世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
メタバースをどう捉えるのか
(九州産業大学 名誉教授)
2022.05.30
近頃,「メタバース」という用語を目にする機会が増えた。もともとメタバースとは,アメリカのSF作家・ニール・スティーヴンスンが1992年に発表したSF小説『スノウ・クラッシュ』(邦訳,日暮雅通訳,ハヤカワ文庫SF)が由来である。
この小説では,リアリティ(現実)の世界と並行したバーチャル(仮想)の世界が存在していると述べている。このバーチャルの世界でリアリティーの世界と類似した金融,商業,日常生活など様々な活動が行われているという。
叙事詩的SF映画「アバター(Avatar)」が有名な例である。映画のあらすじは次のようである。地球のエネルギー問題の解決の鍵となる希少鉱物を採掘するため人類は惑星パンドラに進出するが,パンドラには「ナヴィ」という先住民族が住んでいた。元海兵隊員のジェイク・サリーは,アバターの操作員だった兄が急死したことにより,RDA社から兄の仕事を引き継いでほしいとの誘いを受ける。約6年の冷凍睡眠を経てパンドラに辿り着いたジェイクは,ナヴィ族研究の権威でアバター計画の責任者であるグレイス・オガースティン博士の下で操作員としての任務に就くこととなった。このように,ジェイクは自分の「分身」を使い,「ナヴィ」の世界にたどり着く。メタバースも類似したバーチャルの世界でもある。
また,近年話題となった例では,フェイスブック(FB)が自社名を「Meta(メタ社)」に変更した。これによって,同社はメタバースビジネスの発展と先端を担うことを表明した。YouTubeからもMetaによるメタバースビジネスへの宣伝が掲載されており,見ていると結構楽しい(Horizon Worlds | Meta Quest 2,The Metaverse and How We’ll Build It Together -- Connect 2021)。
2008年のアメリカ大統領選挙時,元ファースト・レディーのヒラリー・クリントンは,メタバースバージョンにおいて彼女の選挙プラットフォームを設けた(Hillary Clinton Launches Next Doomed Presidential Campaign Ep. 305 Clip | Our Cartoon President)。このバーチャルの世界においては自らのデジタルの分身,すなわちアバターが,ゲームの中で家を建設するなど様々な活動を行うことができる。
2022年1月,韓国サムスン電子はバーチャル世界のプラットフォーム「Decentraland(ディセントラランド)」で「Galaxy837」のイメージショップを開設した(Samsung 837X Decentraland Event.)。ユーザーはこのショップに入り,ショッピングなどをすることができる。
JPモルガン・チェースもメタバースバージョンの「ディセントラランド(Decentraland)」でゲームセンターのVIP Roomを開設し,顧客やユーザーは一枚の衣服を選んで着て,このVIP Roomに入り,財政経済専門家の講演を聞くことができる(Decentralandでマイニングしてみた)。
前に述べたように,ユーザーはパソコンやスマートフォンを利用し,メタバースの世界に入ることができる。メタバースの概念はユーザー自らが,AR(拡張現実)やVR(仮想現実)のメガネやゴーグルのウェアラブルデバイスを利用し,自らがARやVRの世界に入り込む感覚である。
現在,メタバースはより成熟し,特に高い周波数の通信の5G環境下ではARやVRが直ちに反応し,バーチャルの世界に入り込むことが出来る。また,ウェアラブルデバイスを利用することによってARやVRの仮想空間世界が展開し,ユーザーはプラットフォームでショップを開店したり,ビジネスを行ったり,新しいゲームを作成することができる。ゲーム「Roblox(ロブロックス)」がその一例である(【スマホでも】無料でできるロブロックスでスキンを作るやり方)。
メタバースはリアリティーの世界に非常に似た仮想空間世界を作ることが出来るが,これには半導体の高度な演算処理が必要である。そのために,メタバースビジネス初期の“勝ち組”は,TSMC(台湾積体電路製造),サムスン電子,NVIDIA(エヌビディア),インテルや聯発科技(メディアテック)などの半導体関連企業である。
5Gの発展に沿って,メタバースの世界から「キラーアプリケーション(Killer Application)」が生まれてくる可能性がある。「キラーアプリケーション」とは,ある機器やサービス,ソフトウェアなどが大きく普及するきっかけとなる,特別に人気の高いソフトウェアやコンテンツ,サービス,利用方法などのことを指す。例えば,過去においては,マイクロソフトのWindowsシリーズ,任天堂のファミコンの「スーパーマリオブラザーズ」,初期パソコンのLotus 1-2-3や一太郎などである。次の“勝ち組”はこうした「キラーアプリケーション」を生み出す企業であろう。
私たちの周辺からメタバースが次第に注目されるようになり,今後にこれらの世界の発展に目が離せない。
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