世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
スウェーデン国会議員ら共同使節団の台湾訪問:地政学上の新しい世界情勢のうねり
(九州産業大学 名誉教授)
2022.04.18
アメリカのナンシー・ペロシ下院議長(民主党)を団長とする国会議員使節団は,日本,台湾訪問を計画していたが,ペロシがコロナ陽性反応となり,計画は延期された。
一方,スウェーデンの国会議員と欧州議会議員による12名の使節団は,4月10日午後5時23分にトルコ航空TK-24便で桃園国際空港に到着した。台湾の外交部政務次長(副大臣)曾厚仁の出迎えを受けた一行は,「外交バブル」方式による14日まで5日間の訪問活動を行った。
欧州議会使節団の台湾訪問は昨年11月に続くもので,スウェーデンの国会議員団の訪問は始めの出来事である。同使節団はスウェーデンと台湾の外交・経済関係の緊密化とEUと台湾との協力と交流の深化を目的としたものであった。
スウェーデン国会議員と欧州議会議員共同使節団
使節団は「台湾・スウェーデン国会議員協会」会長のボリアナ・オベリ(Boriana Åberg)とスウェーデン籍欧州議会議員(MEP)のチャーリー・ワイマーズ(Charlie Weimers)の共同団長のほか,リクスダーゲン(スウェーデンの一院制議会)副議長のカースティン・ラングレン(Kerstin Lundgren),リクスダーゲン副議長,スウェーデン民主党の書記を歴任した国会議員のビョルン・ソーデル(Björn Söder),キリスト教民主党所属,欧州議会議員のラース・アダカツソン(Lars Adaktusson),スウェーデン民主党議員のマルクス・ウィーシェル(Markus Wiechel),穏健党国家議員のアサ・コエンラアディス(Åsa Coenraads),アン・ソフィー・アルム(Ann-Sofie Alm),ラース・プーズ(Lars Püss),スウェーデン民主党議員のアレクサンデル・クリスティアンソン(Alexander Christiansson)および欧州議会関係の政党政策顧問などの12人で構成された。
一行は12日午前中に台湾の蔡英文総統とオンラインによる会談を行った(總統視訊接見瑞典國會暨歐洲議員聯合訪團 盼深化合作交流)。
その後,蔡英文総統の代理として頼清徳副総統が総統府で使節団と会談した(瑞典議員盛讚台灣是"典範"國家! 副總統會晤瑞典國會團 賴清德也特別感謝訪團團長魏莫斯 主導起草"台歐盟合作決議案" 歐洲議員訪台成常態)。
使節団の訪台前に行政院副秘書長がコロナの陽性反応となり,蔡英文総統と沈榮津行政院副院長が濃厚接触者にあたるため,自宅隔離対象になった。蔡総統はPCR検査では陰性反応であったが,大事を取り,対面会談からオンラインによる会談に変更となった。
そのほかに,使節団は行政院院長(首相に相当)蘇貞昌,立法院長(国会議長に相当)游錫堃,外交部長(外交相)吳釗燮,経済部長(経済相)王美花,大陸委員会主任委員(閣僚)邱太三,「IT大臣」のオードリー・タン(唐鳳)などと会談したほか,立法院長游錫堃および外交部長吳釗燮が開催される宴会にも招待された。台湾外交部は,この訪問団の訪問を歓迎し,「民主主義パートナーが互いに助け合い,一致団結して台湾支持を表明することは重大な意義を持つ」とコメントした。
使節団は台湾の国防安全シンクタンクの学者との座談会に参加し,台湾在住のスウェーデン人と留学生と面会も行った。こうした機会に,使節団一行は,EUと台湾の外交,サプライチェーンの強靭化などの経済関係の議題に加え,ロシアのウクライナ侵攻におけるインド太平洋地域に及ぼす影響について討論した。
欧州議会の「台湾友好」報告書
欧州議会の推進によって,近年,EU(欧州連合)の台湾政策に大きな変化が見られた。2021年10月に欧州議会が発表した「台湾友好」報告書が最も重要な転換点であると言われている。10月21日,欧州議会で賛成580票,反対26票および棄権66票という大多数の支持で,「EU・台湾政治関係と協力」から始まる報告書が対台湾政策として採決された。この報告書は北京の対外政策による民主主義国家への脅威に対する欧州からの反論でもある。報告書の執筆者の一人は同使節団長のスウェーデン籍欧州議会議員のチャーリー・ワイマーズである。
報告書の主な内容は以下のようである。
- ⑴EUの「一つの中国政策」(注1)の下で,台湾とさらに緊密な関係を構築する。同時に,台湾海峡両岸の持続的な緊張情勢に警告を発する。
- ⑵EUと台湾はインド太平洋地域の重要な協力のパートナーで,かつ民主主義の盟友である。地域における主要国家の間での競争が強化される情況の下で,共に国際秩序の維持に寄与する。
- ⑶中国の持続的な台湾に対する軍事的挑発,攻撃的演習,領有空域の侵入およびフェイクニュースなどの圧力に深刻な懸念を示めす。
- ⑷これら緊張した台湾海峡に情勢を解決し,台湾の民主主義体制を保護するため,EUはさらに多くの役割を果たし,台湾をEUにとって最も重要なパートナーとする。
台湾の外交省は「欧州議会が初めて台湾との政治関係に触れた報告書で,明らかに欧州議会が台湾に対し地政学上の高度な戦略的価値を見出している」と述べた。
ロシアによるウクライナ侵攻以降,フィンランド,スウェーデンがNATOに加盟する動きを示していることも,地政学的な世界情勢うねりの変化を表すものである。
欧米議員台湾訪問の常態化
2020年にEUメンバー国のチェコ上院議長が訪問団を引率し,台湾を訪問して以後,欧州議会議員の台湾訪問が常態化するようになった。これまでの訪台使節団は以下のようである。
- ⑴2020年8月30日,チェコ上院議長のミロシュ・ビストルチル(Miloš Vystrčil)引率による89人の訪問団が訪台。
- ⑵2021年10月6日,フランス上院議員アラン・リシャール(Alain Richard) 引率の5人の代表団が訪台。
- ⑶2021年11月3日,欧州議会超党派議員で組織され「偽情報を含む,EUのすべての民主的プロセスへの外国の干渉(INGE)」代表団13人が訪台。
- ⑷2021年11月28日,バルト三国のリトアニア,エストニアとラトビアの国会議員団が訪台。
[注]
- (1)中国の「一つの中国原則(One China principle)」とアメリカの「一つの中国政策(‘One China’ policy)」は別物である。アメリカの「一つの中国政策」は,①「1972年,78年,82年の三つの米中コミュニケ」,②1979年制定の「台湾関係法」,③1982年にレーガン大統領が台湾に対して表明した「六つの保証」から成り立つもので,筆者はEUもアメリカと同じ立場と考える。
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