世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
新型コロナウイルスの感染症拡大の影響:現金給付の実行方法に関する提案
(法政大学 教授)
2020.05.11
一律の現金給付+終息後の課税,給付の実行方法
以上の問題を考慮しながら,本当に困っている人々に公費を投入する方法はないか。万能の策はないが,現行制度でタイムリーな所得情報を把握するのは困難であるため,まずは一律の現金給付を行い,今回のコロナウイルスの問題が終息して経済活動が正常化してから,国債発行で賄った財源を長期間(例:10年間や20年間)かつ追加の薄い課税で償還する方法が考えられる。その際,所得の高低などに応じて追加課税を行えば,所得再分配的な効果をもつはずだ。
東日本大震災でも,震災の復旧・復興財源を調達するため,政府は「復興債」という国債を発行しており,所得税の2.1%上乗せ(25年間)や個人住民税の年1000円上乗せ(10年間)等で財源を確保している。また,1923年9月の関東大震災後でも,復興債を発行している。
基本的に筆者は財政再建派で,通常であれば,このような提言には賛成しないが,政府の緊急事態宣言(2020年4月7日から5月7日)の発令により,今回の問題はもはや国民全体に波及しており,複雑で情報の非対称性が大きく,緊急性を要するという点が,これまでと全く異なる。しかも,ワクチンの開発に早くても1年半という専門家の見解もあり,新型コロナウイルスの問題がいつ終息するかも誰も分からず,いわゆるナイトのいう「真の不確実性」に我々は直面している。国民1人当たり10万円の現金給付であれば約13兆円の予算であり,財源的に確保不可能な規模ではない。
もっとも,本当の意味での実務的な問題はできる限り迅速に現金給付をどうやって行うかである。アメリカでも新型コロナウイルスの問題で現金給付(成人の国民1人当たり最大10万円程度)を行うが,内国歳入庁(IRS)が納税者が確定申告に利用した銀行口座に直接振り込む予定である(注:連邦税を納めていない場合は申請する)。日本でもアメリカのような方式が採用できればいいが,現時点では不可能だ。このため,技術的なツメが必要であるが,インターネットを利用し,筆者は以下の申請方式で(個人単位の一律給付を)実行できないかと考えている。
- 1)まず,政府は現金給付の手続きを行うための専用サイトを構築し,この専用サイトには,通知カードやマイナンバーカードに記載のある国民すべての「氏名」「マイナンバー」「生年月日」に関する情報をペアで蓄積する(注:専用サイトがペア情報を直接蓄積しなくても,マイナポータルの認証の仕組み等を利用し,いま政府が分散して保有する「マイナンバー」等の情報にセキュアな形式でアクセス可能とする)。
- 2)次に,国民は自分の「通知カード」あるいは「マイナンバーカード」を用意する。
- 3)その上で,国民は専用サイトにアクセスし,メール認証のため,専用サイトにメールを入力して,サイトからのメール送信で簡単な本人確認をする。それが終了したら,「生年月日」(よりセキュアな状態にするために必要があれば「氏名」も)を暗証番号に,「マイナンバー」を入力し,「情報突合ボタン」を押す。
- 4)上記3)の突合データ(「マイナンバー」「生年月日」等)は,暗号化した上で専用サイトが蓄積しているペア情報(「氏名」「マイナンバー」「生年月日」)と突合され,それが一致した場合に限り,下記5)の振り込みサイトを表示する。
- 5)上記4)の突合が成功したら,現金給付の振り込みサイトにおいて,振込先の「銀行名」や「口座番号」「氏名」を入力し,現金給付の口座振り込みを実行する。振り込み実行時点で突合データは破棄され,「マイナンバー」と「給付済み」の記録のみが専用サイトに保存される。
- 6)各家計は,自らの家族分,上記2)から5)を繰り返して実行する。
個々人の判断だが,現金給付が不要な場合は上記の申請を行う必要はない。また,電子的な申請が難しい人が多いと思われるのは高齢者だが,その部分は公的年金の振込口座の情報を利用して振り込みを自動的に実行することも考えられる(注:その場合,公的年金の受給者の情報(生年月日も)と各受給者のマイナンバーは政府に情報があるので,上記2)から5)の電子的な申請を受け付けない措置をしておく)。それ以外の人々に対しては,電子的な申請に関する専用のコールセンターを設置して誘導すればよい。
いずれにせよ,以上の対応が可能なのは,通知カードでマイナンバーを全ての国民に交付済みであるからである。仮にマイナンバーを交付していなければ,このような措置は実行できない。今後似たような危機に対応するため,過去の納税情報のみでなく,マイナンバーと銀行口座の紐づけなどをしっかりしておくことが望まれる。
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