世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1307

「中国製造2025」とHuaweiのゆくえ

古川純子

(聖心女子大学 教授)

2019.03.11

 Five Eyes,すなわち米,英,加,豪,ニュージーランドの5か国による安全保障情報共有システムはひとつに繋がっている。日本は同盟国とはいえ外様なのでその末端につながるのみである。とはいえHuaweiの通信機器がその情報システムに使用されれば,情報ネットワークのノードに埋め込まれた機器から,機密を含め情報をごっそり中国にもっていかれるというアメリカとその同盟国の危機感は頷ける。オックスフォード大学は最近Huaweiからの資金援助を断ることにした。

 遠藤誉氏は,習近平の「中国製造2025」の最終目標は,宇宙開発を含む覇権の奪取であることを見落とすなと警告する。衛星は各国にとってすでに最重要なインフラになっており,万一これを攻撃されれば経済のすべてが止まる。中国は2016年8月16日に量子通信衛星「墨子号」の打ち上げに成功し,2017年9月29日には中国・オーストリア間で「量子暗号通信」に世界ではじめて成功した。中国のこの快挙は瞠目すべきことである。量子暗号は量子のもつれを利用した現在最強・解読不能の暗号技術であり,暗号技術こそが国家間紛争を制することは歴史の教訓である。さらに2018月12月8日,中国は月の裏側に着陸することに成功した。核融合発電に用いる資源ヘリウム3を獲得するという名目で,事実上の軍事基地を建設するのではないかと遠藤氏は指摘する。宇宙開発で覇権を握るための技術は,もちろん安全保障上の優位を保証する。

 ペンス副大統領の発言などに現れるアメリカ側の認識には,中国共産党および中国人民解放軍とHuaweiやZTEをひと塊とみなしている印象がある。中国共産党の言うことを聞く優良企業を排除して,経済上・安全保障上のアメリカの優位を堅持したいアメリカの視角からは当然であろう。しかしHuaweiをめぐる状況はそれほど単純でもない。

 ZTEとHuaweiには前回も触れたように30年来の確執がある。中国共産党が国家AI戦略の5大企業BATIS(バーティス)に選定したのは,Baidu,Alibaba,Tencent,iFlytek(音声認識),Sense Time(顔認識)であるが,そこにHuaweiの名はない。米Qualcom の指導を受けたHiSiliconの技術が,世界トップのQualcomに並ぶ水準まで来ていることは間違いない。5Gどころか6Gまで射程に入っているのである。にもかかわらず,なぜHuaweiがここに入らないのかは興味深い。これはHuaweiへの戒めか,アメリカからの保護なのか。

 宇宙開発の世界覇権をめざす2049年までの一里塚として2025年までに基礎材料の70%自給を達成したい習近平としては,早急にHuaweiを取り込みHiSiliconの半導体を中国の他メーカーに供給させたいはずである。しかしHuawei側はまだそれに応じていない。習近平にとってHuaweiは,自分の意のままにはなりにくいことに手を焼く相手かもしれないが,その技術はどうしても潰してはいけない「中国の宝」とみなしているであろう。

 世界は,アメリカ圏と中国圏との情報通信機器による棲み分けが進むという見方があるが,この先それはどうなるかわからない。外資や国有企業が中国通信機器市場で圧倒的な占有率を持っていた1990年代当時,Huaweiは毛沢東の長征を真似て,農村部を順に抑えて都市部を攻略した。2000年代からの海外戦略でも,迅速さ・低価格・良質なサービスを武器に,アジア,アフリカ,中東,東欧,ロシア,ラ米など新興国・途上国(世界における農村部)を確実に傘下にいれながら先進国の攻略を狙う「農村包囲都市」戦略を行ってきた。

 最近Five Eyesのイギリスとニュージーランドが,独自で判断するという意思を示してアメリカのHuawei包囲網に異議を唱え始めた。オーストラリアの言動も怪しくなりはじめている。中国に貿易で依存するFive Eyes諸国に石油の荷揚げ阻止などで揺さぶりをかける習近平の切り崩しが,功を奏しつつある。

 ビジネスの地政学的構想力においても凄みをもつHuaweiが,アメリカと中国共産党の両方からの圧力を受けていま冬の時代を迎えていることは確かだが,長期では「中国製造2025」において中核企業となることは間違いないであろう。自律の精神と共産党におもねらない姿勢が中国の若者からは圧倒的な支持を得ており,かえって中国国内のナショナリスティックな反米感情を強化している。共産党は嫌いだが中華への愛は歓迎する若者たちは,AppleのiPhoneをゴミ箱に放り込むプロパガンダ・ビデオに共感している。そしてアメリカを嫌う国が世界にはたくさんあり,トランプの暴言と政策によってその国家の数は現在増加中であることも忘れてはならない。

 5G時代に向けて導入する部品や機器のひとつひとつが経済のみならず安全保障上の支配と自らの立ち位置を決めていく,IoT本格時代の幕開けである。

関連記事

古川純子

国際経済

国際ビジネス

アジア・オセアニア

最新のコラム