世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2567
世界経済評論IMPACT No.2567

今日のウクライナは,明日の台湾か:台湾攻略に中国は血まみれの代償が必要

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2022.06.13

 米CNNのホームページに,上級国際軍事記事ライターのブラッド・レンドン(Brad Lendon)とCNNの上級国際特派員のイヴァン・ワトソン(Ivan Watson)の寄稿「中国は台湾攻略ができるが,血まみれの代償が必要(China has the power to take Taiwan, but it would cost an extremely bloody price)」が掲載された(6月1日付)。寄稿は台湾を鋭い針毛(トゲ)をもつ“ヤマアラシ”,中国を“ライオン”のように譬えられていないが,ライオンがヤマアラシを襲った場合,ヤマアラシは死ぬ(陥落する)かも知れないが,ライオンは鋭い針毛(ミサイル,大砲,戦車の攻撃)で血まみれになり死を迎えると筆者は感じた。以下にその要約を紹介する。

 バイデン大統領は日米首脳会談後の記者会見で,台湾有事の際は,「台湾を守る。それが我々の約束だ」と発言し,中国を牽制した。アメリカは台湾に関する“戦略的曖昧政策”から逸脱し,より明確な政策に舵を切ったようである。バイデン大統領の「台湾有事,アメリカの軍事関与」の発言は今回が3回目だが,もはや“失言”ではない。

 果たして,台湾有事の場合,アメリカとその同盟国は中国と対峙することができるのか。著者は「中国が台湾を攻略できたとしても,血まみれの代償を払わなくてはならない」と指摘する。

 中国が台湾を侵攻する場合,第二次世界大戦中の連合国のD-Day上陸作戦(ノルマンディー上陸作戦)よりも危険で複雑であると言う。D-Day上陸作戦は,3カ月にわたり,その間約30万人の軍人が負傷を含む犠牲となった。台湾の人口は2400万人であり,その多くは台北,高雄などの大都市に密集し,人口密度は1平方キロ当たり9,575人だ。廃墟になったウクライナのマリウポリの場合,人口密度は同2,690人で,台湾有事の場合,より多くの民間人が犠牲になる可能性がある。同時に,人民解放軍(以下,解放軍)は陸・海・空とも兵力で優位性を有しているが,多くのアキレス腱(弱点)も持つ。台湾侵攻で解放軍が支払う人的代償の大きさを中国の指導者は考える必要がある。解放軍の侵略シナリオは次の通りである。

海上戦

 中国海軍は,約360艘と世界最多の艦船数を擁し,アメリカの300艘よりも多い。さらに,中国は商船,沿岸警備隊,海上民兵を擁する。アメリカのシンクタンク「プロジェクト2049研究所」のイアン・イーストン研究員によると,「台湾侵攻には大量の戦車,ロケット砲,弾薬などの重火器といった様々な軍備品や食糧,燃料,兵員などの運搬が必要になるが,台湾海峡の幅は約177キロメートルで,部隊,兵器,物資を海上輸送の場合,相当な危険に晒さらすことになる」としている。また,セントアンドリュース大学で戦略研究を専門とするフィリップス・オブライエン教授は,「ロシア海軍の旗艦であった大型巡洋艦モスクワを黒海に沈めたウクライナの対艦巡航ミサイル“ネプチューン(Р-360 Neptune)”のような安価で高性能の陸上対艦ミサイルを台湾は大量に備蓄している」と指摘。台湾は「安い対艦ミサイルで,高い戦艦を叩く」という“非対称的戦略”を採用していると述べている。

 新アメリカ安全保障センター(CNAS)アナリストのトーマス・シュガートは,「解放軍の数百から数千艘の艦船は,台湾のミサイルで“吸収”(撃沈)されるだろう」と言う。上陸時に中国は大きい犠牲を払う羽目になる。従来の“戦術的常識”では,攻撃側の兵力は防御側の3倍以上が必要である。「台湾は45万人の潜在的兵力を持つため,中国の台湾侵攻には少なくとも120万人以上の兵力のが必要である」と元米海軍将校で米海軍戦争大学のハワード・ウルマン教授は指摘する。また,ウルマン教授は「解放軍は,台湾の本格的侵攻に必要となる上陸のための水陸両用の武装力を欠いている」と述べる。

