世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1138

“強気の独演”が奏功の気配も:トランプ流策弄スライドショウを読み解く

鷲尾友春

(関西学院大学 フェロー)

2018.08.27

 突き動かされるように対外・対内行動に奔るトランプ大統領は,一体何を考えているのか。何故,通常の政治的発想で行動しないのか。そうした疑問を胸に,改めて,昨今の大統領の行動様式を考えると,鮮明になるのは極めて簡単な実態だ。

 第一は,2016年の大統領選挙で主張していた公約の着手への執着だろう(但し,あくまでも着手で,それが奏功することまでも視野には入ってはいない模様)。

 America Firstを主張し,米国が損な役割を演じさせられるのを拒否する。「中国にしてやられてきた」との主張を政策化して実行に移す。NATOに応分の防衛予算の分担を促す。そんな諸々の行動は,全て選挙運動中にトランプが主張していたことばかり。そうした中でも特に,主要敵は中国,その敵とは徹底的に戦うつもりなのだ。

 更に,米国の鉄鋼やアルミニウム産業,ひいては製造業の復活のため,関税賦課という手段を用いて国内市場を保護,以って,米国労働者の職を確保する。EUやWTOなどの多国間組織は余り相手にしない。自由主義陣営の防衛には,米国としての義務は果たすが,それには同盟国にも応分の負担分担を求める云々。

 つまり,これらは,トランプ大統領としては,何も此処に来て急に言い出したことではない。ずっと言い続けてきたこと。選挙の年だから,自分に投票してくれた有権者に,公約通りに行動することで,裨益を返すのは当然のこと。あくまでも,自分に投票してくれたThe forgotten men and women will never be forgotten againの姿勢を貫いているに過ぎないのだ。

 そんな眼で,本年春のニューヨークタイムズを読み返していると,面白い記事に行き当たった(4月28日;Trump’s Role in Midterm Elections Roils Republicans)。その記事の概要は次の様なもの。

 「議会共和党指導部,更にはトランプ政権の側近の一部からさえ,トランプ大統領が事前に準備した原稿を無視して,自己流の演説を多用している事態に懸念を感じている。それでは,11月の中間選挙で共和党は議会両院共に優位を失う可能性が高い,というのだ…しかし,トランプ大統領は,個人の感触として,そんなこと(下院での実際の逆転,上院での逆転可能性)は起こり得ない,と直感している…」。

 「共和党の議会関係者が,万が一,両院で民主党が多数派になれば,大統領の嫌う弾劾の動きが出てくる可能性大,と幾ら説得しても,大統領は,そんな事態は生じない,の一点張り…この伝統的な議会流発想とトランプ流の政治感の違い,このギャップは容易に埋められそうにない…」。

 第二は,しかし,そうした大統領の個人的体感に基づく主張が,米国有権者の多数に受け入れられているとは限らない点だ。もちろん,トランプはそんなことは周知の上。彼にとっては,「自分を支持してくれた層の有権者に報いればいいのだ」との主張に拘る。そこには,2016年大統領選挙での個人的成功体験が重なっている。

 そんな感想を以って,少し独断を増せば,現在のトランプの行動の基には,かつての選挙事務局長バノン流の思考とアドバイスが鮮明だ。ホワイトハウスを追われたバノンが,今なおトランプの背後でアドバイスを行っている。そんな夢想も沸いて来ようというもの。

 第三は,第二とも関わるが,トランプ大統領は,必ずしも全米の有権者に均質にアプローチしているわけではない点だ。亦,応援対象の議員たちも,自分との距離感の近い議員に絞っている。要は,大統領選挙時に,自分を支持してくれた有権者が多い選挙区,そして自分に共感を示す議員の選挙区を選んで,そこの有権者を対象に,トランプ流主張を発信しているのだ。

 それはどのような選挙区か…。此処でもNY Timesを引用させてもらおう(7月30日;99days to go, and the Midterm Elections Battleground Is Not What was Expected)。

