世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
一つの中国とは何か:国共内戦と台湾と次の戦争
(敬愛大学経済学部経営学科 教授)
2022.08.08
ペロシ米下院議長の台湾訪問に対し,王毅外相は「台湾問題で挑発する者は必ず頭から血を流すことになる」と「戦狼外交」をやったが,台湾周辺の大規模軍事演習は,議長が台湾を離れた翌日からだった。
中国の台湾への武力行使の可能性は,習近平主席が2019年初に「平和統一により一国二制度を実施するが,外国勢力の干渉や台湾独立はあらゆる手段で阻止する」という形で表明している。この談話が発表された同じ日に,蔡英文台湾総統が「一国二制度は決して受け入れない。民主的社会を誇りに思っている」と即応し,台湾世論から強く支持された。
普通選挙による総統選出を実現した李登輝総統(1988〜2000)も蔡英文現総統も,独立を主張したことはなく,「一つの中国」原則に則っている。
中国共産党と国民党が,自分が正当な政権だという意味でともに主張した「一つの中国」は,国連(連合国)が1971年に戦勝国である中華民国を追放し,中華人民共和国に乗り換えた時の方便として使われた。つまり,誰が中国を代表するかは内政問題であり,便宜的に大きい方に代表権を認めるという意味である。当時の米国は,ベトナム戦争の泥沼化を打開するため,ソ連と決裂していた中国共産党との接近が必要だったのである。
その後ソ連は崩壊し,中国はグローバリズムの波に乗って改革開放政策を加速し経済大国になった。すると中国は,東シナ海や南シナ海で一方的な領土拡張の動きを強めた。中国の権威主義,拡張主義が露骨になるにつれ,国際社会の中国への対応は一変してきた。しかし「一つの中国」については,米国も国際社会も台湾総統府も,これを尊重する姿勢は変えていない。今「独立」を口にしているのは,「台湾独立はあらゆる手段で阻止する」と語る中国だけである。
ここで,国民党と中国共産党の内戦と台湾の歴史を振り返りたい。
中国共産党が軍事的に劣勢だった時期,日本軍との戦闘を回避していたばかりでなく内通すらしていた。毛沢東が社会党訪中団に,「皇軍には感謝している」と発言したことが知られていたが,2015年に出版された遠藤誉著『毛沢東−日本軍と共謀した男』で事実だったことが明らかになった。中国共産党は沈黙しているから,事実と認めたことになる。
第二次世界大戦後,ソ連が復興して中国共産党を全面支援しため,国民党は台湾に敗走した。さらに,行政組織,経済政策,産業基盤整備,農工業技術などソ連の全面的な支援の下,1949年に中華人民共和国が成立した。
台湾は,オーストロネシア語族の先住民の島だったが,東インド会社が南部を占拠した1624年から38年間,オランダが最初の統治者となった。オランダは労働力として漢人の移民を促した。
1662〜83年は明の復興を掲げて清に反抗する鄭成功と息子たちが統治したが,清に滅ぼされた。
1895〜45年は日清戦争によって割譲され,日本が統治した。当初は抗日武装闘争があり,武力弾圧も行われたが,教育制度,医療体制,ダムなどのインフラ整備,農業振興などの近代化が成果を上げることによって,政治は安定した。
1945年,日本が降伏すると,カイロ宣言に基づき,国民党が台湾における日本軍の武装解除と行政の継承を行なった。しかし,あまりにも腐敗しており,強権的なことに反発した民衆が蜂起し,数万人と言われる処刑による弾圧が行われた(1947年二・二八事件)。
1949年,内戦に敗れた国民党の蒋介石は,中華民国の首都を台北に遷都した。
さて,現在の安全保障環境で最も注意を要するのは,2013年の米中首脳会談で習近平主席が「太平洋には,中米両国を受け入れる十分な空間がある」という表現で,オバマ大統領に太平洋二分割論を述べたことである。
中国は,80年代後半,鄧小平の命を受けた劉華清海軍司令員によって,21世紀の早い時期に第1列島線(琉球諸島以西から南シナ海全域),次いで第2列島線(小笠原諸島,北マリアナ諸島,グアム,カロリン群島)以西の制海権を確保するという海洋戦略を決定し,推進している。それに加えて太平洋の二分割を提案したのである。
最もあり得るシナリオは,中国にとってコストの大きい台湾侵攻より,米国が「日本の施政権下にある限りは日米安保の対象」と言っている尖閣諸島の占拠を先に行うことだと思われる。中国による尖閣占拠が起きたら,まず自衛隊がこれを撃退しなければならない。撃退に失敗したら,米国は安保条約を適用できないまま,中国がミサイル基地を築くことが可能となる。尖閣に中国のミサイル基地ができると,沖縄の米軍基地は維持できないと言われている。そうさせないため,自衛隊は尖閣の争奪戦を,米軍から武器補給をうけながら延々と続けることになる。
そして,民主党政権を支えるネオコンや軍産複合体が,太平洋二分割論を受け入れる可能性もありうると思う。自衛隊が尖閣を防衛できず,中国のミサイル基地ができてしまったため,止むを得ないと称して米海兵隊はグアムまたはハワイへ後退する。そして台湾世論が戦う意志を失うのを待つ。そうすると,米国は罪悪感なしに西太平洋を中国に渡し,裏では手を握ることが可能となる。
ネオコンや軍産複合体,国際金融資本は,特権層に富を集中し,大衆の情報や感情を操作して統治する世界を築いている。その構造は,中国共産党と同じである。特権層は,時に大衆を動員した戦争や紛争によって利益を得る。彼らの思想の根源は選民思想である。
戦争を無くすためには,選民思想より優れた思想として,古代から日本にあった利他主義,あるいは天(神)の下に人は平等という敬天愛人の思想を世界に広めることではないかと思う。
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