世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
習近平3期目・謎だらけ人事の思惑と実情
(亜細亜大学アジア研究所 教授)
2023.03.20
3月13日,中国の全国人民代表大会(全人代)が閉幕した。党大会翌年の全人代は過去約2週間(13.5日)にわたって開催されていたが,今年は8.5日と大幅に圧縮された。近年はゼロコロナ政策の下,全人代の会期も短縮されていたが,今年はコロナとは関係なく議事手続きを最短でこなしたものといってよい。
昨年10月の第20回共産党大会と今年の全人代を通して,党と国務院(政府)の人事が一通り完了したが,これまでの登用・退任の前例・慣例を当てはめることができず,またそれに代わる新たなルールができていないことが大きな特徴である。各ポストの軽重や位置づけも微妙に変化した。
まず,同一ポストは2期10年という任期制限については,2018年に憲法を改正し国家主席・副主席を除外した。「七上八下(政治局常務委員は就任時68歳未満)」と呼ばれる年齢制限については,習近平自身にこれを当てはめず続投した他,政治局で「八下」(年齢制限)が適用されなかったのは,中央軍事委員会副主席だった張又侠(1950年生まれ,留任)と,外交担当の国務委員(外相,当時)の王毅(1953年生まれ,新任)の2人で,その根拠は示されていない。一方,「七上」ルールでは指導部内に留任可能な李克強首相(当時),汪洋政協主席(同)が68歳前に一線を退くこととなった他,政治局委員の胡春華副首相(同,1963年生まれ)は異例の中央委員降格(政協副主席)となった。
国家副主席ポストの性質も大きく変化した。1998年~2013年の江沢民,胡錦濤時代には次期主席候補(政治局常務委員)が副主席を担ったが,習時代になるとその意味合いは無くなり,18年にはヒラ党員(中央委員未選出,前常務委員)の王岐山が就任した(序列8位)。今回の全人代では,やはり常務委員からヒラ党員となった韓正が就任した。このようにポストの性格が変化したのは,国家副主席を習主席の次を狙うポストと目されないようあえてその可能性のない人物を就けているようにも見える。
上海の党委員会書記だった李強の首相就任も異例である。副首相未経験者で首相になった例は建国時の周恩来だけである。副首相経験者の条件で首相候補を絞れば,汪洋,韓正(年齢制限超過),胡春華の3氏だが,国務院での勤務経験のない李強が選出された。また長年上海市の技術官僚で習近平の上海時代に見いだされて党務を担っていた丁薛祥が筆頭副首相として経済全般を司ることになる。こうした人選について適材適所であると合理的に説明することは難しい。
国務院の各部部長・委員会主任(閣僚)ポスト(26名)は慣例では65歳が定年だが,何立峰副首相(1955年生まれ),劉昆財政部長(1956年生まれ,留任),王小洪公安部長(1957年生まれ),王志剛科学技術部長(1957年生まれ,留任),李尚福国防部長(1958年生まれ),易綱人民銀行行長(1958年生まれ,留任)は,今回65歳以上で選出された。全体として若返り感に乏しく期待の新戦力も見当たらない。全人代後に新華社が発表した新指導部選出過程を振り返る記事では,「1955年1月1日以降の生まれからノミネートした」とするが,今回限りの特例なのか新たな年齢基準となるのか現段階では分からない。
また党大会で中央委員に選出されず引退かと思われた劉昆,王志剛,易綱,李小鵬交通運輸部長(1959年生まれ,李鵬元首相の子)が再任されたのもちぐはぐな感じが否めない。他方,昨年12月30日付で王毅の後任として外交部長に就任した秦剛(1966年生まれ)は,部長に昇格してわずか2カ月半で国務委員(副首相級)に異例のスピード昇進をしたが,その間のどういう功績が評価されたのだろうか。再任組については,適切な後任がいなかったというのが最もありそうな理由のように思われる。
どれも習近平の独断専行人事であることは間違いないが,狙いの一つは自身の後任候補が浮上しないように登用と降格を織り交ぜながら,過去の実績とは必ずしも一致しないポストに就けて忠臣たちを競わせていることである。退任の時期と後継を見えなくすることが強い求心力の源泉となる。他方,偏った人事を続けていると司司で円滑な世代交代が難しくなる弊害が生じる。すでに一部の経済分野でこうした傾向がみられるのではないか。出口の見えない一強・長期政権であるが,その負の側面は次第に可視化されてくると思われる。
(文中,敬称略)。
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