 「今回,下院での共和党議員の引退は42名にも及ぶ…しかも今回は,保守的有権者層が多い選挙区でも,個々の民主党候補者たちが善戦している…」。

 「現時点では,選挙専門誌The Cook Political reportによると,共和党現職が占める60の下院選挙区で,情勢が民主党に有利の方に傾いていると言う…現行,下院では23議席の差で共和党が優位(だが…現時点の分析では,共和党の多数派維持はかなり困難)…」。

 「こうした状況だからこそ,トランプ大統領は,自らが争点に掲げる不法移民と通商の2つのテーマで主張を激化させ,共和党が不利化している60の下院選挙区向けに,その過激主張をぶつけているのだ…これら60の選挙区は,2016年大統領選挙では,共和党トランプ支持が,民主党クリントン支持を,平均すると3ポイント差で上回った選挙区だったのだから…」。

 こうした大統領の中間選挙へのアプローチ(別の視点から見れば,米国有権者の二極化を促進するやり方)は,今のところ,奏功する兆しが窺える。

 たとえば,直近の世論調査などを見ると,共和党の大統領という事実に加え,中国や北朝鮮,イランといった国々を翻弄しているイメージ創出などで,共和党支持者の90%がトランプ大統領を支持している。亦,Independence(無党派)有権者も,トランプ支持が従前は3割強に過ぎなかったのが,現状では4割近くに上昇してきた。

 政治リスク分析を専門とするEurasia Groupの予測でも,「民主・共和両党の内,どちらの党が議会を制するのを好ましいと思うか」との質問に対し,本年1月には“民主党”との答えが“共和党”との答えを15ポイント近く引き離していたが,6月末には5〜7ポイントにまで差が縮小している。

 更に,同じEurasia Groupの予測では,上院での共和党優位が保持される確率は,5月中旬には60%だったそうだが,7月中旬には75%にまで上昇してきている(上院では,民主党現職の改選が,共和党よりはるかに多いため,その分,民主党が不利)。

 第四は,上述の様な選挙戦術指向の行動様式に拘れば,どうしてもトランプ大統領個人が前面に出てくる,という現実だ。言い換えると,対決し,交渉する主役は,トランプ政権という組織体ではなく,あくまでも顔の見えるトランプ本人でなければならないのだ。そして,それが亦,トランプ本人の性格にも合う。

 繰り返すと,この様な状況下では,外交におけるパーフォーマンスにせよ,国内的政策の打ち出し方にせよ,トランプ本人が常に主役を張ることになる。要は,最初から最後まで,いずれもトランプ劇場なのだ。

 そしてここから導かれるパターンは,結局はトランプを引き出さないと,決着を見ないという現実だろう。北朝鮮の金委員長は,それをやった。対中強硬姿勢にせよ,対イラン強硬姿勢にせよ,トランプは,首脳会談で形を付けるつもりなのだ。もっとも,トランプにとってこの二国は,21世紀の米国の政治と経済の安全保障に関する国々であるため,短期決着させるつもりも余りなさそうだが…。

 こうして見ると,日本の場合も,愈々始まる日米経済協議といった,閣僚レベルのルートだけでは,トランプが提起する問題を決着させるのは難しいかもしれない。

 否,むしろ逆に,それこそトランプが自分の選挙期間中に唱えていた「円安是正という為替問題」を,その場で浮上させてしまう可能性すら案じられる。皮相的に見ると,日米経済協議が,問題を正式に提起する場としてのみ機能し,問題を解決する場にはならない可能性もあるわけだ。

 トランプ大統領にとっては,「最後に自分が出て,決着をつける(内容で進展がなくとも,一応の決着を付けた形を取る)」ことこそが,流儀なのだ。ここら辺の処を睨み,潜在的な日米軋轢の緩和に,安倍・トランプの特別な関係をどう生かすか,安倍総理としても真骨頂を問われる局面だろう。

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