世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4179
世界経済評論IMPACT No.4179

動き始めたノルウェーの大規模CCSプロジェクト

橘川武郎

(国際大学 学長)

2026.01.26

 CCSとはCarbon dioxide Capture and Storageの略称で,日本語で表現すれば,「二酸化炭素回収・貯留」となる。

 今,日本ではCCSに対する関心が高まっている。2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画(第7次エネ基)は,「天然ガスはカーボンニュートラルの実現後も重要なエネルギー源である」とする新方針を打ち出した。それまでは,日本の政府も都市ガス業界も電力業界も,カーボンニュートラルが実現した暁には,化石燃料である天然ガスは「使われなくなる」と見通していた。ところが,第7次エネ基はこの見通しを真っ向から否定し,天然ガスはカーボンニュートラル実現後も使い続けられるとしたのである。

 一方で,第7次エネ基は,カーボンニュートラル実現の旗をおろしたわけではない。天然ガスを使い続ければ,そうでない場合に比べて,当然,二酸化炭素(CO2)の排出量は増える。それでもカーボンニュートラルを実現可能とするためには,CO2の回収・吸収量も,並行して増大させる必要がある。そのCO2の回収・吸収量の増大策として,CCSにはカーボンクレジットによるオフセットやDAC(CO2の直接空気回収)などととともに,高い期待が寄せられているのである。

 世界的に見ても,CCSが本格的に社会実装されている事例は多くない。2025年11月,数少ない事例の一つであるノルウェーのノーザンライツ(Northern Lights:英語でオーロラの意味)プロジェクトを見学する機会があった。同プロジェクトは,エクイノール,シェル,トタールエナジーが均等出資する共同事業体が運営している。訪問3ヵ月前の2025年8月に,CO2の貯留を開始したばかりだ。

 ノルウェー第2の都市ベルゲンから北へ車を走らせること約1時間。北海近くの内海の沿岸に,突如として12基のCO2タンクが姿を現す。11月のノルウェーにしては珍しい青空をバックに,ピカピカの搭状のタンクが束になって屹立している。

 その近くには,長さ130mのCO2運搬船が停泊している。LNG(液化天然ガス)で動き,7500㎥のCO2を運ぶ。CO2の供給源は,ノルウェー国内のセメント工場等にあるCO2回収プラント,オランダの肥料メーカー「ヤラ」のアンモニア工場,デンマークのエネルギー企業「オーステッド」のバイオマス事業所などだ。

 ノーザンライツプロジェクトでは,第1フェーズとして,150万トンのCO2を貯留する。運搬船で集められ,いったん12基のタンクに収納されたCO2は,パイプラインを使って沖合110kmの海底まで運ばれる。そこまで,CO2は零下26℃の状態に保たれた液体のままだ。その後CO2は,海底に設置された圧入装置によって海底の地下2600mの地点に送られ,液体と気体の中間の超臨界の状態に姿を変えて,効率的に貯留される。貯留対象層は油ガス田開発で圧入有効性や帽岩の漏洩抑止能力が確認されている地層であるが,万が一の際の海洋汚染を避けるために,貯留箇所については帯水層状態にある位置を選択しているそうだ。

 海底に設置された圧入装置は,CO2タンクがある地上のサイトから,遠隔操作される。その圧入装置に対しては,近くのエクイノールが運営するOseberg油田の掘削プラットフォームから,電力などのユーティティが供給されている。

 ノーザンライツプロジェクトの第1フェーズでは,必要資金の80%がノルウェー政府から支給されている。ノルウェーは,電源の90%以上を水力発電に依存し,電気自動車の普及率も極めて高い。一方で,世界有数の産油・産ガス国でもある。ノルウェーから輸出された原油・天然ガスは,他国でCO2を排出する。それをオフセットするために,CCSに積極的に取り組む。ノーザンライツプロジェクトも油ガス田地帯に立地するが,アメリカで見られるようにEOR(原油増進回収)と結びつけることは,行っていない。カーボンニュートラルの実現に向けて真剣に取り組んでいるわけであり,世界の産油・産ガス国の将来のあるべき姿を示す,モデルケースと言えるだろう。

 ノーザンライツプロジェクトは,CO2の供給源が確保されれば,設備を拡張して第2フェーズに進む予定である。その場合,CO2の貯留規模は500万トンに達し世界最大級のCCSプロジェクトが出現するわけである。

 ノーザンライツプロジェクトの現場では,第2フェーズに向けての準備が着々と進められているように見えた。増設予定の9基のCO2タンクがすでに到着して敷地内に保管されていたし,第2フェーズで諸装置が建設される予定の土地も確保されていた。

 第2フェーズでは,新たにもう一つの埠頭を建設する。CO2運搬船についても,ノーザンライツは目下2隻を保有しているが,さらに2隻を建造すると聞いた。

 見学を終えて振り返ると,ノーザンライツプロジェクト全体が,冬に向かう北国の強くない陽光のもとでも,輝いているように感じられた。

 ノーザンライツプロジェクトを見学後,オスロに移動してムンク美術館を訪問した。同美術館に対しては,ノルウェーで石油上流事業に携わる出光興産が,長らく資金的支援を続けてきた。その支援は,現在では,インペックスと出光興産との合弁会社であるIIN(INPEX IDEMITSU NORGE)に引き継がれている。

 美術館の専門家の詳しい説明を受けながら,「叫び」をはじめとするエドヴァルト・ムンクの作品をじっくり鑑賞した。充実した晩秋のノルウェー行であった。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4179.html)

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橘川武郎

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