世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
ハイエクの警鐘と日本の蹉跌
(エアノス・ジャパン 代表取締役)
2021.01.25
ハイエクの教え
ハイエクの「自由主義」という概念は「反合理主義」である。ハイエクは,「効率」という「合理主義」では人間の社会は旨く行かないと言った。人間の小賢しい効率主義は人間社会を破壊してしまう。ハイエクが「合理主義」や「効率」を警戒するのは,合理主義で社会を変えようとすると,複雑な人間社会を成り立たせている無数のルール,慣行,文化,倫理,道徳,風土の絡み合いを壊してしまうからである。人間社会は長い歴史になかで生まれたいろいろのルール,慣習,文化,倫理,風土が存在し,そのなかで進化するものである。合理主義によりその社会の秩序,慣習,ルール,文化,倫理が壊されると「全体主義」になるとハイエクは警告していた。マルクス主義や全体主義者は,人間の頭で,計画経済で理想的な経済社会をつくるとしたが,それはできなかった。
アダム・スミスも,同じような警告をしていた。人間の社会の存続は,正義,誠実,貞操,忠誠の義務を守ることによって可能になる。スミスは,共感に基づく個人の倫理的選択と国益の名のもとになされる国民への道徳の要請が衝突した場合,ためらわずに後者が優先されるとした。良き意図さえあればいかなる人間の行為は倫理的に是認されるということではない。行為の結果次第では意図した倫理的判断を補正する必要がある。
サッチャーはあるところで,市場原理主義の「グローバル化」はハイエクの本から学んだと言っていたが,ハイエクの教えを読み違えていたのだ。サッチャーは「社会などありはしない,あるのは個人だけだ」と言った。サッチャーは「イギリス病」を克服しようとして「グローバル化」に走り,イギリス経済を更に悪くした。アメリカのレーガン大統領は,ミルトン・フリードマンに「新自由主義」を吹き込まれた。フリードマンは,「新自由主義」により富裕層が増えれば「トリクルダウン」(富が国民大衆にも流れてくる)が起こると言ったが,トリクルダウンは実際には起こらなかった。富の格差が広がっただけだった。
「合理性」と「効率」で押しすすめた「構造改革」は,ことごとく失敗した。橋本内閣の構造改革は失敗し,小泉の郵政民営化も失敗だった。人間社会の習慣,慣行,風土,文化という無数のルールを無視し,破壊すると,経済社会はおかしくなる。歴史を経た人間社会の慣行,習慣,風土といういろいろのルールを考慮に入れなければならない。単純に効率,合理性で社会を改革しようとすると失敗する。「コストカッター」と呼ばれた日産のゴーンは,効率,合理性だけで日産を動かし,日産を駄目にしてしまった。
「グローバリズム」「市場原理主義」は目先利益を追求で動き,イノベーション投資はしない。「資本主義経済主義」は先のための投資をして,経済活動を拡大発展させるものである。つまり「市場原理主義」でも「保護原理主義」ではない,「資本主義的経済活動」をしなければならない,これをハイエクは教えていた。
シュンペーターは「家族」というものを重要視していた。自分の寿命より先のことを考えるものとして子供や孫という存在がある。将来に対しての投資はそこから出る。グローバル化で核家族や家族を解体していくと資本主義は死ぬと言った。
今日の日本は,二宮尊徳の言葉「経済なき道徳は戯言であり,道徳なき経済は犯罪である」という状態にある。今の政府は犯罪を犯していると二宮尊徳は言う。
アメリカの日本に対する「サイレント・インベージョン」
アメリカがグローバル戦略で,戦後すぐ日本を攻撃したのは,日本の食習慣を変え,アメリカの小麦と牛肉と大豆を日本に押し込んだことである。それで日本の麦作農業も稲作農業も大豆農業も衰退させた。アメリカのモンサント社の種子と農薬を日本に押し込み,アメリカは日本の農業に必要な種子と農薬を握ってしまった。輸入農薬の規制緩和をさせ,アメリカは日本にアメリカの農薬を売る。日本に輸入されている小麦の70%がこのグリホサート農薬が含まれている。ヨーロッパはこの農薬を使用禁止にしている。
