世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
「日本版NCAA」はスポーツ族の独り歩き?[続編]
(青山学院大学経済学部 教授)
2019.03.04
半年前の拙稿にて日本版NCAAについて論評を提示した。この組織が「大学スポーツ協会」(UNIVAS)として3月1日に発足する。報道によれば2月25日時点で同協会へ加盟手続きを済ませた大学が,設立時目標の200校に迫る196校あったという。
しかし,日本経済新聞の2月5日付の社会面では,UNIVASがその誕生前からピンチを迎えている,と報道されていた。
この組織の中核になると期待された筑波大学が参加を迷っているというのである。筑波大学は2018年春に学内の運動部をマネジメントする「アスレチックデパートメント(AD)」を設置し,UNIVASの発足に関与してきたらしいが,ここに来て参加を疑問視している理由は,運動部の運営に大学が責任を持つという大前提が明確でないまま参加が募られていることのようだ。本家NCAAの組織や運営に詳しく,準備段階からスポーツ庁の検討会に加わってきたという株式会社ドーム(米スポーツ衣料アンダーアーマー社の日本総代理店)の安田秀一社長(法政大学アメフト部で活躍し,現在同部監督および筑波大学客員教授)は,「目指すべき姿とまったく違う組織になった」と,日本経済新聞の電子版で「Sportsデモクラシー」というシリーズ・コラムで吐露している。その中で,さもありなんと筆者が思ったのは以下のくだりである。
「スポーツ庁の担当者を交え,我々の会社の会議室で何度も検討を重ね,行政にNCAAの会長や幹部を紹介し,ともに米国の視察にも行きました。毎年1月に開催されるNCAA最大のイベントの一つ,NCAAコンベンション(年次総会)には会社として3年連続で参加しています。純粋な気持ちで活動してきただけに,得体の知れない無力感に包まれています。一人の納税者として,今後はUNIVASに反対せざるを得ないことが残念でなりません…『あれ,なんか変だぞ』と思ったのは,ワーキンググループが構成された時に,そこを仕切っていたのが有名コンサルティング会社だった時です…『これはだめだ』と確信したのは,UNIVASの理事の候補者名簿を見たときです。なぜか広告代理店の社員をはじめとする,現場にも大学にも関係がない人々が名を連ね,肝心な大学の学長や学生生活の現場をよく知る人たちはまるで入っていない。なぜこうなるのか。学生スポーツの健全化とはまるで別の目的のために,組織が動き出していると感じました」。
一方,安田氏が主張する「本来UNIVASが目指す順番としては,まず大学が運動部を正規の活動とすること。学長がリーダーシップを取り,大学同士で連盟を組むこと,そしてその連盟で試合を組むこと。興行権はホームゲームを行う大学が持つこと,収益の配分は当事者である大学同士で決定すること。この設計図と実行プランを作った大学に対して,一時的に補助金を出す…補助金に使った税金も,投資としてリターンを見込める可能性が出てきます」というところは,筆者は無理があると思う。運動部を正規の大学カリキュラムにするのは,体育大学か,運動部を大学の広告塔に据えることを費用対効果で検証したうえで参加を決意した大学がつくる体育学部だけにするのが筋であろう。前稿で紹介したように,本家NCAAに関する実証研究を拾った文献によれば,大学スポーツの産業化で大学財務が黒字なのはアメフトとバスケットボールという限られた競技における強豪の一部に過ぎない。
さて,正月の風物詩となった箱根駅伝の効果について,明確な結論を見いだすほどの証拠はないが,拙ゼミ生の1人が2009〜2018年の10年間における箱根駅伝のデータと,リクルート社が高校生受験生を対象に毎年行っている大学志願度データ,および箱根駅伝で活躍する首都圏大学の受験者数データから相関関係を求めた暫定結果は以下の通りである。
「厳しいデータ制約下ではあるが,結果は否定的なものであり,大学志願者数の決定要因としては,スポーツでの露出度よりも,偏差値や既存の伝統的ブランド,入試制度の変更などのほうが大きいであろうと推測される。箱根駅伝は志願者集めには貢献できない半面,スポーツ好きの関係者が母校を応援して一体感を味わう主観的満足に貢献しているとは言えそうだ」。
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