを痛感させたに違いない。
しかし,そもそも,何故こんなに,世界各地で,米中の合戦が起こるようになっているのか,これも一応の推測に過ぎないが,理由は,米国の一極覇権の時代が終わり,今回の中ロ共同宣言にいう,「多極的世界が(一部にせよ),既に実現している」からではあるまいか。より具体的には,ウクライナ戦争勃発以降,急速に存在感を強めてきた,グローバル・サウスの支持を,米欧と中ロ,どちらの方が多く獲得するか,そんな多数派争奪の戦いが…。ちなみに,岸田総理は5月の広島でのG7サミットに,ウクライナのゼリンスキー大統領(リモート),韓国の尹大統領,インドのモディ首相などを招く予定だとのこと。G20やグローバル・サウス諸国の多くを取り込もうとの思惑が,恐らくは,そこにあるのだろう。
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鷲尾友春
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