世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2574
世界経済評論IMPACT No.2574

“義足のヒロイン”ダックワーズ上院議員ら訪台団の意義:なぜ中国軍機30機がADIZに侵入するのか

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2022.06.20

 米・民主党のタミー・ダックワーズ(Tammy Duckworth)上院議員が,5月30日から6月1日までの滞在日程で訪問団を引率し訪台した。

 ダックワーズ上院議員は昨年6月にも超党派上院議員団を率い訪台し,アメリカ政府から台湾に対し大量のワクチンを贈るメッセージを伝えたことで注目を集めた(注1)。また,同上院議員は軍人出身で,上院軍事委員会の重要なメンバーでもある。2020年米大統領選挙時,副大統領候補者にも名前を連ねた。

 今回の訪台期間中,蔡英文総統,蘇貞昌行政院長(首相に相当),王美花経済部長(経済相),邱國正国防部長(国防相)と会見し,吳釗燮外交部長(外相)の歓迎会の招待を受け,米台関係,地域安全保障,貿易と投資,世界のサプライチェーンなどの重要議題について意見交換を行った。3月に元アメリカ統合参謀本部議長マイケル・グレン(Michael Glenn)(注2),4月に共和党上院議員リンゼー・グラム(Lindsey Graham)(注3)などアメリカ政府・議会代表者の毎月の訪台で,アメリカの台湾重視が見て取れる。

 ダックワーズ上院議員は台湾に対し極めて友好的で,前述のワクチン贈与発表のために訪台したほか,上院で「台湾パートナーシップ法案(Taiwan Partnership Act)」(2021年),「台湾安全保障強化法案2022年(Strengthen Taiwan’s Security Act of 2022)」を提出した。「台湾パートナーシップ法案」については,国民警備隊(州兵)による台湾の予備役軍人の軍事指導としてのプロジェクトを立ち上げ,すでに「2022会計年度国防授権法案(NDAA2022)」に組み込まれ,可決されている。その他,上院議員51名と連名書簡をバイデン大統領に提出し,台湾の「インド太平洋経済枠組み(IPFF)」への加盟を支持している。

 31日午前中,訪台団一行は,米国在台湾協会(AIT)サンドラ・オウドカーク所長(大使に相当)を同伴し総統府を訪問,蔡英文総統と会見した。蔡総統は,コロナ禍が蔓延していた昨年6月に,ダックワーズ議員ら3名の上院議員が訪台し,アメリカのワクチン贈与を発表したことについて感謝の意を示し,このニュースに台湾の人々は大変感動したと述べた(蔡英文盼深化台美經貿 美參議員達克沃絲:與台灣站在一起)。

 蔡総統は,先ごろ訪日したバイデン大統領が日米首脳会談後の記者会見で,台湾海峡の平和と安定の重要性を再び述べ,アントニー・ブリンケン国務長官も台湾海峡が世界の平和安定と繁栄に極めて重要と述べたことに触れ,アメリカ政府と議会に対し謝意を示した。また「台湾パートナーシップ法案」でアメリカの州兵と台湾軍との協力交流促進や,最近提出した他の法案でアメリカがインド太平洋地域で,台湾の置かれた状況を優先的に考慮することを提案したダックワーズ上院議員の長年にわたる台湾支持に感謝の意を述べた。

 蔡総統は,台米がインド太平洋地域での協力をさらに深化させ,より緊密となることに期待すると述べた。また,ポストコロナ時代の新たな挑戦として,台米が経済や貿易の議題を互いに確認し合い,IPEFに対しても,台湾は継続的に加盟する意志を示し,協力できる新たな分野を具体的に企画し,短期間に台米の経済・貿易関係を深化させたいと述べた。

 蔡総統は,ダックワーズ上院議員の伝記『Every Day Is a Gift: A Memoir』(Twelve,2021年3月)の中国語訳『活著的每一天:譚美・達克沃絲回憶錄』(郎淑蕾訳,八旗文化,2022年1月)を読み,軍人出身の彼女の国防軍事に対する専門性,困難を克服する毅然とした振る舞いについて敬服したと語り,「多くの台湾の人々がアメリカの友人をより深く知り,互いに励ましあうことの大切さを認識することができる」と,この書籍を人々に推薦したいと述べた。

 これに対しダックワーズ上院議員は,微笑んで感謝の意を示し,台湾に再び戻ることができ喜んでいると述べた。そして「今般の訪台で再度述べたいことは,“アメリカは台湾を,孤立した軍勢で敵と戦わせないよう協力する”というメッセージだ。昨年の訪台では,我々はワクチンの贈与を発表したが,その前にアメリカは,台湾から個人向けの医療装備とマスクの供与を受けていた。その返礼として,アメリカはワクチンを台湾に贈ったのだ。また,台湾は半導体を優先的にアメリカに提供してくれた。このため,アメリカ自動車産業では数十万人の雇用と工場の操業を維持することができた。真なる友人は苦しい時には互いに協力し合うものだ。米台間のパートナーシップは真実であり,非常に重要だと思っている」と述べた。

 5月26日にダックワーズ上院議員が提出した「台湾安全法案2022年」は,民主党3名と共和党3名の超党派議員の共同署名が得られた。彼女は,台湾の安全に対する支持とは,単に軍事だけでなく,経済,ハイテクなども含まれていると強調した。また,「台湾パートナーシップ法案」により米国防省による国民警備隊と台湾の予備役軍人との協力(ハワイ州の国民警備隊による台湾での軍事指導)の「州パートナーシップ・プログラム(State Partnership Program; SPP)」の軍事計画の推進,バイデン大統領が推進する米台の軍事協力のほかに,米台間の経済協力も支持していると述べた。

 今回の訪問団にはSPP計画のトップが同行し,「台湾に協力し,自ら全力で実行できる防衛」の構築ができるように促している。それに合わせて,台湾も今年「全民防衛動員署」を設け,9月に人員を太平洋陸軍司令部とハワイ国民警備隊(州兵)司令部に派遣し,訓練を実施することを予定している。

 5月23日の日米首脳会談後の記者会見で,「中国が台湾に侵攻した場合,アメリカは軍事的関与する意思があるか」と問われた。「はい,それは我々の約束だ」とバイデン大統領は明快に答えた。ダックワーズ上院議員らの訪台も,「アメリカの軍事関与」の一環であると考えられる。

 このアメリカの訪台団に不満を示した中国は,この日,30機の軍機を台湾西南海域の防空識別圏(ADIZ)付近に侵入させた。その内訳はSu-35(スホーイ35)2機,Su-30戦機2機,KJ-500(空警-500,第3世代の早期警戒管制機)2機,Y-8(運-8)電子偵察機4機,運-8電子戦機1機,運-8対潜哨戒機1機,J-16(殲-16)戦機6機,J-11(殲-11)戦機8機,J-10(殲-10)戦機4機である。今年に入り,2番目に多い軍機がADIZ付近に侵入したことになる。

[注]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2574.html)

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