世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1530

令和二年の正月夢,北朝鮮国家承認論

鷲尾友春

(関西学院大学 フェロー)

2019.11.04

 日本国中に,一方では嫌韓ムードが漂い,他方では北朝鮮への警戒感が募っている。

 先ずは日韓関係だが,紛争の種が山積。何故,こんなに対立が多発するのか。

 冷戦時代,中国は顕在脅威。米国の“封じ込め”によって,中国経済は遮断の対象だった。韓国は,そんな中国や,体制を異にする北朝鮮,更にはその背後のソ連という脅威に囲まれ,米国や日本に頼らざるを得ないという現実があった。米韓,日米という二つの安全保障条約によって,事実上,日米韓は密接に協力し合う,合理的な根拠が確かに存在していた。

 ところが今はどうなのか。韓国はグローバル化で中国経済への依存を高め,国内では高まった所得水準を背景に,南北融和への抵抗感が弱まっている。そういう風に見れば,文大統領のイデオローグ的な特異体質の故だと,往々帰せられる,現在の韓国の動きには,それなりの社会的支持基盤が存在する様にも見えて来る。要は,イデオロギーの問題ではなく,韓国の経済や社会の,この間の成熟が齎した現象であり,その結果,経済や安全保障の分野での,日韓双方の視野がずれてきているのだ。

 北朝鮮についても,同じような,“変化”の観点から物を観るべきだろう。

 冷戦の残り香が匂っていた時代,北朝鮮は韓国の動きや米国の動きで窮地にたたされることが多々あった。たとえば,韓国が中国やソ連と立て続けに国交を樹立した時,北朝鮮は日本にすり寄る素振りをみせ,結果,金丸訪朝が実現,北への経済援助も合意寸前までいった。更にその後,第二次湾岸戦争が起こり,米国がサダムフセインを打倒した時,体制保持に不安を感じ始めた北朝鮮を,小泉総理が訪問,拉致被害者の一部帰国が実現した。

 日本と北朝鮮の間の2大問題といえば,朝鮮半島の非核化と拉致問題の完全解決だろう。その内,非核化の問題は,残念ながら日本は直接の交渉当事者たりえない。

 一方,拉致問題の方は,被害者家族の高齢化で,待ったなしの解決を強いられているし,所詮は日本が単独で交渉解決しなければならない問題でもある。

 北は今や,交渉レバレッジとして,核兵器開発を活用しながら,トランプ大統領が食いついて来るのを待っている。トランプの方も,来年の大統領選挙に,北との何らかの合意を売りにしたい下心が見え隠れしている。

 そもそも,米国の大統領が北のトップと,何度も面談し,ラブコールを交換し合い,38度線を歩いて渡る。そんな関係が続けば,米国が北朝鮮の体制保証に実質的に踏み切るのは,ある意味,時間の問題ではなかろうか。日本の対応も,それらが実現してしまってからでは遅いのだ。今からの下準備が絶対に必要なのだ。

 かくして,令和2年の正月夢に託す形での,かくあって欲しい,日本外交交渉物語の始まりとなる。その際のキーワードは,北朝鮮の国家承認。それこそが,対韓国,対北朝鮮,双方に対する,日本としての切り札となり得ると思うからである。

 安倍総理にとっては,拉致問題を解決し,北朝鮮との関係正常化に道筋をつけること。それが,レーガシー確立の途であることは間違いない。そのために必要なことは,総理も信頼し,中国からの信頼も厚く,北朝鮮が疑問を持たずに済む人物に,バックチャネルの創設と交渉を委ねること。そして,北と関係正常化の際,どうしても問題となる戦後補償を,経済支援の名の下に,どういう形で行えば良いかの内部検討を始めること。

 この時期,急に国家安全保障局長が変わったのも,以上のような憶測からすれば,極めて面白い動きと見えてならない。前局長は,古くは沖縄返還で佐藤総理の秘密特使を務めた若泉敬教授との因縁浅からぬ人物だったし,中国要人とのパイプも太い。そんな人物が,中国の協力も得ながら(こういう交渉で中国と協力し合うのは,立派な日中関係改善策とも成り得る筈),北朝鮮問題解決に向け,深く潜航したとすれば…。又,役所のどこかで,来るべき北への経済支援策検討が始まっているとしたら…,そして,その支援策の中身も,たとえば日本海に沿った北朝鮮のどこかに,ある種の自由貿易工業団地を,日本の手で造成し(南北の融和などと称して手垢のついたけケソン工業団地の活用などではなく),そこに日本の繊維企業が製造委託出来る立派な工場を建設するとしたら…。

 ユニクロなどは,低賃金を求めて製造拠点を,アジアからアフリカに移し続けている。だが,そんなことをしなくても,日本海を挟んだ北朝鮮に,格好の潜在的製造拠点が存在しているではないか…。

 もちろん,以上述べたような正月夢は,手元に何の裏づけ材料もない,暴走老人の戯言に過ぎない。だが,このまま推移すると,日本の出番がないままに,米朝交渉で大筋が決まり,日本だけが取り残される事態が生じかねない,だから,何か大胆な手を打つべきだと思料してしまうのだ。かくして我が未来小説のイントロは,谷内さんは今どこに…,というフレーズで始まることになる。

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