世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1840
世界経済評論IMPACT No.1840

この10年の各種政策,その目的と効果についての単純疑問

鷲尾友春

(関西学院大学 フェロー)

2020.08.10

 2010年代以降,日本では,数々の新型政策が導入された。マイナス金利,ふるさと納税,副業解禁,キャッシュレスとポイント還元,それに最近のコロナ絡みでのテレワーク推進等など。余りに数が多い故,改めてここで,そうした政策の導入意義を再考してみたくなった。以下は,そんな吟味で生じた,未だ解けない疑問の数々である。

 先ずマイナス金利。これは,概念上,元本を銀行などに置いておくと,減価することを意味する。日本には嘗て,蟻とキリギリスの譬えで,“蟻たれ”と教える教訓が健在だった。人間努力して,時間をかけて付加価値を高め,社会に貢献すべしというのだ。そしてこれは,日本の保守社会の健全な価値基盤であったはずだ。其れが,いとも簡単に,金融技術的な議論で目晦ましされ,政府は,“元本が目減りする”マイナス金利の領域に踏み込んでしまった。

 同じような現象は,コロナ禍の最近でも繰り返されている。例えば米国。当局が大幅な金融緩和に踏み切ると,一方では,人々の心に将来のインフレ懸念が住み着き,他方では,眼先の金利が低下する。そうすると,通貨を手元に留め置こうとする誘因が薄れ,投資家はこぞって,貨幣を他の金融資産に置き換えようとする。一方,企業は将来への備えとして,銀行からのクレディット枠拡大を取り付け,社債を発行して手元資金を潤沢にしようとするが,手中にした資金を今直ぐ投資には回そうとしない。実体経済が不調なのに,金融経済が活況を呈している,現況の背景とはこういった処だろう。

 だとすれば,ここはむしろ,実体投資をいかに引き出すか,そのための諸策を打ち出すべき時ではないのか。企業の手中にある多額の資金を投資に出動させ,技術や新しいビジネスモデル開発に向けさせる。そのためには,ため込んだ資金には税を課し,投資に向けた際には,減税を認める等こそが肝。ところが現実は,眼先対応の策ばかり。「何で,そんなに硬直的なの?」,素人は,ついそう考えてしまうのだ。

 ふるさと納税が盛んだ。実は筆者もこの制度を利用して,温泉旅行に行ってきた。だが,考えてみると,徴税は国家権力の究極の発現なのに,如何に公経済と私経済の融合の時代とはいえ,其れを或る意味,“提供商品を出汁に,その権限帰属先の自治体をどこにするか,市場でセリにかけるとは…”。

 副業の解禁もしっくりとこない。経済の成長率が落ち,ホワイトカラーの生産性が伸びない中,いずれはサラリーマンにも受難の時代がくる。そう思っている筆者には,副業の解禁は,そんな事態への途を開く措置としか見えない。低成長では所得の伸びは期待出来ない。家計の所得を伸ばすには,嘗ては共働きが推奨された。それも限界に来た今,「遂に副業か…」,其れが筆者の正直な印象なのだ。

 亦,副業承認は,企業が最早,本業の一部事務すら,社員たちには没入して貰う必要のない業務と看做し始めた証左ではないかと思わせてしまう。本社事務も,かなりの程度,外注に廻される時代が来ようとしているのだ。

 キャッシュレスの促進にも,タイミング上,違和感がある。既に全国津々浦々,キャッシュレス決済が行き渡っている。そこではポイント制が導入され,消費者はポイントを貯めれば何パーセントかの,決して小さくはない価格割引が享受出来る。このポイント還元の原資は,当初は国の予算だという。「だが…」と筆者は思ってしまうのだ。「制度が導入された後までも,ポイント割引が続いている。この割引って何だろう」と…。

 それは煎じ詰めれば,生産者や販売業者の,得べかりし利益を,キャッシュレス・サービス運営企業が浚っているのに他ならないのではないか。製造業者や販売業者は,それによって総売り上げは増えているかもしれないが,それは,サービス会社に利益の上澄みを浚われる,ある意味,消費者との関連では,値引きを伴うものであり,その意味では,デフレ脱却という大戦略目標に合致する政策なのだろうか…。

 もう一つ,最後に言及して置きたいのは,昨今のテレワーク推進についてである。国自身が,コロナ対策として,企業にテレワークの積極導入を説得中だが,これなども,その行き着く先のことを考えると,安閑としてはおれないのだ。テレワークでこなせる仕事は,極言すれば,前述したように,外注に廻せる仕事のように見えて仕方がないからだ。

 嘗て,日本の製造業で,工場労働者たちはトヨタの看板方式などで,一流の生産性を誇るが,本社などでのホワイトカラー職は,生産性が低い,と米国からよく指摘されていた。そうした長い歴史的尺度から,今回のコロナ禍での在宅推奨は,ホワイトカラーの労働生産性の低さを是正する時だと,資本の側が判断した,そうした動きの反映のように見えるのだ。もしそうなら,資本・労働比率が資本側に厚くなっている長期傾向の中,この在宅の定着で,近い将来,労働の取り分が益々少なくなるだろう。それは,消費主導の日本経済にとって,本当に好ましいことなのだろうか。大目的が消費の盛り上げであるならば,労働分配率の低下阻止こそが政策の最大目的でなければならない筈だが,テレワークの推奨と,その結果が齎すかもしれない外注化の流れは,どうしても,そうした大目的に抵触するように思えてならない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1840.html)

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