アメリカはハゲタカファンドを日本に入れて,日本の資産をどんどん収奪している。アメリカ政府は,「司法省産業」で,いろいろの言いがかりをつけて,他国から金を巻き上げる。トヨタやタカタなどの日本産業から膨大な金を巻き上げ,日本企業から談合嫌疑で,罰金を取っている。IMFを使ったり,国連を使ったり,通商条約スーパー301条を使ったり,「ワシントン・コンセンサス」で日本にいろいろの制裁をかけている。
1966年アメリカは日本にアメリカのために国債を発行せよと強要した。そして日本には金融商品を作ることを禁じ,アメリカの金融商品のブローカーになることを強要した。こうしてアメリカは日本を金融でコントロールしている。
日米半導体貿易交渉で,アメリカは,アメリカ製の半導体を日本に無理やり押し込んだが,アメリカ半導体の品質が悪く,最終的には押し込めなかった。だがアメリカも日本も半導体産業を潰してしまった。今アメリカは大型ギャンブルビジネスを日本に押し込もうとしている。
アメリカは,日本人のアメリカ留学組を育て,「引き込み屋」として使い,日本に「新自由主義」「グローバル化」を押し付けてきた。アメリカでMBAを取った日本人がアメリカの「コーポレートガバナンス」を押し付けて,日本企業を弱体化し,「日本的経営」を壊してしまった。アメリカ国際金融資本の引き込み屋という日本人の手先がいる。これがアメリカの金融資本が日本の富を収奪するのを手引きしている。
トランプが反対していたものを,日本はグローバル化という「TPP」を更に進め,「関税の撤廃」,「関税手続きの簡素化」,「サービス業の自由な活動」をして,輸出を伸ばそうとしている。しかし,これは相手国の市場を取ることであり,輸出ドライブをかけることであるので,又国際紛争が起こる。世界的な経済の長期停滞の今は,輸出ドライブをかけるのではなく,各国が内需を拡大することに努力しなければならない。
利権屋というレントシーカーの群れ
安倍内閣は,国の財産,税金をかすめ取る「レントシーカー」(国の規制を変更させて,国の財産・税金を奪い取るもの)をたくさん作ってしまった(森友学園,加計学園のように)。国の政治のなかでは,国家の財産,税金を横取りする「レントシーカー」が出てくる。白アリのようなものか,コヨーテのような獰猛なものか,いろいろ形を変えて現れてくる。
「持続化給付金」に食らいついた「デザインサービス協議会」,「電通」,「パソナ」などの「中抜きグループ」が現れた。「GoToキャンペーン」,「GoToイートキャンペーン」には「ツーリズム産業共同指定体」,「全国旅行業協会」などが入ってきている。「大学入試改革委員会」にTOEFL,IELTS,ベネッセなどのレントシンカーが入っている。問題は,政府や官僚がレントシーカーとグルになり,カネを山分けすることである。東日本大震災の復興事業にも大手ゼネコンなどのレントシーカーが食い入り,下請け業者に裏金を作らせ,ゼネコン幹部に現金提供し,それが政治献金にもなった。
「未来投資審議会」,「有識者会議」,「規制緩和会議」,「公務員制度改革委員会」などに「レントシーカー」が入り込んで,政府の規制を変えさせて,そこで金をむしり取る。こうした会議には,利害関係のない中立の識者が入らなければならない。「政府のコストを下げさせてあげますよ」と提案し,公務員の人員を削減させ,その仕事を丸ごと請け負って儲ける。「なんでも民営化」で公共事業・サービスを外国企業に売り渡すための「引き込み屋」がいる。これも外国企業からその分け前をもらう。
イギリスのサッチャーは,グローバル化で規制を撤廃して「利益団体」というレントシーカーを退治し,中国の習近平は,国から金をくすねた者を摘発し,投獄した。しかし日本政府はどんどんレントシーカーを育てている。日本ではレントシーカーから分け前を獲る「奉行所」の悪役人がいるようだ。
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