世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
推論,習3選後の中国を規定する制約要因
(関西学院大学 フェロー)
2022.11.07
5年に一度の中国共産党大会が10月22日に閉幕した。
マスコミ各社は,3期目の習政権中枢部の特色を,「習派が8割を占めた」と紹介,習近平は党トップの総書記,国家元首の立場である国家主席,軍トップの中央軍事委員会主席の3ポスト独占を継続,且つ,明白な後継者も指名せず,亦,「2035年までに,社会主義現代化を実現する」と党規約に書き込むことで,自身の政権,或は,自身の意を汲む後継政権が,その時期まで延命する可能性を示唆した,と解説する。
習近平は,何故,こんな専制への途を歩んできたのか。理由の一つは,習自身の政策決定面での効率化志向であり,二つは,いずれの政治現象も,必ず正・反・合の反動を伴う,という事実である。
先ずは,前者から推論を始めて見たい。
米国に亡命した中国人の,元教授蔡霞女史の論文(Foreign Affairs誌9/10月号)によると,毛沢東以降の歴代の中国指導者たちは,文革への猛省に鑑みて,党指導者の独裁権限を徐々に削減する方向で,党組織改革を試みてきたとのこと。例えば,鄧小平は集団指導性を目指し,江沢民は常務委員会の意志決定に多数決方式を持ち込み,胡錦濤は更に一歩進み,常務委員たちの全員一致方式を採用する等など・・・。後者に至っては,個々の委員の実質拒否権すら認める方向で,常務委員会の意志決定に重みを持たせようとしたわけで,胡錦濤は,それ程までに,集団指導に忠実であろうとしてきたように思われる。
だが,ここで第二の理由が顔を出す。
つまり,一方での,こうした組織機能に頼って統治する姿勢,他方での,個人独裁を阻止する姿勢は,状況に応じて融通無碍な政策を打ち出し,政策遂行の円滑性を求めねばならない,現実政治の必要性とは,基本的には,相容れない点も多いからだ。
習政権下の中国は,押しも押されもせぬ世界第二の経済大国。だから,政権指導者の心の内に,「世界の,中国に対する遇し方にも,当然にそうした同国の立場の強化が反映されてしかるべき」との,ある種のナショナリスティックな感情が派生して来る。そして,そうした感情故,習政権の対外姿勢・国内姿勢にも,従来とは異なる思惑が入り始める。
米国との間での新型大国関係の模索,周辺途上国との間での一帯一路構想,或は,安全保障の関心範囲が,中国一国を軸とする地政を超えて,アジア全域や中東欧にも及ぶ広範さを持ってきたこと等など・・・。こうした姿勢は,要するに,自らの図体の大型化に伴う,当然の遇し方改善を,諸外国に求め始めることに通じ,更に,そうした要求そのものが,国際政治の覇権国米国にとっては,許容できない要求と見えてきてしまう。
更に,国際環境が厳しくなれば,習近平の採った対外路線に,党内外から反対も出てこようというもの。そうなると,これまでの党内の意志決定面での,分権化的方向そのものが,習近平自らが選択した政策の遂行にとっての障害となってくる。
そんな状況下では,国内世論の強い支持が是非欲しいところ。だから,偉大なる中国夢の構想や,共同富裕といった,習近平独自の政策目標も選定されてくる。要するに,こうした連鎖は,結局は,習近平が打ち出した路線の延長線上の正・反・合的反応の要素が色濃いのだ(勿論,習国家主席本人の確信的な思想だとの装いは凝らしているが・・・)。
自分が打ち出した政策の方向性に,批判が高まりそうになった時,習近平は,毛沢東に範を求め,党内での専制指向を強め始める。そんな意味では,共産党の原点に向けた,回帰路線を採ろうとするようになる。自らを二つの核心(党の核心並びに政治思想面での核心)と位置づけるキャンペーンを繰り広げていること等は,そうした流れの反映なのだ。
前記Foreign Affairs論文は,習政権2期の間に,党常務委員会の意志決定方式が,如何に形骸化していったか,概要次のように記述している。
「政策課題は,対面ではなく,文章の形で回覧され,委員が関心を示せば,メモの余白にコメントして行く云々」。或は,「“李克強総理の”権限を削るため,特定テーマを扱う臨時の委員会を40近くも創出,そうした場での意志決定を数多く採用することで,国務院総理の権限を排除する云々」。このような対面よりは書面で,常設ではなく臨時の場で,重要決定を次々と行なって行く方式への転換が,指導者の力を増す結果になること,理解に易いことだろう。
かくして習国家主席は,今回の党大会を機に,集団指導とは決別し,忠臣と自分との特別の関係に立脚しての統治方式に,大きく舵を切ったわけだ。この変更は亦,党内の統制強化を通じ,社会や経済に対する統制強化にも通じるものだろう。言い換えると,これまで経済・社会の改革が優先されていたのが,今後は,経済・社会に対する党の統制強化が,政治の目的と化す可能性が大きいと言うことだ。
問題が今後,続出することはわかっている。だが,対応する手段が見当たらない。そのためか,党大会での習国家主席の演説は,統治体制の専制強化への国内からの批判に対して,極めて強いトーンの反撃の言葉で満ちている。曰く「党内に,党の指導に対する多くの問題があった・・・理解の不足,政治信念の揺らぎ,はびこる官僚主義,深刻な汚職等など。国内社会にも,拝金主義がのさばり,自己中心の思想がはびこり,社会には無秩序の風潮が拡がっている云々」。
以上を総括するならば,習3選後の政権にあっては,決定は当然にトップ・ダウンで下され続ける。だが,これまでもそうであったと同様,打ち出されてくる方向性が必ずしも適正である保証はない。だが,そんな不適正を是正する力が,内部からは殆ど出てこない。加えて,経済が低成長の時代に入ってしまえば,政策の不適切姓は,社会の不満を一層倍加させる方向に作用して行く。台湾有事は,こうした,中国国内の政治環境の変質をも十分に視野において,フォローし続けられねばならない,となるのでは・・・。
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