世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2614
世界経済評論IMPACT No.2614

Google Mapによる人民解放軍基地の作図

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2022.08.01

中国軍事基地図の作成動機

 台湾・東呉大学音楽学系4年生学生の温約瑟(Joseph Wan)君は,作曲家と同時にアマチュア軍事愛好者である。温君は公開されたGoogle Mapを応用し,論文,ネット情報や公開された資料(source material=情報が得られる出版物)をコツコツと蒐集し,自ら作成した「中國人民解放軍基地及設施」をネットで公開した。6月中旬までに52万回の閲覧回数に達し,注目を浴びるようになった。

 また,温君は台湾・華視テレビチャンネルの「三國演議」に招かれた(「台灣學生多奇智|共軍基地看光光」,6月18日にYouTubeにて公開。

 番組司会者の汪浩は,中央集権国家の軍事的機密の蒐集と整理は非常に困難で,さらに,刊行された軍事雑誌や軍事ニュースで公開された情報も限られている。なぜこの「解放軍軍事基地図」(以下,Map)を作成しようと考えたのか,その動機は何かと質問した。

 温君は,「中国で著名な軍事雑誌『艦船知識』(2020年刊)に“台湾軍兵力配置概略図”が掲載され,そこで“人民解放軍の台湾侵攻シミュレーション”の動画を見た。特に,これらの資料は“台湾攻略に備える”と標記されていた」と言う。温君はこれを読んだあと,「もし中国が台湾の軍事基地情報を公開するなら,対岸(中国)に負けると考え,中国の軍事基地などの情報をネットに公開するという動機が芽生えた」と述べた。

地図の検索法

 2021年6月14日頃,温君は最初に「中国人民解放軍空軍基地と施設」を作図した。その後,順次内容を拡充し,空軍基地,海軍基地,陸軍基地,重要な軍事機関,40数校の軍事学校および2013年11月共産党第18期中央委員会第3回全体会議(三中全会)で設立が決まったミサイル部隊(火箭軍),重要な軍事産業の施設などを含むに至った。作図の目的は,単に台湾の民衆向けだけでなく,「日米韓の関係者も人民解放軍の現状を知ることで,中国の脅威に対処する方策を講じることである」と述べた。

 公開されたMapで表記される基地・施設は全部で782と膨大であるが,例えばミサイル部隊を見たい場合,左側に表示される分類の項目からこれをクリックする。河南省信陽市のミサイル基地を見ると,部署名,基地の名称,部隊番号,装備の弾薬型式の説明までも記載されている。これらの情報はアメリカの軍事大学関係者が発表された論文や台湾の某軍事大学関係者が発表した論文から得た(現在,該当論文はネットから消えている)。

 他では,例えば射程5000キロの中距離弾頭ミサイル「東風26(DF-26)」(通称“グアムキラー”=ミサイルがグアムに達する)が「火箭軍六十六基地666旅,信陽基地」に装備されているとの記載は,Wikipedia(ウィキペディア)を参照したもので,更に,その出所は,中国中央電視台(CCTV)の国力宣伝動画「#領航新時代 全軍部隊:聚力强軍夢 揚帆啓新航」の「軍用トラックに東風26が装着した建屋」から多くの情報が得られたという。多くのミサイルと軍用トラックを収納した建屋の屋根に2列の透明なガラス(採光の囲い)があり,Google Earth(グーグルアース)から確認できた建屋と一致していることから確定することができたという。これも公開情報(source material)の活用であると述べた。

空母の造船所

 最近話題になった中国の2艘目国産空母「福建艦」は,上海長興島の江南造船所(中船集団)で建造された。温君は,Google Earthからフルストレートデッキ,3個の電磁カタパルトを搭載していることが確認できると述べた。Google Mapでは更新時間の遅れなどの問題点があるが,写真の「福建艦」の傍には台湾の長榮海運(エバーグリーン)社が受注製造中のコンテナ船「長皇船」(6月上旬に進水を終えた)が映っていた。また,温君は「福建艦」が「第4ドック内で製造された」と述べた。

 温君は中国のいくつかの造船所をMapで紹介している。大型空母の造船所である江南造船所は「福建艦」を建造した。また,「山東艦」を建造した大連造船所の建造ドックもMapで示した。なお,現在の「山東艦」の母港は海南島三亜湾である。旧ソ連の「ヴァリャーグ」(空母)はウクライナから中国が購入し,大連造船所で整備され「遼寧艦」になり,母港は青島池湾である。中国のヘリコプター揚陸艦は滬東中華造船所で建造され,ヘリコプターの搭載のほか,艦内にホバークラフトを装備することができ,台湾上陸に使われるとしている。

 中国の新疆に米軍空母を模擬する爆撃訓練場があるが,ここは荒地のため,Google Mapは長い期間更新していない。これを見る場合,商業衛星のネットで検索するしかないが,代金を支払わない場合,検索が遅くなるという欠点があると述べた。

 中国福建省漳州市に陸軍航空兵ヘリコプターの軍事基地については,あるメディアがこの基地について報道したことに気づき,ツイッターで原文を探しあてたという。これも公開資料の活用と言える。Mapではこの基地が非常に新しく,大きいことがわかり,格納庫の数でヘリコプターの数を推測することもできると言う。この基地は澎湖島まで約183キロ,台北まで約250キロを飛び,台湾総督府で総統を暗殺する「斬首部隊」の拠点基地であると言われていた(CCTVの「軍迷天下」番組)。このヘリコプター空港は一定の戦略的意義を持っていて,陸軍航空基地のうち,台湾に最も近く,昨年に建設した基地だと言う。

Map作図の検索法

 Mapの作図に使われたのは,公開資料(source material)やウィキペディアなどである。人民解放軍の13の集団軍については,ウィキペディアで配置された都市名が示されている。その次にMapで位置の確認作業である。例えば,台湾侵攻の第一線作戦の第73集団軍(東部戦区)傘下に12の旅団を擁し,軍部は厦門に設けられた。Mapを作成する場合,その位置を確認するする必要がある。衛星写真を肉眼で判別し,厦門に関するいくつかの基地を探し出すことができるが,しかし,その基地はどの部署に属するかを判断することはできない。

 当初,採用した方法は中国国内の検索エンジンに,キーワードを入力し,絶えず検索することである。最大の検索エンジン「百度(バイドゥ)」のフォーラムにあるネットユーザーの書き込みに,「明日,車で水庫(ダム)に戻ってから軍部に戻る」とあった。このキーワードから厦門に唯一の「坂頭水庫」に近い兵営がある。そのヒントから73集団軍の軍部が坂頭水庫の傍に設けられたことを突き止めることができたという。

 もう1つの方法は完全に肉眼での判読である。中国の兵営を判読する特徴は,軍用車両,壁や垂れ幕に書かれた政治的スローガン,建物の配列方式,兵営の入り口にバリケードが設置されているかなどである。しかし,この方法で判定する場合,間違いの確率が非常に高い。過去において,温君は誤って兵営と標記したが,ある軍事愛好者からミスを指摘され,後になってから監獄と判明した。後に時間がある時に中国の都市をぶらぶらして,再確認するようにした。

 Mapはいつ完成するのかとの質問に対し,温君は「Mapの作成に完成はない」と答えた。その理由は,中国の空軍や海軍基地はほぼ完ぺきに集まったが,陸軍基地は大変多く,昨年6月にネットに公開してから1年経ったが,作図できた部署は全体の5分の1ぐらいだ。

 「Mapの作成者の役割は情報を統合することで,分かり易いプラットフォームから直接検索ができるようにすること」と述べた。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2614.html)

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