世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2423
世界経済評論IMPACT No.2423

頼清徳副総統のホンジュラス大統領就任式出席

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2022.02.21

1.往路:ロサンゼルスで超党派国会議員とのオンライン会談

 2022年1月27日,台湾の頼清徳副総統はシオマラ・カストロ(Iris Xiomara Castro Sarmiento)ホンジュラス大統領の就任式に,特使として出席した。ホンジュラスは台湾が国交を締結した数少ない国である。しかし,大統領選挙期間中にカストロは,中国との国交回復,すなわち台湾との国交断絶を示唆した。これについてはアメリカ政府からの“助言”があり,後に言及しなくなった。今般,就任式に台湾が副総統を派遣したことで,ホンジュラスとの国交維持に台湾の強い期待が見て取れる。なお,日本政府は宇都隆史参議院議員を特派大使として派遣した。

 副総統特使団は,25日早朝にロサンゼルス国際空港に到着した。台湾駐米代表(大使)の蕭美琴,米国在台湾協会(AIT)のジェームズ・モリアーティ(James Moriarty)会長,在ロサンゼルスホンジュラス総領事のマリア・リベラ(Maria Fernanda Rivera)などが空港に出迎えた。

 頼副総統はホテル滞在中に,18名のアメリカ両院の超党派議員などとオンラインによる意見交換を行った。台湾法案(Taiwan Act)を提出した民主党上院議員のエドマーキー(Ed Markey),若い時に台湾で宣教師をした共和党下院議員のジョン・カーティス(John Ream Curtis),共和党下院議員のトム・ティファニー(Tom Tiffany)とスコット・ペリー(Scott Perry),日系三世で昨年に台湾を訪問した民主党下院議員のマーク・タカノ(Mark Takano),台湾生まれの民主党下院議員のテッド・リエウ(Ted Lieu),華人系女性民主党下院議員のジュディー・チュー(Judy Chu),韓国生まれ女性共和党下院議員のヤング・キム(Young Kim),共和党下院議員のバージェスオーエンス(Burgess Owens)などがオンライン会談に参加した。

 その他,アメリカの政治家と7回,在米台湾人と1回のオンライン会議を行った。頼副総統一行は翌26日にホンジュラスに到着した。

2.カストロ大統領との会談

 カストロ大統領の就任式に,頼副総統は胸に台湾(中華民国)国旗のピンパッチと台湾とホンジュラス国旗の図案が印刷されたマスクを付けて臨んだ。同じ1列目に並んでいた頼副総統とカマラ・ハリスアメリカ副大統領は,互いに中南米の共同利益について意見交換をした。ハリス副大統領は「中央アメリカデルタ」(グアテマラ,ホンジュラス,エルサルバドルなど)の政策を担当していた。頼副総統はスペイン王のフェリペ6世,コスタリカ大統領カルロス・アルバラードと挨拶と対話も行った。

 就任式では,カストロの大統領の子供が体調を悪くするハプニングがあった。医師でのある頼副総統は席から立ちあがり手当をしようと試みたが,セキュリティーの制止を受ける一幕があった。

 頼副総統はホンジュラス滞在中,カストロ大統領と大統領府で二者会談を行った。頼副総統は,投票率の68%の選挙で,51%の高い得票率で当選したことに祝意を述べるとともに,蔡英文総統からの公式訪問要請を伝えた。蔡総統もカストロ大統領も両国初の女性リーダーであり,二人の女性指導者の面会が国際女性参政権行使の点で歴史的意義を持つと頼副総統は強調した。また,カストロ大統領の夫のマヌエル・セラヤ元大統領の在任中(2006~2009年)に,台湾との協力関係が深化したことに対して蔡総統からの謝意を伝えた。

 カストロ大統領は就任後に30項目の公約を実行するが,特に7項目(経済の再建,雇用拡大,脱税摘発,腐敗摘発,債務の再編等)を100日以内に優先的に解決するとしたことを蔡総統が高く評価したことを伝えた。

