世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1059

トランプの矢継ぎ早の決断とその後遺症についての一考察(その3):結果を予見しないままでの,生存本能の発現

鷲尾友春

(関西学院大学 フェロー)

2018.04.23

 いずれにせよ,こうした解任を連発する,ドラスティックな攻撃的姿勢を,この時期に公然化させている事実そのものにも,トランプ特有の“困難に際しての対処の知恵”が強く表れている,と解すべきだろう。要は,「困難に直面した場合,強い攻撃的姿勢を取るべし…」。彼は,そんな中央突破的やり方で,ビジネスを成功させてきたのだから…。

 トランプ大統領は,北朝鮮の金委員長が韓国経由で会談を持ちかけてきたのを受諾した際,何故,北朝鮮が当該の提案を持ち出したかについて,「恐らく,それは,私の所為だろう」と冗談めかしに発言したが,心中でも,そう思い込んでいたに違いあるまい。

 しかし,小説家風にイメージを膨らますと,「会談への目途がたった」,そう信じようとした時,それまで対話による解決を志向していたティラーソン国務長官が「どのような会談にするか,少なくとも,その準備のための交渉が必要」等と言い始める。激情型のトランプ大統領の性格からすると,そうした態度そのものがまた,カチンとくる原因となったのは,想像に難くあるまい…。

 さらに,歴史探偵にでもなったつもりで,突拍子もないアナロジーを使えば,この間のトランプとティラーソンの間の空気は,あたかも,武田勝頼を滅ぼした直後の,織田信長と明智光秀のやり取りを連想させる。

 宿敵を滅ぼした信長に対し,光秀は祝意を述べた後,「これで我ら家臣どもも,努力の仕甲斐があったというもの」という,一言を付け加えたとされる。聞いた信長はいきなり,光秀を足蹴にし,「お前が何をしたというのか」と烈火の如く怒り出す。「仕遂げたのは俺であって,お前は何を努力したのか…」というわけだ。

 そうした解釈が合っているかどうかは別にして,直近のトランプ大統領の一連の決断(鉄鋼やアルミへの関税賦課,北朝鮮との首脳会談受諾,中国への知的財産権侵害を理由とする大規模な制裁・輸入制限宣告,ロシア外交官の大量追放等など)が,今後,どういう経緯を経て,どのような連鎖反応や波及効果を生むことになるのか,推測を交えて(推測を交えざるを得ないが,というのが正確だろうが…),2〜3気になる点を列挙しておこう。

 先ず,第一は,トランプ大統領が,本来は,政策で対応すべきところを,政治的行動(選挙モード)で対応している点だろう。裏を返せば,行動の結果,派生する政治的現実を,本当は十分理解した上での決断なのか,大いに疑問に感じざるをえない点である。

 自分の支持基盤に,強硬姿勢を見せることを国内での主目的に,返す刃で相手国を威嚇し,交渉に持ち込もうとする。そんな意図があからさまに当該相手に見えること,それも問題だろう。

 大統領の強硬姿勢が,必ずしも“骨の髄からの強硬だろうか”,という点,つまりは,「所詮,交渉に持ち込むための強硬でしかないのではないか」と相手には映りがち。そうなると,そうは見させじと,トランプはさらに強硬姿勢を強めざるをえなくなる。そこには,強硬姿勢顕示のエスカレーションの図式が垣間見られるというわけだ。

 それ故,外部観察者の目には,「現状,正面衝突は避けたい,との願いは,相手国側にも強いはず。だから,トランプ的やり方でも,確かに交渉は始まるだろう。しかし,交渉結果はまた別物」と見えてくる。

 例えば,北朝鮮問題。3月13日に出されたユーラシア・グループのスコット・シーマン研究員の予測でも,「トランプ・金会談は実現する可能性が高い(70%の蓋然性)が,続く交渉の結果としては,米国が目的とする朝鮮半島の非核化実現は困難:unlikely outcome」との見立てとなっている。だとすると,交渉の結果は,北朝鮮の核開発凍結を認めるだけのものともなりかねない。反面,北朝鮮は,その見返りにもっと大きな獲物を手にしてほくそ笑む,という結末予測である…。

 もちろん,米国の政策立案サークルは賢者の集まり。

 米国の共和党系議員たちが北朝鮮に,「米国大統領を弄ぶようなことをすれば,どうなるか,わかっているか…」との警告を発し,ホワイトハウス内部では,多分,万が一に備え,大統領が交渉着手を断念出来る理由付け等も予め用意されるはず。さらに,交渉が不成功の場合,当然,軍事的強硬策を模索せざるをえなくなるが,そうした準備オプション策定にも,今後,一層の努力が傾注されることになるだろう(マクマスターからボルトンへの,国家安全保障担当大統領補佐官の交代も,恐らく,こうした“違い”の意味合いを濃くして行くことになるはず)。(つづく)

関連記事

鷲尾友春

国際政治

アングロアメリカ

最新のコラム