空母キラー

 台湾有事の場合,解放軍は米海軍の艦船にも遭遇する。問題は中国の弾道ミサイルが移動中の米海軍艦船に命中させることができるかである。F-35とF/A-18戦闘機を搭載した米空母と強襲揚陸艦は計11艘であるが,しかし,保守・整備の関係で動員できるのは約半分であろう。解放軍には2000発以上のミサイルがあり,特に,「東風26(DF-26)」と「東風21(DF-21D)」について,2020年に中国の『環球時報』紙では“空母キラー”と称し,大型および中型船舶を標的とすることができる世界初の弾道ミサイルと喧伝した。空母打撃群全体の指揮を執るジェフリー・アンダーソン提督は,「中国の“空母キラー”が命中しても致命傷とならず生き残れる可能性が高い」と述べた。

空中戦

 台湾空軍の保有する戦闘機は300機に満たないのに対し,中国は1600機を擁している。一方,アメリカは2700機を擁している。台湾はアメリカから対空ミサイルの「スティンガー(FIM-92)」と広域防空用地対空ミサイルシステムの「パトリオットミサイル(MIM-104)」を入手しており,国産ミサイルの開発・製造に多額の資金を投入している。

 CNASが実施したウォーゲームのシミュレーションの結果,米中空中戦は「膠着状態で終わる可能性が高い」としている。米空軍副参謀長のクリントン・ヒノテ(Clinton Hinote)中将は「中国は私たちと戦うために,近代的な航空機と兵器の開発に巨額を投じた」と述べた。戦略国際問題研究所(CSIS)チャイナパワー・プロジェクトによると,2020年の時点で,解放軍が米国基地を攻撃できるミサイル発射装置は少なくとも425基に上がると指摘した。

地上戦

 危険を冒し解放軍が上陸するシナリオでさえ,多くの困難な戦いに直面する。台湾は約15万人の軍人に加え,250万人の予備役軍人を擁し,中国の侵略に対峙することができる。解放軍は港湾の近くか,空港施設がある台北などの戦略的大都市に近い地点に上陸地点を見つける必要がある。軍事専門家は上陸に適する14の海岸を特定した。台湾軍は数十年を掛けて,トンネルと掩蔽壕を掘った。解放軍は空挺部隊が不足しているため,パラシュートでの侵攻の可能性が低い。

 解放軍の最大の問題は,「実戦経験の欠如だ」とジャーマン・マーシャル基金(GMF)のアジアプログラムのディレクターであるボニー・グレイザーが述べる。解放軍が最後に戦争を経験したのは,「成功した作戦ではなかった」1979年の対ベトナム戦であった。グレイザーは,「台湾を攻撃した場合も大きな損失を被るだろう」と言う。加えて,「ロシア軍はシリアとジョージアで戦争経験があるにもかかわらず,ウクライナで行き詰まっていることを鑑みても,中国が台湾に侵攻する可能性は低い」と考えている。一方,「犠牲を顧みず勇敢に戦うウクライナ人の姿は,台湾の人々にも戦う勇気を与えている。また,習近平は考えを変える可能性がある」と述べた。

オブライエン教授(前出)は,「台湾侵攻は,壊滅的な損失をもたらすだろう。ウクライナ戦争が私たちに与えた教訓があるとすれば,戦争は無益で無謀な選択ということ」と述べる。

 解放軍の台湾侵攻の選択肢として,台湾の離島を奪い,本島と遮断することが挙げられる。昨年の外交問題評議会報告書で,ロバート・ブラックウィルとフィリップ・ゼリコフが指摘している。解放軍のターゲットとして考えられるのは,南シナ海で台湾から最も遠く離れた前哨基地である太平島,香港の南東方向の320キロメートルにあるプラタス諸島(東沙島)の小さな前哨基地,中国本土の海岸からわずか数マイルの金門島と馬祖島,または台湾島西側の澎湖島である。この4つの島を解放軍が侵略する可能性があるが,ウクライナ戦争におけるロシアと同様に西側諸国が団結し,制裁を加えることで,中国は大きな犠牲を払うことになろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2567.html)

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