 頼副総統は今般の訪問に合わせて医療物資・器材(PCR試剤,N95マスク,非接触式電子温度計など)を持参し,ホンジュラスに提供した。大統領は台湾が長期にわたりホンジュラスと協力関係を維持してきたことに謝意を表し,国内のコロナの感染者数が大幅に増える中で,提供された医療器材等に重ねて感謝の意を表した。

3.帰路:サンフランシスコで医療,商業,国家安全分野のオンライン会談

 ホンジュラス訪問を終えた頼副総統は,帰路サンフランシスコに24時間滞在した。29日に民主党下院議長のナンシー・ペロシ(Nancy Pelosi),華僑団体,民主党上院議員のタミー・ダックワーズ(Tammy Duckworth)とオンライン・電話会談を行った。

 ペロシ議長は中国の人権問題に最も厳しい民主党議員であり,1991年の中国訪問時には,天安門広場で「中国の民主化のために犠牲になった人たちに捧げる」と中国語と英語で書かれた幕を掲げ,天安門事件の弾圧を批判し,中国当局に逮捕されたことで有名である。

 ダックワーズはイラク戦争時に,UH−60ブラックホークヘリコプターの米軍パイロットであった。出撃時に地上から砲撃を受け墜落,両足を失う大怪我を負うが,戦友がヘリコプターの残骸から彼女を引っ張り出し,一命を取りとめた。昨年6月,ダックワーズはアメリカのワクチン使節団の団長として台湾を訪問し,一躍台湾でヒロインになった。オンライン会談のあとに,頼副総統は「アメリカは台湾を捨てて,単独に作戦させることはあり得ない」と語ったダックワーズ上院議員と個別の電話会談を行った。ダックワーズは台湾訪問を大変喜んで,アメリカ議会は米台の経済・貿易の協力を支持すると述べた。

 頼副総統は内科医で,ハーバード大学で公衆衛生分野の修士号を取得した公衆衛生学者でもある。30日の「医療分野」には,スタンフォード大学医学部シニアアソシエイトディーンのイヴォンヌ・マルドナード(Yvonne Maldonado)と台湾出身の同大学小児科・医療政策教授のジェイソン・ワン(Jason Wang)とオミクロン株に関する専門的な意見交換を行った。

 「商業分野」では,米台商業協会主席のマイケル・スプリンター(Michael Splinter),同・会長ルパート・ハモンド(Rupert Hammond-Chambers)とのオンライン会議では,米台貿易及び投資枠組み協定(TIFA)の再開,さらに米台相互貿易協定(BTA)の締結に関しより深い意見交換を行った。

 また,「安全保障分野」では,前国家安全保障問題担当大統領補佐官のハーバート・レイモンド・マクマスター(H. R. McMaster),前米国国家安全保障問題担当大統領副補佐官マシュー・ポティンガー(Matthew Pottinger)と前米国国家安全保障会議中国局長のマシュー・ターピン(Matt Turpin)とのオンライン会談を行った。

 マクマスターの著書『戦場:自由世界を守る戦い(Battlegrounds: The Fight to Defend the Free World)』の中国語版が出版されたことで,台湾でも有名になっている。同著の中では,米国が如何に台湾の士気を高め,地域のパートナーとの協力を強化しているかについて,深く解析している。

 アメリカの安全保障の専門家は,如何にして台湾がアメリカや他の同盟国との協力関係を強化して台湾海峡の安全・安定に力を入れ,台湾経済を強化し,貿易先の多様化してゆくかにコメントした。

4.ホンジュラス訪問の意義

 台湾の総統任期は2期8年間が最長のため,蔡英文総統の任期は2024年で終焉を迎える。頼副総統は今回の「外交デビュー」の成功によって,2024年の次期台湾総統選挙の有力の候補者の中で一歩抜きん出たと言われた。次期総統・副総統の民進党候補者コンビは「頼清徳・蕭美琴」という噂も流れている。頼が主に内政を担当し,駐米代表(大使)の蕭は外交を担当するという最強のコンビであるとも言われている。

[注]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2423.html)

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