世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1294

米中貿易戦争と「華為の冬」

古川純子

(聖心女子大学 教授)

2019.02.25

 GAFA(Google,Amazon,Facebook,Apple)がアメリカの雄なら,中国の雄はBATH(Baidu,Alibaba,Tencent,Huawei)である。2018年12月にHuaweiのCFO兼副会長である孟晩舟がカナダで逮捕されたあたりから,5G技術の通信機器有力企業Huaweiは米中貿易戦争の本丸であることが意識され始めた。アメリカ経済制裁下のイランとの取引を問題視しているこの逮捕は,経済問題のみならず安全保障問題をめぐる米中の覇権争いの本格化ともいえる。

 中国国営企業ZTEは,イランと北朝鮮に対する禁輸措置に再違反したとしてトランプ政権によって米企業による半導体輸出を2016年4月に禁じられたため,ZTEの株価は75%暴落して青息吐息となった。2018年8月にアメリカは,米政府と取引をする企業がHuaweiやZTEの製品の使用することの禁止を盛り込んだ新国防権限法に署名した(2年以内に施行)。8月のオーストラリアに次いで12月には日本も追随する姿勢を明確にした。

 アメリカによる制裁後,中国は「中国製造2025」を声高に言わなくなった。

 

 この話の真相は分かりにくい。経済問題と安全保障問題の間に新技術が挟まれていること,中国共産党と中国民間企業との関係などが事を分かりにくくしている。「中国製造2025」の本質,HuaweiやZTEなど鍵を握る企業の位置づけ,性格,その評価がどうにも像をひとつに結ばせないのである。Huaweiは共産党から自立した若者に人気の民主的企業とされる一方,習近平の父が特区にすることを勧めた深圳に鄧小平が作らせた企業とも言われる。また技術革新にひたむきな理想的超優秀民間企業であるとされる一方,製品に設計図にないチップが発見さたという逸話があったり,技術盗難に報奨金を出す国際スパイ企業と名指しされたりと,情報と評価が激しくぶれる。様々な思惑が交錯していることの証左であり,後々重要な焦点になるのかもしれない。2019年1月11日にスパイ容疑で逮捕されたHuaweiポーランドの王偉晶を,Huaweiは早速解雇すると発表した。これはHuaweiの尻尾切りなのか,共産党が送り込んだスパイなのか,真相は藪の中である。

 目先良くても「必ず冬は来る」。これがHuawei 総裁であり創業者である任正非の信条である。実際,任は苦労人である。冬が到来するたびに学び,強くしたたかに蘇ってきた。任が重慶建築工程学院(現重慶大学)で学んだ頃,教師であった父親は文化大革命で命を落としかけた。卒業後,任は軍の工程兵(エンジニア)として軍施設のインフラ建設で貢献したが,父の影響のためか評価を得ることもなかった。文革が終わり党から勲章を授与されるがそれもつかの間,鄧小平の「軍民転換」政策で転属,2度失敗し,軍を解雇され,離婚した。孟晩舟はその結婚で授かった娘である。

 Huawei(1987年創業)は,ZTEに技術の弱みを密告され入札を奪われてから,借りものではない自社技術を磨き続ける執念に拍車がかかり,売り上げの1割をR&Dに充ててきた。技術革新の停滞を避けるため,研究部門と半導体製造に特化し独立させたのがHiSilicon社である。ZTEが米Qualcomからの半導体供給を断たれそうになって絶命の危機に直面しても,Huaweiは子会社のHiSiliconから100%の半導体供給を受けている。Huaweiは,資本に政府資金を入れず上場もせず,100%従業員持ち株制である。任の持ち分は1.4%,残り98.6%を従業員が保有する。3人の副総裁が半年ごとの輪番でCEOを務め,社員は45歳で定年か残留かを選択される選択定年制で若い開発力を維持しているが,株からの配当が高いため離職者からの不満は今のところ少ないという。

 華為(Huawei)という社名に込められた「中華復興」の意味合いと使命感は,戦後本田宗一郎が,日本技術を世界一に押し上げ日本国民の自信を取り戻そうと奮闘したハングリー精神を彷彿とさせる。中国離れした民間企業Huaweiがこの冬の時代にどう対処していくのか,目が離せない。

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