世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1394

立地選択と事業経験

竹之内秀行

(上智大学経済学部 教授)

2019.06.24

 複数の企業が特定の地域に集中して立地する現象のことを,集積と呼ぶ。こうした集積は,個々の企業が相互参照的な意思決定を行った結果として発生する。つまり,他企業の行動を参照しながら,立地選択を行った結果,特定地域に多くの企業が集積するのである。

 では,どのような時に企業は他企業の行動を参照するのだろうか。国際というコンテクストで考えてみると,初めて海外へ進出するときほど,企業は他社を参照しながら立地選択が行うかもしれない。海外市場への不慣れさのため,他企業の行動を参照するのである。また,それまで進出したことのない不慣れな地域へ進出するときにも,他社を参照する傾向があるかもしれない。いずれも,自社経験の少なさを他企業の行動を参照することで補うのである。一種の観察学習かもしれない。また,単独モードよりも現地企業との合弁モードのときのほうが,他企業の行動を参照しないかもしれない。合弁モードでの進出であれば,現地企業から現地情報を得られるため,現地市場における不慣れさを補うことができるかもしれないのである。このように,相互依存的な立地選択行動は,自社内部での経験蓄積や海外市場への参入モードによって異なるかもしれない。そこで,1989年から2005年における日系自動車部品メーカーの中国市場における立地選択を対象として調査を行った(竹之内・齋藤,2017,竹之内・高橋,近刊)。

 その結果,ある発見事実を得ることができた。すなわち,事業経験や参入モードに応じて,本国の同業他社の影響が異なることが分かったのである。具体的には,次の2点である。1点目は,中国での事業経験については,事業経験のない1回目の進出では,同業他社の立地選択は有意な影響を及ぼさないのに対し,同一部品カテゴリーの同業他社の立地選択はプラスに有意な影響を及ぼすことが分かった。加えて,2度目以降の進出では,同業他社の立地選択のみが影響を及ぼしていることが分かった(同一部品カテゴリーの同業他社は影響を及ぼさない)。もう1点は,現地企業との合弁による参入モードと本国の同業他社の影響の関係については,いかなる関係も見出すことができなかった。

 これらの分析結果は,いくつかのユニークな点を示唆している。第1に,中国における現地企業との合弁は,必ずしも外部からの学習を通じて不確実性を解消する役割を果たしていないかもしれない。というのも,参入モードが合弁かどうかによって,本国の同業他社の影響に違いが見られないのである。第2に,中国市場での事業経験に関する発見事実は,本国の同業他社の影響の時期にタイムラグがあることを示唆している。最初の中国進出のような不確実性が高い状況下では,同一部品カテゴリーの同業他社のような身近なプレーヤーの行動が参照される傾向がある一方で,2度目以降の中国進出においてはより遠くのプレーヤーの行動がタイムラグを置いて影響を与えているのである。

 このように,日系自動車部品メーカーは中国市場において本国の同業他社が多く立地する地域を選択する傾向にはあるが,その影響は一様ではなく自社内部での経験蓄積や海外市場への参入モードに応じて,同業他社の影響は異なるのである。

[参考文献]
  • Belderbos, R., Olffen, W.V. and Zou, J. (2011) ‘Generic and specific social learning mechanisms in foreign entry location choice’, Strategic Management Journal, 32(12): 1309-1330.
  • Guillén M. F. (2002) ‘Structural inertia, imitation, and foreign expansion: South Korean firms and business groups in China, 1987-95’, Academy of Management Journal, 45(3): 509-525.
  • 竹之内秀行・齋藤泰浩(2017)「自動車部品メーカーの対中進出と相互依存的立地選択行動」『多国籍企業研究』第10巻,1-20.
  • 竹之内秀行・高橋意智郎(近刊)「中国市場への進出における相互依存的立地選択行動と環境の不確実性:事業経験と参入モードの影響」『日本経営学会誌』

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