世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
官僚組織・教育制度崩壊後の日本の再構築
(エアノス・ジャパン 代表取締役)
2021.02.08
日本官僚組織の崩壊
戦後日本経済の復興,発展は日本官僚組織によってもたらされたと言われている。日本の官僚は,無私の精神,公僕の精神を持ち,自分のためではなく,国のため,国民のため仕事をした。1975年くらいまではこの日本官僚の精神があった。アメリカは,このことを良く理解して,日本を弱い国にするために,日本の官僚組織と日本官僚の精神を破壊しようと動いてきた。アメリカは「内務省」,「経済企画庁」を潰し,日本官僚の精神を壊した。
アメリカは,アメリカ留学組でMBAを取った日本人を使い,「新自由主義」を日本に導入させ,「日本的経営」を破壊し,日本の官僚組織を解体した。
1990年頃から,日本の偏差値教育を受けた「偏差値秀才」が日本の官僚の中枢をしめるようになった。偏差値秀才の官僚は,記憶力は抜群であるが,思考力が弱い。上からの指示に従うか,前例を踏襲することしか仕事ができない。「無私」精神も「公僕」精神も無くなり,忖度で生きる。安倍官邸は官僚の人事権を握ってしまい,日本の官僚は,官邸に向いて仕事をすることになり,自分の身のためには公文書を改竄したり,嘘も平気でつくような人間にしてしまった。日本官僚の人事は,ネポティズム(縁故主義)になり,官邸の意にたてつくものを排除する。政府のやる政策に対して意見具申すると左遷され,首になる。菅官房長官の発案であるふるさと納税制度に返礼の「歯止め」をかけようと具申した局長がいたが,即刻辞めさせられたようである。局長が意見具申すると大臣まで影響がある。だから安倍内閣の大臣も官邸の言いなりになる。しかし実際には,安倍首相がやろうとした政策もこうした官僚,大臣の無言の抵抗,サボタージュに会い,安倍首相が掲げた多くの政策の殆どが実行できなくなった。首相の政策策定にたいして官僚が適切な進言をしなくなったので,頓珍漢な政策を実行して,国民から総スカンを食う。
最近の日本産業でも,リストラに怯えて社員は上司に意見を進言しなくなり,社員は間違った政策でも上司の言う通りのことをやり,リスクを冒してイノベーションにチャレンジすることがなくなった。そのために日本産業は衰退してきている。
日本教育制度の崩壊
日本の教育は「偏差値教育」になっている。「偏差値」は予備校などの民間企業の経営の金もうけのために造られたものであるが,それが悪用され,日本人を「偏差値人間」という「片端」にしてしまった。今日では偏差値を高くしなければ良い大学に入れないし,偏差値の高い者しか良い職業につけず,出世もできない仕組みにした。
偏差値教育では,知識を記憶するだけの人間になり,思考ができないデジタル人間になる。効率化で動き,人間社会のなかで人間の気持ちが分からない人間をつくっている。記憶力は人間にとって大きな価値ではない。髪の毛が黒いとか,背が高いという程度の意味しかない。人間の価値は,思考力,人の心が理解できる感性,共感できる心である。偏差値が官僚の人間性を変えた。「無私の精神」,「公の精神」を破壊してしまった。学校も効率が求められ,先生の数を削減し,知識の詰め込みを効率化するため,先生との対話の時間が少なくしている。生徒をデジタル人間にし,モノを考えさせないものにした。偏差値の高い高学歴の医者は,人との会話ができず,人に触れることができないものが多くいると言われている。最近の日本の政治家,外交官,企業経営者は外国人にたいして哲学,歴史が語れなくなっていると言われている。1975年までの日本の官僚のトップは日本を良くするための素晴らしい仕事をしたが,1990年以降の官僚のトップはデジタイル人間になり,「前例」と「忖度」でしか動かなくなったと言われている。
「緊縮財政」で,政府は教育投資を削減してきている。1970年の文教費は政府予算の12%だったが,2018年は4%になっている。教育費のGDPに対する比率では,日本は43ヵ国中40位。日本の大学の学生当たり教育費は2万ドル。アメリカは3万ドル。効率化で学校の統廃合をし,教員の数を減らし,教育で大切なクラブ活動の費用と時間を削減した。
今,政府は「論理国語」の推進を考えている。効率人間にするために「文学」を止め,「実用言語」を教えようとしている。思想,哲学,文学を排除しようとしている。そして安倍政権は,「大学のミッションの再定義」として「文科系学部の縮小廃止」を計画しているようだ。「単科大学」ではなく「ユニバーシティ」でなければならない。技術,デジタルだけという「片端人間」にしてはならない。
政府は,「何でも民営化」として,大学の民営化をしようとした。しかしいろいろの抵抗があったため妥協して2003年10月「国立大学法人法等関係6法」を成立させ,「大学独立行政法人化」を決定した。これにより国から出す「運営交付金」を毎年減らしてきている。そのために国立大学は,助手,教授の数を減らし,研究費を減らしてきた。政府は少し妥協して「競争的資金制度」を作った。しかしこれは,「成果のすぐ出る研究」に金を出すという仕組みである。「科学」は宇宙の真理の探究である。研究開発を着手する前にその技術がすぐ役にたち,よい成果が出るかは分からないものである。そのために大学は小粒の研究しかやらなくなり,世の中を変えるような研究開発は起こらなくなった。この競争のために,研究論文の捏造,盗作が起きており,コロナの疫病の分析やワクチン研究についても捏造論文が出ている。
現在の大学の「ポスドクの研究員」は一年毎の更新になっている。いつ首になるか分からない。ドクターになっても教授のポジションがない。オーバードクターの自殺者が出ている。教授は助手がいないので事務手続きの仕事で追われ,まともな研究や授業ができない。
今コロナ問題のために学校はリモート学習を進めている。菅官房長官はこの「リモート教育」を恒久化しようとしている。しかし本当の教育はリモートでは不可能である。教育は,知識を教え,覚えさせることではない。先生,友達と交わり,語り合いのなかで,その場から「気付き」,「発見をする」のが教育である。その人の特長を伸ばすことを助けるのが教育である。これはウエッブやリモートではできない。
自壊した日本社会構造を再構築する九策
- (1)新自由主義のグローバル化をストップさせる。
- (2)デフレから脱却。先が見えるようにして国民の鬱をなくす。投資プロジェクトを策定し,財政投資による内需の拡大。GDPを先ず700兆円規模にする。
- (3)賃金引上げ。ベーシックインカムではない。与えられるよりも自分で稼げる社会をつくる。これにより内需を拡大する。非正規社員制度の廃止。賃金を上げ,豊かな家庭にして父親母親が子供に触れ合える環境にする。
- (4)税制の刷新。適切な法人税。大企業への税控除を少なくする。時限立法として消費税の撤廃。
- (5)「国家戦略計画」を策定する経済企画省,国立シンクタンクの創設。
- (6)教育制度の再設計。
- (7)移民政策を再考する。
- (8)現在のグローバル化をベースにした「コーポレートガバナンス」を刷新する。「日本的経営」を取り戻す。
- (9)公務員が国のため,国民のために仕事ができる環境を造る。タコつぼ省庁を再編し,人事権を正常に戻し,政府官庁の仕事の理念,高いビジョンを創り上げる。
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