世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1187

北朝鮮と日中韓の関係性:輸送網からの視点

韓 葵花(千葉大学特別研究員 特別研究員)

石戸光(千葉大学 教授)

2018.10.22

 2018年北朝鮮の金正恩委員長の活発な外交が目立つ。2012年の就任から6年目になる今年,3月の中朝首脳会談を初の外交舞台に,中朝首脳会談を3回,韓国との南北首脳会談を3回,米朝首脳会談を1回行った。特に初の米朝首脳会談である,シンガポールでの金委員長とトランプ大統領が握手を交わす写真は記憶に新しい。また南北首脳会談は次回の会談が年内にソウルで開催の方向で約束され,米朝会談もその前後で開催の可能性が高いという。

 北朝鮮と韓国における首脳会談を経済的な面でみると,4月の板門店宣言において「東海線および京義線の鉄道と道路など」をつなぐと北朝鮮に高速鉄道を建設することを明示したことが大きい。9月の平壌共同宣言では「東海・西海岸の鉄道と道路の着工式を年内に開催する」と更に進んでおり,韓国政府は10月に現地調査を行う予定である。今現在,北朝鮮には高速鉄道は無く,韓国側には韓国高速鉄道(KTX)が東西を結んでいる。北朝鮮と韓国はかつて京義線で連結していたが,韓国側の最北端の駅である長湍駅は現在廃線になっている。

 日本国内では,東京と大阪を結ぶリニア中央新幹線の建設が進んでおり,東京―名古屋が2027年,東京―大阪が2045年の開業を目指している。中国では2013年から推進された一帯一路構想で,中国とヨーロッパを結ぶ鉄道(中欧班列)が,2週間ぐらいで中国からヨーロッパの国々に貨物を輸送することができる。

 2018年7月5日付けの長崎新聞ウェブでは,「日韓トンネル」,九州から韓国を結ぶ構想について物流利益は2,253億円と試算,2020年着工・2030年供用開始とすれば,その35〜50年後には建設費が完済されると紹介した。日本から韓国へ,韓国から北朝鮮へ,北朝鮮から中国へ,中国からヨーロッパへ,鉄道で連結される可能性が高くなりつつなる。実現すれば,スムーズな貿易で時間が短縮され輸送コストが安くなるであろう。また,日中韓の間ではサプライチェーンが緊密に行われることで,輸送費の削減は製品の価格低下の影響を与え,企業の集積にも影響を及ぼすこととなる。

 北朝鮮の今現在主要な貿易相手国は中国・韓国・ロシアであるが,2001年には中国が1位,日本が2位,韓国が3位であった。その後,北朝鮮のミサイル発射及び核実験に対する国連安保理決議に基づく措置や独自の北朝鮮との全ての品目の輸出入禁止など措置の実施により2010年以降は,日朝間の貿易は行われていない状況である。

 日中韓の間では中韓FTAが2015年12月に発効済みであり,日中韓FTAや東アジア地域包括経済連携(RCEP)が現在交渉中である。日中韓は世界のGDPの2割強を占め,世界の貿易総額の約2割を占めている。また,日中韓3カ国は互いに主要貿易相手国である。とりわけ日本の総貿易量の21%を中国(1位)が,6%を韓国(3位)が占めている。今現在,安倍政権は成長戦略として,2018年までにFTA比率を70%として目指しているが,現在は36%にとどまる。2018年9月27日に交渉入りに合意した日米物品貿易協定(TAG)については,日米FTAで計算すれば日本の総貿易量の52%となる。日中韓FTAあるいはRCEPの必要性がますます高まり,朝鮮半島における鉄道と道路の連結,日本と韓国を結ぶドンネルの建設も構想される現在,北朝鮮も含めた「日中韓朝FTA」を含めた経済協力の可能性についても大胆に検討すべきであろう。ちなみに東南アジアのミャンマーにおいては,2012年の民政移管の後にASEANの一国としての同国の位置づけが重要なものになりつつあり,このことには,ミャンマーが中国とインドを地理的に結ぶ立地であることが大きく影響している。北朝鮮は東アジアにおいて中国と日本・韓国を架橋する立地であるため,東アジア大の輸送網の効率化のための経済協力にとって必要不可欠なメンバーとなるべきことは言を俟たない。

 北朝鮮と米韓が政治的に近付く現在,日中韓FTAやRCEPの交渉にも影響を及ぼし,とりわけ進展が遅いことが指摘されてきた日中韓FTAにおいて大きな影響力を果たすと思われる。現在は不透明であるが,政治的な関係性の進展が経済的な関係性に影響を及ぼし,例えば経済連携の深化がひるがえって政治的な更なる関係性の好転につながる,という循環が東アジアを安定化させ,経済成長にもつながることを期待したい。

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