世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1135

着実に実施されつつあるAEC2025

石川幸一

(亜細亜大学 教授)

2018.08.20

 経済共同体が創設された2015年は,ASEANの経済統合は日本のメディアでも大きく取り上げられ,セミナーなども数多く開催された。その後,ASEANの経済統合への関心は薄れているようである。ASEANはASEAN経済共同体(AEC)2025を新たな統合の目標としている。6億を超える人口を擁し,着実な経済成長を続け,生産基地および新興市場として世界から注目されているASEANは,経済統合を深化させるとともに新たな課題に取り組んでいる。そのマスタープランがAECブループリント2025であり,その実施状況は注視する必要がある。

 日本ではほとんど報道されないが,AEC2025は着実に実行されつつあると言ってよい。まず,CLMV(カンボジア,ラオス,ミャンマー,ベトナム)の残存関税(全品目の7%相当)が2018年1月に撤廃された。ASEAN6(ブルネイ,インドネシア,マレーシア,フィリピン,シンガポール,タイ)は2010年1月に関税を撤廃しており,ASEANは名実ともに自由貿易地域を実現させたことになる。

 ASEANは開かれた経済統合(オープンリージョナリズム)であり,ASEAN域外とのFTAを積極的に締結し,グローバルなバリューチェーンへの参加を進めている。すでに5つのASEAN+1FTAが発効しているが,2017年11月にASEAN香港FTAとASEAN香港投資協定が署名された。香港はASEANとのFTAが発効すればRCEPに参加する可能性が開かれ,香港を経由する中国との中継貿易でRCEPが使えることになる。既存のASEAN+1FTAでは,ASEAN中国FTAの品目別規則についての交渉,ASEAN韓国FTAのセンシティブ品目の自由化交渉,AJCEP(ASEAN日本包括的経済連携協定)にサービス貿易章と投資章を組み込む最終調整が行われている。

 サービス貿易では,ASEANサービス枠組み協定(AFAS)の最終段階である第10パッケージの交渉が行われており,2018年中に第10パッケージ実施のための議定書署名の予定である。ASEANサービス貿易協定(ATISA)も2018年の署名を目指している。ASEAN域内の熟練労働者の移動の円滑化を目指すASEAN自然人移動協定(AMNP)は2016年6月に発効した。

ASEANシングルウィンドウの運用を開始

 貿易円滑化の旗艦プロジェクトはASEANシングルウィンドウ(ASW)である。ASWは。通関手続きを電子化するナショナル・シングル・ウィンドウ(NSW)を各国間で相互に接続し電子データの交換を行なうプロジェクトである。ASWは,インドネシア,マレーシア,シンガポール,タイ,ベトナムの5か国がATIGAの電子原産地証明書(e-Form D)の試験送信を行ってきたが,2018年1月1日に電子的交換が開始された。電子植物検疫証明(e-Phyto)と電子税関申告書(e-ACDD)の電子的交換も検討している。ASWの運用を監督するプロジェクトマネジメントオフィス(PMO)を設置し,ASW法的枠組み議定書が2017年8月に発効した。AEC2025では貿易円滑化が重視されている。貿易取引コストを2020年に10%削減しASEAN域内貿易を2025年までに倍増することを目標とする「AEC2025貿易円滑化戦略行動計画」が2017年の第31回AFTA協議会で採択された。ATIGAの原産地証明に関するASEAN自己証明制度は2018年中に実施する予定である。

 電子商取引では,ASEAN電子商取引調整委員会(ACCEC)が設立され,電子商取引作業計画(AWPEC)2017-25が採択された。ASEAN電子商取引協定は2018年の署名を目指している。さらに,ASEANデジタル統合枠組みの策定が進められる。知的財産では,ブルネイが2017年1月,タイが同11月にマドリッド協定議定書に加盟し,カンボジアが2016年9月に特許協力条約に加盟した。競争政策では,ASEAN競争行動計画2025による効果的な競争レジームの確立を進められており,競争のための能力醸成ロードマップ(2017−20)が承認され,電子商取引と競争ハンドブックが2017年8月に刊行された。

 このように様々な分野で地道であるが着実にAEC2025の行動計画が実施されている。その多くはAEC2015の目標が実現していない分野であるが,電子商取引協定など新しい取り組みも行われている。一方で経済統合に逆行するような措置が行われたのは残念である。ベトナムは2017年に自動車についての新たな非関税障壁を導入した。ベトナム政府は2017年10月に「政令116号」を公布,他国政府が発行する認可証の提出と輸入ロットごと・車両仕様別に交通運輸省登録局の排気量と安全性能検査を受けることを義務付けた。これは,ベトナムの自動車関税が2015年1月の50%から16年に40%,17年に30%,18年1月0%と急激に削減・撤廃されたことが背景にある。非関税障壁の撤廃はAEC2025の重要な課題である。

 2018年は,ASEANサービス貿易協定(ATISA)の締結,ASEAN電子取引協定の締結,ASEAN全体での原産地証明の自己証明制度の導入などが予定されている。これらは日本企業の期待の高い分野であり着実な前進を期待したい。

 

付記:本論は世界経済評論9/10月号掲載の拙論「実施に移されるASEAN経済共同体2025行動計画」の一部を転載したものであり,AEC2025の全体像については同誌を参照頂きたい。

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