世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2769
世界経済評論IMPACT No.2769

低空飛行が続く韓国の尹錫悦政権:政権発足6か月の評価

上澤宏之

(国際貿易投資研究所 客員研究員・亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)

2022.11.28

 韓国の尹錫悦(ユン・ソンリョル)大統領は11月10日に就任6か月を迎えた。5年ぶりに保守勢力が政権を奪還した喜びも束の間,政権発足直後から支持率の低迷が続いており,尹政権にとって大きな悩みの種となっている。不支持の理由として「経験不足」や「資質を持たない」,「無能」などを挙げる国民が多い。検察官一筋の人生を歩み,検察総長(検事総長)まで上り詰めたものの,政治経験の無さが裏目に出ているかたちだ。

 韓国ギャラップの調査を基に就任6か月時点の歴代大統領の支持率を比較すると,歴代最低であった李明博大統領(2008年8月)の24%に次いで,盧武鉉大統領(2003年8月)とともにワースト2位タイとなる30%という低い結果を記録した。前任の文在寅大統領(2017年11月)は74%,弾劾罷免された前々任の朴槿恵大統領(2013年8月)でさえも59%の高い支持率を誇ったのと比べると見劣り感は否めない。

 もう一つ尹大統領の支持率をめぐって興味深いのは,内外の情勢変化に殆ど影響を受けないことだ。最近ではソウル市・梨泰院の雑踏事故(10月29日)で多くの市民が犠牲になったが,警察や地元自治体の対応に批判が集中し,尹政権の管理責任を問う声はそれほど多くない。大惨事を政争の具にするのは避けたいという国民の自戒自制の念も根底にあるようだ。振り返っても6月の統一地方選後から今秋にかけて与党「国民の力」の李俊錫・前代表と党運営の主導権をめぐって泥仕合,内紛劇を繰り広げたものの,世論への影響は小さく,むしろ保守勢力が尹大統領を中心に大同団結する好機とさえなった。また,最大野党「共に民主党」の李在明代表が城南市長時代に関わった宅地開発をめぐる「大庄洞ゲート」により李代表側近らが相次いで逮捕されているにもかかわらず,尹大統領の追い風にはなっていない。さらに,北朝鮮がICBMを含む各種ミサイルを連日発射し半島情勢が緊迫化するものの,かねて安全保障問題を重視してきた保守与党に有利に働いているわけでもない。今月にはASEAN首脳会議やG20,APECに出席し,日米韓,米韓,中韓,日韓など一連の首脳会談を精力的にこなしたが,外交成果が評価されることもなかった。

 背景の一つには,李在明代表との大統領選を制したものの,0.73ポイントという僅差の勝利が物語っているように韓国における保革対立,国民分断の根が想像以上に深いことがある。尹大統領の支持率30%の内訳をみると,中道・無党派層が完全に離脱した状態で,保守の岩盤支持層のみが政権を支えているのが現状だ。これでは支持率の変動は起こりえない。さらに低迷する支持率を通してみると,本人や家族のスキャンダルをめぐって中傷合戦を繰り広げた先般の大統領選で李在明代表と「非好感度」歴代ワーストワンの座を競い合った嫌われぶりも健在のようだ。

 政治や外交で得点稼ぎをしようにも,国民の評価は「保守対革新」といった理念的な対立に縛りつけられ,是々非々的な思考・判断が難しいのが現在の韓国が置かれている状況だ。文在寅大統領が政権後半期に40%前後の支持率を一貫して維持したのも,保革の対立構図を政権運営に巧みに利用したことにほかならないが,議会勢力が与野党で逆転している尹政権下ではこの種の政治手法にも限界があろう。低空飛行どころか一歩対応を誤れば「尹錫悦号」の墜落さえもありうる。

 韓国では国民の政治思想的分布が保守30%,革新30%,中道・無党派層40%といわれている。すなわち40%を占める中道・無党派層の取り込みが政権の維持・獲得において重要なポイントとなってくるのだ。ひっくり返せば前政権との対決,保革の対決構図から得られるものが国民分断の深化と固定化しかないことを強く意味しているともいえる。

 こうした中,政権浮揚の鍵を握るのはやはり経済だ。韓国経済新聞のサイト「韓経ドットコム」(11月13日)は,盧武鉉及び李明博大統領の支持率が政権発足直後を除けば,2年目から回復し始め,3年目で支持率が最も高かったとの分析記事を掲載している。

 具体的にみると,盧大統領の場合,政権発足2003年の経済成長率は前年の7.7%から大きく下落した3.1%であったが,2004年5.2%,2005年4.3%,2006年は5.3%まで回復した。これに合わせて発足1年目の第4四半期に22%まで下がっていた支持率も,2年目の第2四半期に34%まで上がり,3年目の上半期には30%台を継続的に保つまで安定した。また,李大統領の場合も,政権発足2008年の成長率は前年の5.8%から3.0%まで下がった上,2009年にはリーマンショックの影響で0.8%まで急落した結果,支持率も2008年の52%から2009年には27%まで下落した。しかし,3年目の2010年に成長率が6.8%まで上昇すると支持率も50%近くまで回復したと上記記事は指摘する。これらの視点は成長率と支持率が一定の相関関係にあり,尹大統領の支持率も景気が上向けば回復することを示唆している。

 一方,韓国銀行(中央銀行)のファン・サンピル経済統計局長は10月27日の記者会見で,2022年の成長率予測値である2.6%(8月25日に2.7%から下方修正)の達成は可能だと念を押したものの,世界経済の減速が著しい中,景気の先行きに対する不透明感が増しているのは明らかだ。特に,輸出依存度の高い韓国にとって否定的な影響が避けられないのはいうまでもない。さらに,政府系シンクタンクの韓国開発研究院(KDI)は11月10日,2023年の経済成長率について輸出の増加率が大きく鈍化する上,投資の不振が続くため1.8%の成長にとどまるとの見通しを示している。

 最後になるが,現在,尹政権の韓国と激しく対立している北朝鮮をみても尹大統領の弱点が経済にあることをとうに見透かしているようだ。「現在の南朝鮮(韓国)の経済と民生は,尹錫悦逆賊一味の無知無能と反人民的統治により深刻な危機に陥っている」(11月22日付け北朝鮮サイト「我が民族同士」)と虎視眈々と革命の好機をうかがっている。

 政権発足6か月を迎えた尹政権にとって,経済の立て直しに向けた全国民的な知恵を結集する時が訪れているようだ。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2769.html)

関連記事

上澤宏之

国際政治

アジア・オセアニア

最新のコラム

おすすめの本〈 広告 〉